作品タイトル不明
光り始めた才能の片鱗
トラウマに苦しむ、少女エスナ。彼女の過去は、悲惨なモノだったかもしれないが……その悪夢から這い出ようと頑張っている姿は、好ましく思う。
彼女は日々、アオイと一緒に訓練をして約一ヶ月半経ったころには、ほとんど気にする事がないくらいトラウマを克服していた。
元々、努力家なのだろう。彼女の特性と相まって、ぐ〜んと実力を伸ばしている。
この頃になると、俺達は二人で、連携の練習をしたりした。
俺は槍装備の魔道士。エスナさんは斥候。
俺が足止めとトドメ。エスナさんは索敵と撹乱。
そんな感じで、冒険者パーティーとしての練度を高めて……そろそろ、ダンジョンに挑もうと思った。
冒険者ギルドの受付嬢フィオナさんに、相談してみないとね。
「そうなんですね。分かりました。ルディ君は、どこのダンジョンに行くのか決めているの?」
「はい、『新緑の森』に行こうと思います」
この迷宮都市ビギナリアの近隣ダンジョンの一つに、『新緑の森』と呼ばれるダンジョンがある。
ここはフィールド型ダンジョンと呼ばれるモノである。一定の自然エリアがダンジョンに変貌した特殊ダンジョンになる。
森の中に様々な薬草や植物などの資源があるが、魔物も当然徘徊している。
ただここで出てくる魔物は、一体ずつでしかも弱い昆虫や動物魔物が多めだ。
「新緑の森ですね。分かりました。さすがルディ君はリーダーですね。良いチョイスだと思います。それでは、気を付けて行ってらっしゃい」
フィオナさんは手をヒラヒラ振り、笑顔で見送ってくれた……よし、頑張らないと。
俺とエスナさんは徒歩で、迷宮都市ビギナリアから二時間のフィールド型ダンジョン『新緑の森』へ来た。
新緑の森……迷宮都市ビギナリアでも、比較的攻略しやすいとされたフィールド型ダンジョンだ。
資源も低級だが、薬草類・木ノ実・木材など豊富に揃っていて、新人冒険者に成り立ての資金調達用に良く利用されているダンジョンだ。
「う〜ん。やはり森だけあって視界は悪いから、エスナさんは索敵に気を付けて。五感をフルに使って索敵だよ。俺もするけど、練習も兼ねてね……」
「……はい、がっ、がんばりましゅ……」
あっ、噛んだね。自分でも気が付かない程、緊張してるみたい。ちょっとカワイイかも……
スライムと同じようにプルプルしている、エスナさんの手を握ってやり落ち着かせる。
俺の肩に乗ってるアカネが、触手を伸ばし俺の頬をペシペシしている。ヤキモチ焼き屋さんだな。
そんな感じで、森の中に入って行く。当然、アオイに分裂体で散らばってもらい、各採集をして貰う。
俺達は辺りを伺いながら、森の中を進んでいく。
前に俺、後ろはエスナさんの一列だ。
「? 左から何か来ます」
いきなり、後ろから声をかけられた。
左を警戒すると……すぐに俺の探知にも反応がある。
グラスホッパーと呼ばれる、バッタの魔物。体長五十センチもある。ちょっとキモいな。
ただ、弱い。スライムよりは強いけど、突っ込んでくる体当たりしか攻撃がない。
グラスホッパーは俺の目の前で跳ね上がり、体当たりをするが俺は槍の石突き部分で跳ね上げ、エスナさんが浮いている所にトドメのナイフ。
よし、練習通り出来ているね。
「今のは良い感じだね。この調子で行こう」
「は、はい。分かりました」
過度な緊張は無くなったみたい、良かった。
その後も、入り口付近だけど慎重行動していたが、『ふっと』気が付いた事があった。
エスナさんだ……彼女は必ず、敵の接近に始めに気がつく。索敵能力がすごく高い。アオイの分裂体からの情報は別だが、それ以外はエスナさんが一番だ。
これは想像でしかないが、生まれて来た時からエスナさんの周りは悪意が溢れていた。だから、五感だけの感知だけでなく、経験則や場の雰囲気などを読んでいるのでは? トラウマの原因になった暴力や嫌がらせが、逆に彼女の索敵能力を飛躍的に伸ばしたんじゃないかな? 彼女にはまだ言わないけど……いずれ自信がついてきたら、教えてあげる事にしよう。
俺達は戦闘だけでなく、森での歩き方や薬草の採集の仕方など冒険者パーティー『クリムゾンダンス』に教わった事を、エスナさんにも伝えて行く。
アオイの分裂体にはそのまま採集してて貰い、俺達は二時間くらいの探索で、冒険者ギルドへ戻って来た。ダンジョン初日から、無理はしないよ。
迷宮都市ビギナリアの正門を通り過ぎたエスナさんは『ふぅ』と一息ついた感じだったので、やはり緊張で疲れがあったのだろうね。
俺達は、冒険者ギルドまで来た。混雑はいくらか解消された雰囲気だ。それと成人したばかりの新人冒険者達が落ち着いてきたのか、ザワザワした感じが無くなってきたね。
俺達は、受付カウンターに向かい歩いて行く。
その様子をフィオナさん以外の受付嬢が、クスッと嘲笑う。ああ、忘れてたよ。俺は片腕のスライムテイマー、エスナさんはコミュ症全開の臆病少女だからね。
侮られているのだろうな。
まあ、知ったこっちゃないな。
「フィオナさんただいま〜。帰ってきたよ」
「……ただいま、です」
俺は堂々と手を上げて、エスナさんは俺の後ろからピョコンと頭を下げた。
「おかえりなさい。ルディ君、エスナさん」
俺達を出迎えてくれたフィオナさんは満面の笑みだった。良かった、この子が専属受付嬢で……カワイイしね。