軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チビッ子名探偵と在ってはならないもの。

じっとしているのも暇なのでぽやぽやとエマは昨夜のお風呂を思い出していた。

せっかくのお泊まりだからと三兄弟は温泉に入らせてもらえることになった。この国では珍しい源泉掛け流しのバレリー領自慢の天然温泉である。

ローズ様公認の美肌の湯は透明でさらっとしているのに肌がしっとりすべすべ艶々になる。

ローズとヤドヴィガとエマの三人が貸し切り状態で足を伸ばして入っても湯船は広く解放感抜群であった。

そして、入浴中鳴り響く港の美女センサー。

ドレスの上からでは判らないあれやこれやも邪魔するものは湯気くらいなので見放題とも言えよう。

ローズ様……流石です‼️

お腹めっちゃ綺麗!おへそが縦になってる!お尻もしっかり鍛えてらっしゃる!なにはともあれ爆乳!爆!乳!なに?あの形の良さ!重力は?なんで垂れないの?

隣は壁を隔てて男湯となっており、エドワード王子とゲオルグ、ウィリアムも入浴中のため、大きな声を出さない様にローズの美を称える。

「ローちゃんの体に死角は無いね。360度完璧!」

羨ましいなんておこがましくて思えない。ただひたすらありがとうございますと言いたい。

スィーと水を掻き分けローズがエマの近くに寄る。少しイタズラっぽい笑みを浮かべ聞いてくる。

「触ってみる?」

どこを……なんて分かりきったこと。

「いっいいの!?」

ふふふと妖艶に笑って頷くローズを見るや無意識?いや本能で右手が勝手に爆乳へと伸びる。

「ふっふおぉぉぉぉぉぉお」

むにゅうからのぼぃ~ん。

柔らかいのに弾力がある……ナニコレ?ナニコレ?私知らない。こんな感触私知らない。

前世において体験することのなかったボリューム感に夢中になりつつも押し寄せて来る悲しみ。神様のえこひいきが酷い。

「ヤドヴィも遊ぶー!」

ヤドヴィガが後ろから抱きついて来る。

ギュと一回力を入れたあと、ん?と言ってエマの体を触る。

「ちょっっヤドヴィ!くすぐったい!」

「お母しゃま!!エマちゃんすべすべー!」

「え?ちょっと触らせて!」

ヤドヴィガとローズが二人揃ってエマを触り倒す。

「ちょっそこは!ダメだって!」

弱い脇腹を集中攻撃され、悶える。キャッキャッとヤドヴィガは遊び感覚だが、ローズの目が真剣なことに気付く。

「エマちゃん。なんなのこのすべすべは!?温泉を差し引いてもずっと触ってたいくらいの……なんなのこのすべすべは!?」

「ローちゃん!ちょっと声のボリューム絞ろうか?っひゃっ!!ちょっとそんなトコ……やめっひんっダメだって!」

足の裏まで触られる。少女に踵チェックは時期尚早ではないか?どうやら美女センサーを持っているのは港だけではないらしい。

「このすべすべの秘密教えなさい」

急な命令口調にちょっとだけ焦る。

11歳女子に本気で美容法を聞いてくるなんて貪欲にも程がありませんかローズ様!?でも圧が圧だけに、真剣に何かないか考える。思い当たることが一つだけ浮かんだ。

「繭から絹糸を取るときに水に浸けるんですけど、パレスでは水は貴重品なのでその時の浸けた水をお風呂に再利用して使っているんです。そのせいではないかと……」

パレスの生活用水は主に地下水で賄われている。大きな川も池も少ない土地で、水は井戸から汲み上げなければならないため大事に使っている。

エマの小屋で使う水はもともと他領から買った品質の良い水で値段もそこそこする為にもったいないから屋敷で再利用される。新しく井戸から汲むよりも労力が少なくてすむので使用人にも好評だ。

繭から溶け出したたんぱく質やらなんやらが美肌に効果的に作用しているのでは?と、思い至ったは良いが成分分析なんてこの世界では難しいので確証はない。

「絹ってお肌にいいの?」

美の追及に余念がないローズが食い付く。さっきからプレッシャーに耐えきれず敬語になってしまう。

「はい。寝るときも絹の寝衣をおすすめします!今日、一着作って持って来ているのでお気に召すようでしたら何着か王都に届けますよ」

「エマちゃん本当に最高だわ!」

絹は高価な素材で、普通はパーティードレス以外には使われないがスチュワート家にはエマシルクをはじめ、他にも色々試作した絹が有り余っているので有効活用できるのはこちらも助かる。それにローズ様の美に対する目は確かなのでモニターとしての役割も十二分にこなしてくれるだろう。何気にウィンウィンの関係だったりする。

……ちゃん……!……エマちゃん……!

「エマちゃん!」

ヤドヴィガに呼ばれ、意識が戻る。

「ごめんヤドヴィ、ちょっと考えごとしちゃってた。あー見つかっちゃったかー」

かくれんぼで隠れたのは良いが爆乳に思いを馳せていた所をヤドヴィガに見つかってしまった様だ。

「エマちゃんが最後だよ!ゲオルグしゃまとウィリアムくんとお母しゃまはもうお庭にいるよー!次は?次は何して遊ぶ?」

朝からずっと遊び通しだが、ヤドヴィガは疲れた様子もなく、楽しそうにはしゃいでいる。手を繋いで一緒に庭に出ると午前中は家庭教師が来ていて顔を見ることのなかったエドワード王子がゲオルグとウィリアムと談笑している。

いつの間にか仲良くなっているので兄弟のコミュニケーション力にはいつも感心する。

「お兄しゃま!」

ヤドヴィガがエドワードに駆け寄る。手を繋いだままなのでエマも一緒に足を早める。王子の側まで着くと、臣下の礼をしようと頭を下げる。

「礼はしなくて良い。私も母や妹と同じように接してくれ」

今まで、何度か遊びに来ていても殆んど王子と会うことはなかった。避けられていた様にも感じていたが、気のせいだったようだ。

みんなのお兄ちゃんゲオルグと気遣いウィリアムが王子を陥落させたのかもしれない。

「はいっあの殿下?体調はいかがですか?」

昨夜、お風呂から出て来た王子は真っ赤に湯だっていた。思春期ってのぼせやすいから気を付けないと……と思っていたら王子の顔がまた、ぼんっと赤くなった。

「殿下っ!大丈夫ですか?」

思わず近付いて支えようと手を伸ばす。

「だっ大丈夫だ。そっそれ以上は……さっ触わるな!」

何故か更に顔を赤くして後退りする。大丈夫なら良いけど変わった持病でも持っているのだろうか。ゲオルグとウィリアムには心を許したが自分は違う様だ。ちょっとショック。確かに大して話もしてないから仕方ない事かもしれないが。

「「…………」」

ゲオルグとウィリアムが気の毒な人を見る様に王子を見つめる。

ローズは甘酸っぱい光景に、にやにやしている。

「次はおままごとしましょう!お父しゃま役はエドワードお兄しゃまでお母しゃま役はエマちゃんだよー!新婚さんなのー」

ヤドヴィガは空気の読める5歳児であった。

「なっ!!」

王子の顔が更に赤くなる。人ってこんな赤くなるものだっけ?

「じゃあ!ゲオルグくんと私がお隣さんの夫婦役ね。ウィリアムくんとヤドヴィガは私たちの子どもよ!」

ローズが面白そうにのっかる。

「殿下も一緒に遊んでくれるんですか?」

珍しいこともあるなと王子をみれば何やら踞って震えている。

「エマと……しっしんこん!?エマが嫁に!?」

何やらぶつぶつ呟いているがよく聞こえない。

「殿下?大丈夫ですか?」

「エマちゃん!!おままごとはもう始まってるんだよ!」

遊びは全力、特におままごとには厳しいヤドヴィガが注意する。

しっかり真面目に、おままごとしなくては。旦那様は体調が悪いようだからここは嫁として介抱するが、正解だろう。

「旦那様?少し横になりましょう」

そう言って芝生の敷かれた庭に王子を寝かせる。不敬罪で捕まらないかドキドキものだ。おままごとなのにスリル満点。

せめて頭は地面に当たらないように膝枕しよう。

「うおっっっっ!!!!」

頭を膝に乗せると王子は奇声を上げた後、固まって動かなくなった。

ピクリとも動かなくなった。

「あらあらまぁまぁ」

ローズが面白いものを見るように息子の様子を窺う。

ゲオルグとウィリアムは何やら頭を抱えている。

「エマぁぁぁ……この無自覚天使が!」

「兄様……あれは悪魔です。意識せずとも、人を天国と言う名の地獄に落とす悪魔ですよ」

そんな中、不思議そうにヤドヴィガが王子とエマに近付く。

「お隣の旦那さん……死んじゃったの?」

その一言で物騒なおままごとが始まってしまった。

「こっこれは!!アーモンド臭、青酸カリ!?」

ゲオルグが乗っかってきた。火サスの音が聞こえてきそうだ。

新婚かと思いきやまさかの未亡人になってしまったエマに疑いの目が向く。

「そっそんなっ私が愛する旦那様を殺したというの!?」

王子が愛する旦那様~の辺りで一回ピクッと跳ねたが、設定上死んだことになっているので無視をする。

「でも毒を盛れたのはエマちゃんだけよ!夕飯のおかずに混ぜたんだわ!」

ローズ様にまで疑われている。

「エドワードには多額の保険が掛けられている。守銭奴のみな……じゃなくてエマなら殺りかねない」

ゲオルグの追撃が容赦ない。何か前世で恨みでも買っていただろうか?

「そんなっエマちゃんはエドワードを愛してなかったと?」

ローズ様の芝居にも熱が入ってきた。王子がまたピクッと跳ねたが、全員無視をした。

「お待ち下さい!」

ウィリアムとヤドヴィガが割って入る。

「この事件僕たちが解決します!」

まさかのおままごとに事件が勃発した挙げ句、チビッ子探偵登場である。

「なぜなら!体は少年、頭脳は……」

「「ニート?」」

ゲオルグとエマが決め台詞に割って入る。

「酷い!!!」

ウィリアムが一瞬で勢いを失くす。

ヤドヴィガがニートってなにー?とウィリアムに追い討ちをかける質問をしている。

「まあまあ、よく判らないけどウィリアムくんとヤドヴィガは犯人は別にいると言いたいのね」

ローズ様が軌道修正してくれる。

「はい。犯人は……この中にいます!」

ウィリアムがテンプレ台詞をキメ顔で言い放つ。

「ま……まさか!密室殺人!?」

ノリだけでテンプレ台詞をゲオルグが重ねる。

崖とか探した方が良いのかな?エマはキョロキョロ周りを見回すがあるわけ無い。

「ゲオルグ兄しゃ……じゃなくて父しゃま、何故毒殺だと思ったんですか?」

そう言えばそんな設定だった。皆忘れていた中、遊びに厳しいヤドヴィガが質問する。

「エドワードからアーモンド臭がする。劇薬の青酸カリが使われたに違いない!エマがご飯に混ぜたんだ!」

ゲオルグが断定する。テンプレ展開から逃れられない。

「ほう……兄さ……父様は少し勘違いをしている様ですね」

ウィリアムの目が光る。

「青酸カリのアーモンド臭……よくサスペンスで使われますが、あれ 収(・) 穫(・) 前(・) の(・) アーモンドの臭いですからね。収穫前のアーモンドなんて嗅いだことないでしょう?」

「え?そうなの?」

「しかも致死量分の青酸カリを食事に混ぜたとしてもあんな刺激的なもの口が爛れて食べきることは不可能です!」

「いっいやエドワードはエマを愛していた!」

ゲオルグの言葉に王子の体がまたピクっと跳ねたが、誰も見ていない。

「どんなに嫁が飯マズでも愛の力で食べたんだ!」

ちょっと待て、人を料理が出来んみたいな言い方……。

「そうね、そうね、エドワードはエマちゃんが大好きだから口が爛れても残さず食べちゃうわね!」

「……流石にそんな重すぎる愛は要りません」

ローズ様には申し訳ないがそんな愛は勘弁願いたい。

あと、王子のピクピクが無視出来ないレベルまで頻繁に起こっている。

「ほらっエマはエドワードを愛してなかった!殺人の動機がある!」

ゲオルグがあれ?こいつが、犯人じゃね?と言うくらい挙動不審になって来た。

「ゲオルグ父様……そろそろ本当のことを話して下さい。あなたが殺したんでしょう?」

ウィリアムが、解決編に持って行き出した。

「なっなにをっ!俺には動機が無い!」

「そうよ、ただのお隣さんよ」

ローズ様がゲオルグをフォローする。

「父様、エマさんの浮気相手と繋がってますね」

おっと知らん間に浮気してたの?私?

「そうです。あなたの親友のことですよ。エマさんに親友を紹介したのもあなたですね」

「な、なぜそれを!」

そもそも誰?

「大金持ちの親友に、言われたんじゃあないですか?エマさんを紹介してくれたら、借金はチャラにしてあげようと……」

「な、なぜそれを!」

「それにあなたは、みな……エマさんが守銭奴だと知っていた。お金持ちの親友とエマさんが上手く行けばさぞ、見返りが期待できると思ったでしょうね」

「ぐぬぬ」

この兄弟は港に何か金絡みで恨みがある……のか?思い当たる節がなきにしもあらずだが、今ここぞとばかりに晴らそうとしてないか?

「確かにエドワードさんもお金持ちです。多額の保険も掛けられていたことでしょう。しかしながら、父様の親友は超大金持ちですから保険金なんかよりも浮気相手と一緒になるほうがエマさんには旨味が大きい。わざわざ殺すことではないんですよ」

なんだこれ?私最低やん。

「いやっ証拠がない!俺にそんな金持ちの友達なんて……!」

「いるでしょう?茶色い髪、そばかす顔の……」

ちょっと王子のピクピクが痙攣並みなんだけど、皆そろそろ無視するの限界だよね?ね?

「ヨ、ヨシュアのことかぁぁぁ!」

そんなゲオルグ兄様クリ◯ンのことかーみたいに叫ばなくても……。

「ちょっと待て!ヨシュアとは誰だ!」

かばっと死体……じゃなくて王子が起き上がる。

ヤドヴィガがお兄しゃま、死んでないと駄目ですよと冷静に注意している。

やっぱりヤドヴィガは遊びには厳しいな。妥協を許さない。

やはりもう一度、エンディングに向けて崖探してみようかな?

そう思ってキョロキョロと周囲を見回して、絶対に在ってはならないものを見つけてしまう。

「ゲオルグ兄様!!!」

「エマちゃんも設定通りに……!!」

思わず兄を呼ぶ。ヤドヴィガが嗜めるが、言葉の途中で立ち上がり自分の後ろに隠す。

ゲオルグの真後ろに3センチ位の穴が空いていた。

宙に浮かぶようにして、穴としか言い様のないそれからチョロチョロと液体が流れ始める所だった。

見たことなんて無い……。

けれどこれが……多分、局地的結界ハザードだ。