軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄と弟の東奔西走。

町へと続く道をひたすら走っていたが……とうとう足が止まった。

普段、馬車でしか通ることのないこの道をエマは迷うことなくあのスピードで駆け抜けたのだろうか。

肺が空気を求め、ヒューヒューと変な呼吸音になっているし、脇腹が尋常じゃなく痛い。

持っていた剣を杖の様にして動かない足を休めていると、少し前に先に行くぞと振り切った弟ウィリアムがヒューヒューと呼吸しながら脇腹を押さえてとぼとぼと歩いてきた。

「兄様……」

苦笑いで弟を迎える。

「全然追い付けなかった。エマ……無事だといいが」

エマに何が起きているのか。

夢うつつで、微かに猫の鳴き声が聞こえた気がした。もし、エマにも聞こえていたら何を仕出かすかわからない。

同じことを考えたのかウィリアムも同時に部屋の扉を開けた。

危惧した通りエマの耳にも猫の鳴き声は聞こえていたようだ。

エマが、屋敷を飛び出した時までは間に合うと思っていた。

所詮11歳の少女、ゲオルグは普段から鍛えてあるし、体力には自信があった。なのに。

庭を走るエマに追い付けない。

庭を出て、真っ直ぐの道になると更にグングン加速していく。

一旦、屋敷に戻り馬で追うか悩んだがこの暗闇で馬に乗るのは危険だろう。あのスピードで長く持つわけはないと追い掛けてみたが、持たなかったのは自分の方だった。

もう、猫の鳴き声も聞こえなくなっていた。

目の前の分岐した道を見る。

ウィリアムと二手に別れるとしてもこの先にも幾つか分かれ道が出てくる。

これ以上、追うことは出来なかった。

1つのことに集中し過ぎるエマは事あるごとに問題を起こすが、大概の事はゲオルグとウィリアムでフォローしてきた。

港が入ってマシになったと思っていたが、猫への執着は港にある。エマの集中力と謎の脚力によって、これは兄弟でフォローできる案件では無くなってしまった。

屋敷に戻り、父を起こし、使用人にも手伝ってもらい捜索しなくては。エマだろうが、港だろうが、大事な可愛い妹の無事が最優先だ。

「ウィリアム、諦めよう。取り敢えず屋敷に戻って父様に報告だ」

死ぬほど怒られるが仕方ない。

田中家にしろスチュワート家にしろ父の娘への溺愛は変わらない。何故かどちらの家系も男ばかりが生まれる傾向にあり、エマも港も待望の女の子で、一族規模で特別に大事にしてしまう。

「ううっ姉様……せめて無事でいて!」

軽く膝を擦り剥いただけでも兄弟への罰は跳ね上がる。それでも、ゲオルグもウィリアムも一族の男の端くれ、やっぱりエマが可愛いから文句は言うが甘んじて罰は受けるだろう。

エマを怒れるのは母くらいのものだ。今回は母にしっかり説教してもらわねば。

くるりっと踵を返し、痛む足を引き摺りながら屋敷へ戻る。

先ほどから、隠れていた月が顔を出し、帰り道を照らしてくれているので暗闇でない分この後の捜索も何とかなるだろう。

なるべく早く、屋敷に戻らねばと思うが、呼吸も足も限界でのろのろと歩くことしかできない。

一瞬、音もなく何かが通り過ぎた気がした。

風を感じ、身構える。

「兄様!ウィリアム!」

エマの声がした。

見上げるとさっきまでいなかった道の先に、4匹の……大きな猫がいた。

ゲオルグが狩りで遭う魔物より大きな猫だった。

その中の白くてふわふわした一匹の猫の背にエマは跨がって乗っていた。

「もの◯け姫かよ!」

思わず突っ込みを入れる。

「にゃーん」

黒い猫がすり寄ってくる。デカい。

「にっ兄様!こっこいつコーメイさんに似てる!」

ウィリアムが、自身にすり寄って来た三毛猫を指して叫ぶ。

そんなわけあるかと自分にすり寄ってくる黒猫を見る。

……。

……。

「かっ?かんちゃん!?」

「にゃーん♪」

黒猫が応えるように鳴く。

ちょっと待て。落ち着け。コーメイさんもかんちゃんも死んだはずだ。

よくよく見なくては。

……。

……。

エマが……乗っている猫……チョーちゃん?

……。

もう一匹のデカい蜘蛛を背に乗せてるのは……リューちゃん?

は?

「うちの猫も転生してた!」

エマが120%の笑顔で報告してくる。

「「ぅえぇー!?」」

ウィリアムとハモる。

このデカい猫達はうちの猫なのか?

蚕といい、蜘蛛といい、この世界の生き物は何だってこんな簡単に巨大化するんだ!?

ちょっと情報処理能力が追い付かない。

っとかんちゃんが後ろから腰を甘噛みしてくる。

ん?っと思っている内に持ち上げられる。

「わぁ!」

ウィリアムを見ると同じ様にしてコーメイさんに持ち上げられている。まるで仔猫を運ぶような体勢になる。

エマが東の空を見て言う。

「詳しい話はあと!そろそろ夜が明けちゃう!」

エマを先頭に、来たときを考えると一瞬の間で屋敷へと運ばれる。なんで僕らだけ雑な扱い!とウィリアムが文句を言う。

多分チョーちゃん以外は毛が短いから背中で掴まり難いから?

っとエマが言うと、兄弟を運んでない、口が空いているリューちゃんがにゃーんと応える。何気に会話出来てるのもちょっとおかしい。

屋敷へ入ると4匹の猫は音もなくエマの部屋まで運んでくれた。

そのまま三兄弟は力尽き、エマのベッドで並んで眠ってしまった。

周りに4匹のデカい猫とデカい一匹の蜘蛛に囲まれながら。

それはそれは幸せそうにモフモフに囲まれながらモフモフな夢を見た。

翌朝、エマを起こしに来たマーサの悲鳴で起こされるまでは、グッスリと。

結局洗いざらい白状し、怒られることになったが、猫を見た両親、特に父は号泣しながら再会を喜んだ。

エマを襲った男達はかんちゃんに倒されたあと蜘蛛の糸に巻かれ公園に転がされていた。

男達への罰は、領への不法侵入とエマを襲った罪が加算され、通常より3倍重くなったとか。

その後、猫達は魔物狩りでも活躍し、父レオナルドはスチュワート伯爵家の紋章を猫柄に変えた。

裏地にスチュワート家の紋章をあしらったドレスは飛ぶ様にして売れ、4匹の猫は商売繁盛の招き猫としても活躍したのだった。