作品タイトル不明
027話「栄光の_01」
忙しい日々が流れて行く。
まずはスーティン村の再興というか、構造の再構築。
村長が殺されたことによって生じる混乱を集会所で確認し、村全体での意思統一と仕事の割り振りをやりなおすことになった。
といっても、これに関しては正直言って楽勝だった。なにせ村の人口は三十二人しかいないのだ。それに、オークたちは農耕をしてのんびり暮らしていただけなので、改めてあれをしろこれをしろと指示する必要もあまりなかった。
何人かのオークを魔境に移住させて農耕を始めさせたのと、丘の反対側にも田畑をつくらせたのが、指示らしい指示だろう。
オーバーワークだろうかと思ったが、モンテゴに言わせれば「そんぐらいだば、大したことねえべよ」とのこと。元々、仕事をしている時間よりものんびりしている時間の方が長いのだから、気にしないでいいらしい。
ついでにというか、全焼した村長の家は焼け跡を全部取っ払い、クラリス・グローリアの家が新築された。オークたちが入れるような設計にしたため、私にとっては大きすぎる間取りだが、別に構わない。
「クラリス様にはもっとえらい家を用意したかったんだども……」
「んだども、今はこれが精一杯だべ」
「不便かけるかも知んねぇけどもよ」
などなど、殊勝なことを言うオーク族に、すっきり爽やかなクラリスマイルをプレゼント。実際のところ、私としては家より服の方が欲しかった――未だにユーノスの外套を一枚だけなのだ――が、厚意は素直に嬉しいものだ。
それに私の住処のことなど優先順位としては下の下である。
ユーノスたちも、それなりに忙しかった。
まず、絶対に外せないのが見張り。そして戦力の確保だ。
スーティン村に魔族たちを滞在させておくことが最も重要であり、常に八人前後は村に置いておいた。残りの魔族は魔境の開拓、連絡員として魔境とスーティン村の状況を報告してもらったり、あとはオークを二人と斧使いのガイノスをドゥビル――ドワーフの鍛冶士の元へ出向させた。ドゥビルには当初の仕事をさっさと終わらせてもらって、手伝いを増員し、さらに仕事を頼んだ。
デスマーチというほどには切羽詰まった行程ではなかったが、それでも、それなりの忙しさはあった。畑を増やすにしても用水の関係などがあったし、ドゥビルへの発注についてもあれこれ考えなければならない。
カタリナとキリナは、何故か私にべったり引っ付いていたので、幼いながらも私のやることを見ていたかったのだろう。別に私だって政治的立ち回りが上手いわけではないが、ユーノスたちやオークたちと比べれば、たぶんちょっとマシだ。
なにせ私は、前世アラフォーのおっさんである。
自分自身があまりにも可愛らしいのでうっかり忘れがちだが。
ともあれ、二人とも十歳そこらの子供とは思えぬほど真剣に私の仕事っぷり――ここは笑うところだ――を見つめており、私の手が空いたときには様々な疑問符をぶつけてきた。もちろん、いちいち真面目に答えたりはしなかったが、カタリナもキリナも、自分の中で物事を咀嚼するタイプなので構わないだろう。
そうそう、キリナの両親について。
狼族のザンバ・ブロードと、狐人のステラ。
殺して焼いた。以上。
こちらの人員に余裕があれば、解放して獣人連合に合流するまで尾行させてもよかったのだが、残念ながら人手不足だ。二人の行動が読めない以上、解放するのはありえないし、捕虜とするにしてもやはり人手不足が痛い。
特筆すべきことがあるとすれば、「ちゃんと情報を吐いてくれれば生きて帰してやるぞ」と言った瞬間にステラの口が軽くなったことだろう。獣人連合について、知りうる限りの全てを頑張って喋ってくれた。紙とペンが欲しくなったが、残念ながらどちらもなく、仕方ないので重要そうな情報は材木に彫り刻んでおいた。
で。
スーティン村の襲撃から、だいたい十五日。
村にやって来たのは、コボルトの集団だった。
◇ ◇ ◇
前世の知識によればコボルトとはドイツの醜い妖精だか精霊だったはずだが、この世界においては小型犬の獣人だった。
身長はだいたい百センチほどで、同じくらいの人族の子供と比べれば等身が低い。つまり頭がちょっとでかい。外見は様々だそうだが、スーティン村にやってきたコボルトたちはチワワっぽい犬種というか人種というか。ザンバよりもずっと獣度合いが高く、なんだか着ぐるみのような印象があった。
「ぼくらの住んでるところに、狼族が襲って来たです。どうにか逃げ出せたのは、ぼくらだけで、他のポロ族は、きっと殺されたです。どうか助けて欲しいです」
しょんぼり顔で言ったのは、イオタ・ポロというポロ族の代表。
狼族の襲撃に遭い、村の大人たちが食い止めている間に子供たちを逃がしたということらしかった。彼らは獣人の領域を中心側へではなく、端の方――つまり辺境に向かって逃げ続けた。
途中で他の獣人の村に立ち寄ることもあったが、故郷を失ったポロ族を受け入れてくれる場所などなかったそうだ。
さもありなん。
獣人たちは自分たちの種族だけで集まり、コミュニティを形成している節がある。ザンバたちの連合軍も、話の限りでは種族同士の寄り合いらしい。たとえば狼族と山羊族とハイエナ族で小隊をつくる、みたいなことにはなっていないとか。別の種族と共存する、という文化がそもそもないのだ。
「いいだろう。私たちはおまえたちを助ける。そのかわり、おまえたちもまた私たちを助けるんだ。できることくらいあるだろう?」
実際、それはあった。
ポロ族はとにかく手先が器用で、働き者で、おまけに社交性に富んでおり、それなりに知能が高かった。オーク族は純朴だが口下手で、ユーノスたちは人種というよりはユーノフェリザ氏族の特徴なのだろうが、基本的に寡黙だったから、ポロ族が加わることで潤滑油として上手く機能してくれた。
何人かはスーティン村へ留まらせ、残りのポロ族は魔境の開拓へ。
驚くべきことに、彼らは植物の繊維を捩って編み上げ、私の衣服を仕上げてくれた。原住民スタイルではなく、ごく普通の衣類だ。しかも天然の染料を見つけたようで、しっかりと染め上げられていた。
そういうわけで、胡座をかくたびにユーノスが不機嫌そうに私から視線を外す、というような事態がようやく収束を迎えたわけだ。
それと、妖狐セレナにも当然だが協力してもらった。
キリナが私にべったりだったのはさておくとしても、セレナとて既に引くに引けないラインまで来ているのだ。辺境の守護者でいたいのなら、キリナが攫われても無視しなければならなかった。それをせず狼族に捕らえられ、私に助けを求めた時点で手遅れだ。
そのくらいのことは、セレナも自覚していた。
岩塩床の在処を教えてもらい、何人かを派遣して岩塩の採取。平行して魔境では森林伐採と野生動物の狩猟。ゲットした岩塩を使って燻製肉の作成。
冬はまだ先だが、今はとにかく食料の確保が優先。
獣人連合がどれくらい や(・) る(・) のかは判らないが、場合によっては兵糧問題が持ち上がるだろう。ポロ族の来訪は、たぶん呼び水だ。
「クラリス様っ! お肉っ、お肉が美味しいです! ここはスゴイところです!」
燻製にしない分の肉がスーティン村に運ばれ、みんなで焼いて食べている最中、イオタが顔を輝かせて言った。
ふさふわの尻尾が左右に激しく揺れ、ポロ族の面々が全く同感とばかりに尻尾を振りながら焼いた肉にかぶりつく。その様を見て、私だけでなくオーク族もユーノスたちも温かな心持ちになった。
「そうだろう、そうだろう。でも、こんなものじゃないぞ、イオタ。これからもっとスゴイことが起きる。良いことも、悪いことも。きっとな」
うんうん頷きながら私は言った。
無論、私には未来など見えないので、いいかげんな科白を口から吐き散らかしたに過ぎない。これから良いことも悪いことも起きるだなんて、誰が言っても当たるに決まっている。悪化の一途を辿るのは、既に手遅れな者だけだ。
まあ、ひょっとしたら我々はとっくに手遅れなのかも知れないが――それこそ、私の知ったことではない。
そういうのは、もういいのだ。
◇ ◇ ◇
それから七日後、状況が動いた。