軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102話「帰還と対策_03」

ドワーフの鍛冶士、ドゥビル・ガノンに用意させた『細い魔鉄の棒』は、等間隔にちょっとした突起というか、節がついている。

太さはだいたい成人男性の親指か、それよりちょっと太いくらい。長さは任意だが、ドゥビルの用意した型は四メートルから五メートルといったところ。

さらに『細くて曲がる鉄線』を使って棒と棒を縛り、格子状に組み上げる。本来は立体格子にするが、とりあえずは漢字の『冊』みたいな状態に。

で、この『冊』を直方体状に囲うように木板を配置する。圧力が掛かるので板と板の対面は補強してやる必要があるが、ひとまずは割愛。

そこに木灰やらなにやらを水で溶かし、砕いた石を入れて練り混ぜ、『冊』を囲う木板の中に流し入れる。

硬化が終わり、木板を取り外せば、鉄筋コンクリートの完成である。

コンクリートの主材であるモルタルが急拵えのため、かなり強度的には弱いはずなのだが、予想していたよりは硬かった。

「なるほど、なるほど、なるほど! これは面白いですねぇ! いやはや、まったく面白い! うふふふ! くふふ! これはとんでもない面白さだ!」

完成した鉄筋コンクリートの見本を確認させ、誰より先に、誰より強く反応したのは、やはりというべきか九尾の狐、カイラインだった。

ちなみに、昨晩は岩山地帯にクラリス・グローリアと愉快な仲間たちを集めて、獣王ランドールの顛末を語って聞かせた後、宴会になった。酒はなかったが。

宴の最中にオークやコボルトの手を借り、試作品の鉄筋と鉄線、型枠を作らせ、いいかげんに材料を混ぜたコンクリートを流し込んで――、

その翌日が、現在である。

結構な人数を集めて鉄筋コンクリートを披露する絵面は、もしかするとやや間抜けかも知れなかったが、それはまあいい。

当然というべきか、カイライン以外のほとんどが困惑を顔に浮かべていた。意味が判らないのだろう。

いや、一人だけ微妙そうな顔をしているやつがいた。

この場では唯一の人間、スペイド領で魔術師をやっていたおっさん、レガロだ。思案げな表情で出来上がった直方体を眺めている。

「まあ、とりあえずはとりあえず、こういうものができるわけだ。これの規模をでっかくして、砦の防壁を造る。この防壁の上に弓とか投石機を用意して、人族にぶち込む。砦の本体にも使っていいだろうが、本命は防壁だ」

コンクリートの歴史は古く、古代ローマあたりではもう使われていたはずだ。名前は忘れたが、有名な建築物があって、鉄筋を使用せずに建てられた最も古いコンクリート造りの建物だとか。

しかし鉄筋コンクリートの登場は、たぶん十九世紀くらいまで後になったはずだ。どうして、というところまでは知らないが。

「どうしたのですか、皆様!? まったく、これは素晴らしい発明ですよ! 本当に、ああ――やはりクラリス様、貴方の足を舐めることにしてよかった! 全く素晴らしい! あっ、よろしければまた舐めましょうか?」

「要らん。カタリナとキリナ、一発ずつ蹴っ飛ばせ」

という私の返答から、興奮するカイラインの尻と顔面に、なかなか鋭い蹴りが入るまで一秒もかからなかった。返事をする間もなく動くものだから、私としても褒めるべきか呆れるべきか迷う。

「よく判らん。クラリス、もう少し説明しろ」

腕組みをしたユーノスが言う。他のグロリアスの連中もよく判っていないような顔をしているので、レガロに振ってやることに。

「レガロはどう思う? 人族の文化に慣れているおまえから、なにか思いつくことがあれば言ってみるといい」

「あー……はい。いや、こりゃすごいですよ。切った石を重ねていく石造りだとか、魔術師を動員した土魔法での建築なんかが城壁の造りとしては一般的ですがね、これなら魔術も要らないし、なにより形の自由が利く上に、早い」

「自由が利く?」

首を傾げたのは、妖狐セレナ。

レガロは物怖じせず頷き、まだまだ大量に用意されている魔鉄筋と鉄線を指さしてから、続けた。

「だって、ほら、あれで大雑把に形を造って、板で囲んで例の混ぜモノを流し込んでやれば、構造物が完成するわけでしょう?」

早いですよ――とレガロは繰り返し、さらに続けた。

「それに、その鉄の棒、魔鉱石との合金なんすよね? その鉄棒をたくさん交差させて……つまり、壁の中に魔鉄の棒が、しこたまありやがる。魔術師隊の魔法攻撃じゃ、まず抜けないでしょうよ」

「ふむ」

軽く頷いたユーノスは、いつの間にやら腰帯に挟んでいた練習用の木剣を取り出し、神妙な顔をして話に耳を澄ませていたカタリナへ放り投げた。

「うぇ!? なによ、ユーノス」

「試しに叩き割ってみろ。今のおまえなら岩を割るくらいできるだろう」

「いいけど……その、クラリス様の造ったモノよ?」

ちらちらとこちらを見てくるカタリナに、にんまり笑って頷いてやる。

「むしろ試した方がいい。遠慮なくやれ」

◇◇◇

結果から言うと、カタリナの打ち込みではコンクリートを割ることはできても構造体の破壊はできなかった。

つまり鉄筋の入った直方体は、その形を留めていたのだ。確かにコンクリート自体は割れたが、その構造は保たれていた。

次いでセレナが小型の狐火を放ったが、これも構造体の破壊は叶わず。さらにレガロが『爆圧』の魔術を使用しても、やはり結果は変わらず。ただ、このあたりでもうコンクリートはかなりボロボロになっていたが。

で、ユーノスが斬った。

真っ二つになった。

クラリス・ドヤ顔・グローリアの面目丸潰れである。

「悪くないな。中の……鉄筋、だったか? これが幾重にも走っているのであれば、おそらく俺でも斬れない。ランドールの『爪』でも無理だろうな」

魔剣を鞘に収めたユーノスは余裕そうな顔をして普通に言う。たぶん、フォローというわけでもないのだろう。

まあ、防壁というものは個人を防ぐものではないので、構わないといえば構わない。例えばランドールを軽く超えるような超暴力の持ち主が敵にいれば、どんな備えをもってしてもあまり意味がないだろう。

「じゃあ、これで砦の防壁を造るってことだね。それで、場所は何処に?」

半分くらい嫌そうな感じで促してくれるのは、ビアンテだった。

「場所は、スーティン村からちょっと南東だな。人族の領域と獣人の領域を隔てている魔境から、ちょいと離れた位置がいい」

「水源はどうすんだい?」

「地下水があれば最上だが、次善としては川を引くか、最悪は輸送することになるだろう。水魔法で蓄えるのでもいい」

「砦っていうんだから……迎撃に向いた地形があれば好し、か。現地調査が必要になる。場所はあんたが決めな、クラリス」

「そりゃあ、最終的には私が決めるさ。だが、人の意見を聞かないほどに私は暴君じゃあないぞ。報告・連絡・相談は組織の基本だ。ホウレンソウと覚えておけ」

「ホウレンソウ、ねぇ」

これがきちんとしている組織を、残念ながら私はあまり知らないが。

さておき――目標を設定したならば、あとは『やることリスト』の作成である。

まずはビアンテの補佐にレガロを付け、手を挙げた建築作業員と共に、鉄筋コンクリート建設の練習。とりあえずはドゥビルの作業場近くに大きめの建屋を造ることに。

これは部品製造担当のドゥビルも参加し、実際やってみて「もっとこうした方がいいんじゃないか」というアイデア出しの意味も兼ねる。

並行して、ダンジョンからの物資調達。

私たちが獣王交代劇の鑑賞に興じている間、斧使いのガイノスを筆頭に、ひたすら鉄のインゴットと魔鉱石をダンジョンから持ち出していたわけだが、さらに人員を追加する。施工の段階としては鉄筋を組むのが序盤になるので、練習用の建屋を立てている間に、とにかく人数をぶち込んでおく。

次に輸送体制。

これまでもスーティン村から魔境の開拓地、岩山地帯からあちらこちらへ、ヤマト族が馬車で運んでいたわけだが、今回は大量の鉄筋やらなにやら、運搬が大規模になる。たぶん馬が潰れてしまう。

なので、人力だ。

荷車に荷物を載せ、ゾンダたち猪獣人を筆頭に、力と魔力の強い連中に運ばせることにする。頭数が足りないので、荷運びと現場作業の両方をこなしてもらうことになるが、ゾンダたちは配下になったので構わないだろう。

「荷運びだぁ? やれっていうならやるけどもよ……クラリス、俺たちは馬や牛の代わりじゃねぇんだぞ。戦が待ってるってのに、訓練とかしなくていいのか?」

疑念は呈すが拒否はしないゾンダ・パウガ。

配下になると言った以上は従うのが彼の流儀なのだろう。粗暴な見た目の割に律儀なやつで、私はなんとなく笑ってしまう。

「荷運びだけじゃないぞ、現場作業だってしてもらう。堀をつくったり、地面を均したり、部材を運んだり、やるべきことはありすぎるくらいだ」

「そんなんで人族に勝てるのか?」

「なあ、ゾンダ。ランドールはどうして負けたと思う?」

問いに問いを返せば、ゾンダの眉間に深いしわが寄せられた。気の弱い子供だったら泣き出しかねない不機嫌な空気も。

「……策のせいだ。ただの暴力なら、ランドール様は負けてなどいなかった」

「そうだな。しかしもう少し考えてみろ。レクス・アスカやカイラインが捻り出した策で、狼獣人たちが賭した命で、ランドールのなにを削り取った?」

「……なにって、そりゃあ……」

「体力と魔力だ」

と、私は言った。そしてクラリスマイルはプレゼントせず、そのまま続ける。

「やつはあんまりにも強いから、疲れ切るまで走り続けることも、魔力が切れるまで爪を振るうこともなかったはずだ。だから引き際なんて知らなかった。休憩なんか取らなかった。でも、そんなランドールにも限界はあった」

だから、殺せた。

だから、死んだ。

もっと弱ければ、もっと楽しかった――。

それがランドールの遺言だ。

「ゾンダ・パウガ。強くなれ。限界を知れ。本当はこういうことを人にやらせるのは好きじゃないが、おまえたちは好きだろう? くそほど重い荷車を、おまえたちは魔力で引け。力よりも魔力を使え。最初のうちはすぐに魔力切れになるだろうさ。でも構わない。別に、防壁が完成なんかしなくたっていいぞ。案外こいつら使えなかったな、って私が思うだけだ。それでも人族と一戦交えるくらいだったら負けはしない。なあ、ゾンダ・パウガ」

強くなれ。

獅子よりも。

そう言った私の瞳を、猪獣人は深淵でも覗くかのように見つめ返して頷いた。

「つまり……訓練、ってことだな。死ぬほど扱き使って、俺たちに力を付けさせる。そういうことでいいんだな、クラリス・グローリア」