軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決着

「・・・、どこの、血筋か、わからない子、ではありません・・・。ウォルタの子です。」

「そうか。」

伯爵はそれで終わらせたが、なんと図々しい。

「なぜ、そんなことになったのです?あなたが学園を卒業し、ローファス領に帰ってきたときにレオン様と婚約を解消して、恋人と婚約をし直せばよかったのではないですか?ウォルタ様には当時婚約者はいなかったのですから。」

「は?恋人?誰がよ?私には恋人はいないわ!いるのは婚約者!愛しているのはレオンだけ!お願い許してよ!私はレオンと結婚するのよ!それで王都で暮らすの!レオンは奥さんと子供が安全な王都にいるほうが嬉しいわよね?!そうよね?!」

ちょっと何を言っているのか、わからない。本当にクロス王国語を話しているのだろうか?それとも全く聞き覚えのない言語かしら?あまりの話の通じなさにめまいがした。

「いえ、貴方と結婚なんてしませんよ。」

縋りついてきた彼女をレオン様は一歩引いてかわした。

「えっと、そもそもお子さんの父親はウォルタ様ですので、婚約破棄が妥当かと。それに今はレオン様は嫡男ですので、王都では無くローファス領で暮らすことになるのでは?」

そういうことではないと分かっているが、突っ込まずにはいられなかった。

「でも!真実だもの!だって!本当に愛しているのはレオンだけだもの!幼馴染の距離感を間違っちゃったけど、それだけよ!本当に謝るから、許して!」

はあ、と一息ついたローファス伯爵に、ナバ子爵令嬢はびくりと肩を揺らした。レオン様もうんざりと言った顔だ。もしかして彼女はずっとこの調子だったのだろうか?

「ナバ子爵令嬢、まず、レオンとの婚約は破棄だ。そちら有責であることを明記した公式文書を用意するのでサインすること。慰謝料だが、レオンは兄とナバ子爵令嬢に請求する権利があり、二人は支払う義務がある。こちらも文章を作成する。次にナバ子爵家について。この度のことは大変遺憾であり、婚約が整わなかったことに対し責任を問う。代々ローファス家に仕えてくれたことも鑑み、子爵位の没収が妥当だろうと思う。令嬢は頑なにローファス領にいたくないみたいなので、早急に領内退去を命じる。」

お兄様であるウォルタ氏はすでに廃嫡になり、別館の一室に拘束状態だ。

「そんな!待ってあなた!ウォルタとシェトナで継げばいいじゃない!」

そう声をあげたのはマイヤー様だった。しかしその声をローファス伯爵は手で制した。

「グリーン侯爵にこの件で意見が合わず離婚になったと言ったら、それなら仕方ないと言っていた。それにウォルタにはもともと学園での成績が平均20位以内になるようにしなければ、廃嫡という話はしていた。レオンの卒業を待ってローファス家の時期伯爵を決めるのも、成績がよかったほうに継がせたかったからだ。髪の色や、目の色は関係ない。マイヤーもそれに同意しただろう。」

「そんな・・・。お兄様・・・。」

そうだ、レオン様の髪の色と目の色で、マイヤー様は不倫を疑われていた。しかし実際ローファス伯爵とレオン様の親子の交流を見ると、自分の子供だと疑ってなど微塵もないようだったし、仲も悪くないように見えた。もしや、伯爵の無口なところがダメなほうに働いたのか?

「ここで一つ提案がある。今グリーン侯爵と話をしてきて、マイヤーに屋敷を賜った。グリーン領内の屋敷だ。離婚したマイヤーはそちらに行ってほしいと侯爵からの伝言だ。」

領館にも来させずに直接屋敷に行けとは、お前の言い分は聞く意味がないと言っているのも同然だ。

「直接・・・?」

「そんなに悲観しなくてもよいだろう。お義母様の別荘だった屋敷だ。貴女も行った事がある筈。慰謝料として金貨15枚を月に一度、20年間でどうだろう。グリーン領から連れてきた使用人は確か3人だったか、彼らも一緒に連れて行ったらいい。そして、そのグリーン領で、ウォルタとナバ令嬢と暮らしたいならそうすればいい。私はローファス領外のことには口出ししないし、慰謝料の使い方に文句は言わない。」

金貨15枚、20年間は平民だったら生涯遊んで暮らしていける金額だ。使用人も3人なら余裕で支払える。しかしグリーン領内の、マイヤー様が賜った屋敷というのが大きければ、かなり厳しい。貰ったのだから売って、小さい屋敷に移り住めばなんとかなるかもしれないが、貴族令嬢だったこの方がそんなこと思いつくかは甚だ疑問だ。リエッタ様なら躊躇なくそうしそうだが。

「お義母様!連れて行って下さるの?!」

新なる寄生先を発見し、ナバ令嬢は目を輝かせていた。そんな考えを微塵も隠しもしない彼女に、うっと言葉に詰まっていた。

「細かいことはこれから詰めよう。モニカ嬢、文章の制作を手伝ってくれないか?」

ローファス伯爵はこちらを窺うようにちらりと見た。それはバージェス公爵家でいつもお手伝いしていたことだ。

「はい、かしこまりました。何なりとお申し付けくださいまし、伯爵様。それからわたくしはもう、成人いたしましたので、お嬢様ではありませんよ。」

この世界の成人は、学園を卒業した時に成る。学園に行っていない人は18歳の誕生日だ。

「ではモニカさん、これからよろしくたのむ。」

「はい。」

歩き出したローファス伯爵の背中を追って、私も一歩踏み出した。

職務室について、執事長をローファス伯爵が下がらせ、レオン様と私と3人になった。

「これからグリーン侯爵はどうなるんでしょうか?マイヤー様は直接邸に行かれるからよいとして、騎士団がグリーン侯爵領領館に向かったんですよね?魔王国の使者をかってに手打ちにしようとした罪で。」

「ああ、果たして第三王子殿下がどこまでグリーン侯爵の肩を持つかが見えないからな。」

ローファス伯爵のつぶやきに、私は首をかしげてレオン様を見た。確かにグリーン侯爵は第三王子殿下擁立派だ。しかしそれでグリーン侯爵の肩を持つかと言われれば少し疑問だった。

「確かにグリーン侯爵はリチャード殿下を支持していました。表向きは。しかしそれは同年代にミラ・グリーン侯爵令嬢がいたからです。」

「では、リチャード殿下が庇うことはないと?」

「ええ。むしろ面倒に思っていたでしょうね。リチャード殿下自身は王太子派なのですから。クリス王太子殿下はラペット妃を持て余しているのは誰が見ても明らかでしたし、あのお方はかなり苛烈な性分の方で、クリス王太子殿下の第二妃に立候補する家がなかなかいなかったんですよ。でもリチャード殿下は違います。長年婚約者だったモニカ嬢と『性格の不一致』にて婚約を解消していますから、学園にて縁ができた女性と結婚するだろうと考えたんでしょうね。」

「ミラ侯爵令嬢はリチャード殿下の妃候補に積極的でした。接点を作ろうとしていたような努力の後は垣間見えましたが、シエナ様が強すぎると言いますか。」

傍から見ても簡単にあしらわれる姿は、少しだけ応援したくなってしまったが。いやしかし、シエナ様と一緒にいる第三王子殿下に突撃していったメンタルはすごいと思う。父親の命令だったのだろうとしてもだ。

「なるほど、王都の機微には疎くなっているから言われないと分からないな。だったらグリーン侯爵家は・・・。」

言葉を切ったローファス伯爵の顔を見上げれば、視線は窓の外。小春日和がこの北の地にも降り注ぎ始めたころ合いだった。外から騎士たちの訓練の音が聞こえてくる。

グリーン侯爵は『魔王国の使者』に雨の日に奇襲をしかけ、火炎瓶を屋敷に投げ込んだのだ。詳細は分からないが、戦闘になり、騎士数名を捕らえた。しかし騎士団とは数名で動くものではない。廊下から誰かの声で『2個分隊』そう言っているのも聞こえた気がする。1個分隊は大体10人前後なので、20人か・・・?

「グリーン侯爵は洞窟の発覚を恐れたんでしょうね。あんな人体実験許されるはずがありません。屋敷の方にもきな臭い証拠が残っていましたから・・・。」

広場で馬が魔物になった件、私がバージェス領で攫われた件、それらの証拠は・・・。

「じゃああの屋敷に残った証拠は、グリーン侯爵がラペット妃に罪を擦り付けるためのものですか?」

「そうかもしれません。ラペット妃はどうやら、あの屋敷に一度も行った事がなかったそうです。まあ、王族ですからね、行く場所だってちゃんと申請しなければなりませんし、結婚前は学園に通われていました。新緑商会に度々、取り寄せを頼んでいた形跡はありましたから、その中間地点の拠点として使っていたようです。」

「敵が証拠をまとめてくれてありがたいな。・・・グリーン家はよくて国外追放。悪くて処刑だ。マイヤーはローファス家にいたので全くの無関係だと主張はする。が、平民になるのを彼女が受け入れるかは、わからないな。」

その時廊下がにわかに騒がしくなった。声の主はすぐに分かった。ナバ令嬢だ。レオンに会わせて!という声ははっきり聞こえた。

「今更何か話すことでもあるんですかね・・・?」

溜息をついたレオン様に、この数カ月の苦労を感じた。あの話の通じなさはうんざりする。わざとなのか何なのか、自分の要求が通るまで日夜、憑りつかれていたらたまらない。しかしノックの後部屋に入って来たのは、マイヤー様だけだった。

「あなた、お兄様は反対していなかったの?離婚に。」

マイヤー様は私とレオン様には目もくれず、ローファス伯爵の執務机の前に歩み出た。

「ああ。レオンが継ぐなら問題ないのに、なぜ反対しているか分からないとは言っていた。」

「だって!」

ウォルタ氏もレオン様もマイヤー様のお子だ。チラリとレオン様のほうを見れば、いつものポーカーファイスで、母親の発言に何とも思っていないようだった。レオン様越しに、初代勇者の絵が飾られていた。ローファス領の起こりは、啓示を受けた聖女様が、勇者を見つけ、一緒に当時この地にいた魔王軍を退けた話が元になっていた。描かれているメンバーは王家の先祖である勇者、そしてその親友の狩人、聖女、聖女を守る聖騎士。絵にはピンク色の髪の聖女、金髪の勇者と弓を持った白髪の立ち姿、茶色い髪の人物が後ろ姿で書かれていた。

ウォルタ氏もローファス伯爵も茶色い髪だからもしや、勘違いなさっているのでは?

「あの、マイヤー様。こちらの絵をご覧ください。バージェス家の起こりは聖女様に付き従っていた、聖騎士のジョルナ様と、当時バージェスの地を治めていた豪族が結婚して始まりました。ジョルナ様が女性であることはご存知ですよね?」

「何よその位知ってるわよ、邪魔しないで。」

「じゃあこの絵はどなたがジョルナ様がご存じですか?」

「そちらの白い方でしょ。バージェス公爵は銀髪よ。貴方は違うけど。」

「わたくしは東方出身の母似ですから。あの、こちらの茶色い髪の方がジョルナ様です。わたくしはバージェス家で描かれた絵を何枚か見たことがございますから、間違いありません。銀髪だったのはジョルナ様の旦那様です。そしてこちらの白髪で弓を持った方がローファス家の祖、ローファス様ですわ。そうですよね?」

マイヤー様はその絵に向かって歩いて行った。バージェス家の銀髪は有名だ。だから勇者一行の絵で白髪で書かれるローファス様は、バージェス家の人だと思ったのだろう。

「ああそうだ。・・・マイヤーには結婚したころ、何度か説明したと思ったが。」

「レオン様が白髪なのは、ローファス家の先祖返りというべきことで、正当性は揺るぎません。なぜ、問題の多い長男にわざわざ継がせようと躍起になっているのですか?」

絵の額縁を掴んで小さく嘘、と言いながら肩を震わせていた。隣に立ってもマイヤー様は何やらブツブツ言っていた。そしてレオン様のほうを向いた。視線が絡んだ。白髪に、綺麗なサンストーンの瞳だ。絵の中の狩人、ローファス様を彷彿とさせる容姿だ。

「私は、君が不義を働いたと思ったことは一度もない。ただ、周りの戯言を拾ってきいていたのだろう。つまり君は、私の言うことより、そっちを信頼したということだ。」

「そんな、事は。」

ローファス伯爵は肩を落とした。

「現に、レオンは私の子だと何度も言った。剣の才能も、姿かたちも伝え聞くローファス様にそっくりだ。自慢の息子だよ。」

「・・・、ありがとうございます。」

「いや、今まで、苦労かけたな。」

「いえ。父上からは何通も手紙をいただきましたから。」

なぜか放心状態のマイヤー様を、何とかソファに座らせた。私はローファス伯爵に少し耳打ちをした。頷いて許可を得たのでマイヤー様の隣に座った。

「マイヤー様、お耳に入れておきたいことがあります。もしかしたらグリーン侯爵は捕まるかもしれません。いえ、捕まるでしょう。」

「は・・・?なんでよ?」

「今回いらっしゃった魔王国からの使者の方に、騎士団を向け剣を向けたのです。そしてよったお屋敷には違法と思われるものが出てきました。グリーン侯爵の関与が疑われ、その身が拘束されるでしょう。」

「ああ、そう。」

?ずいぶんあっさりと納得した。口元に手を当ててでもまだ体は小刻みに震えていた。

「近いうちに出て行くわ。ウォルタは連れて行くから。」

「それなら騎士団を付ける。確実に領外に出たという見届け役だ。・・・いままで、ありがとう。」

ローファス伯爵の顔をじっと見てから、マイヤー様はすっと立ち上がった。

「じゃあ。もう会うこともないでしょう。」

レオン様には一瞥もくれずに、扉から出て行った。今までごめんねくらい言ったらいいのに。リエッタ様はちゃんとなさっていたのに。少し眉間にしわを寄せていると、レオン様は手招きをしてソファに座った。

「父上、・・・マイヤー殿は知っていたのでしょうか?」

「ああ、そのようだな。」

私の目にはマイヤー殿が何か知っているとか、違和感を感じなかったのだが、二人にはわかったらしい。

「どこまで知っていたのかはわからないが、予想はしていたようだ。私は関与していないと思っていたが、もしかしたら何かしていたのかもな。」

ああ、それであっさりと出て行くことにしたのか。つつかれると困るから。

「それにしても王妃陛下も、マイヤー殿も、モニカ嬢の言うことには耳を傾けるんですね。」

少し表情が柔らかくなったレオン様が、冷め切ったお茶を一口すすった。

「そんな冷たいものを。新しいものを頼んできますわ。」

「いいえ。今はちょうどいいです。」