軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第099話 エレノアさんになっておいて良かった

俺はカエデちゃんとサツキさんをリビングに置いたまま、ヨシノさんと共に俺の部屋にやってきた。

「2人きりで何を話したいの? 2人には聞かせられない話?」

俺は部屋に入ると、ヨシノさんに聞く。

「まあそうだ。というか、見てもらいたいものがある」

ヨシノさんはそう言って、着ているシャツを胸の辺りまでめくった。

そこまでめくったため、白くて大きなものが見えているのだが、そこには俺の目が行かない。

ヨシノさんの大きな胸の下には痛々しい傷痕があったからだ。

「それ、どうしたの?」

「単純にモンスターにやられた。私のミスだな。前に億を超える剣を持っていると言っただろう? 実はこの傷の原因は剣をケチったせいで剣が折れ、やられたんだ」

それでめちゃくちゃ高い剣を使っているのか……

このドケチが明らかに費用対効果の悪そうな剣を使っていた理由がわかったわ。

「ふーん、確かに女性には辛いわね。そんな立派なものを持っていても引かれるかもだし…………このことはあの2人は?」

「知らない。これを知ってるのはリンだけだ」

リンさんは知っているのか……

いや、一緒に冒険してた時かもしれない。

「レベル2の回復ポーションでは治せない?」

「レベル2の回復ポーションを使ってこれだ。傷は治ったが、痕が残った」

レベル2の回復ポーションでこれということはかなり深い傷だったんだな。

「なるほど。あなたが欲しいのはレベル3の回復ポーションなわけね」

「そうなる。あるか?」

あるかないかで言えばあるね。

「あると思う?」

「思う。君は最初にレベル1の回復ポーションを売り、次にレベル2を売った。アイテム袋の容量もだが、どんどんと値段が上がるように売っていっている。だから次に売るのはレベル3の回復ポーションか数千キロのアイテム袋だろう」

せいかーい。

「そうね。まあ、レベル3の回復ポーションは今日、作れるようになったばかりだけど」

「作れるようになった……? ああ、商売的に順序を踏んでいるわけではなく、スキルのレベルか何かがあるのか」

「そういうことね。まあ、順序もある。アイテム袋を順序よく売ったのはそういうことだし」

まあ、サツキさんにそう言われたからなんだけど。

「良い手だと思う」

「そうね…………うーん、まあ、そんな傷痕を女子が持っていいわけないし、レベル3の回復ポーションくらいならあげるけどねー…………」

こんなに大きいのに傷痕が気になってしょうがないわ。

「ついでに回復ポーションを安く売ってくれると助かる」

「それも別にいいけどね。一応、パーティーを組んでるわけだし」

ナナポンにも大量にあげたし、所詮は1000円前後だ。

「助かる」

「しかし、本当に大きいわね…………」

俺はサングラス越しに傷痕の上にある白いふくらみを見る。

「触りたかったら触ってもいいぞ。レベル3の回復ポーションのことを考えたら安いものだ」

ヨシノさんがとても魅力的な提案をしてくる、が……

「触ったらそれで脅す気でしょう? カエデちゃんに言うぞって」

「いや、そんなつもりはなかったが…………」

「どちらにせよ、私にはカエデちゃんがいる。あの子を裏切れないし、あの子に捨てられたら困る」

ナナポンが言うように砂漠のオアシスが本当に蜃気楼になってしまう。

「……君、依存してない?」

「してるわね。私の病んだ心を癒してくれたのはカエデちゃんだもの…………さて、もう服を下ろしてもいいわよ。よくわかったから」

俺がそう言うと、ヨシノさんがシャツを下ろす。

「サングラスで目線がわからなかったが、ガン見してたんだろうな」

「正直に言うと、ほぼ傷を見てた。6対4ってところかな?」

傷が6でおっぱいが4。

ホント、傷が邪魔だわー。

「そうか。まあ、いいけど……」

「こういう傷って、実は皆、持ってるものだったりする?」

「役割による。後衛職は少ないだろう。あるとしたら前衛だな」

モンスターと接近すれば、それだけ危険が増えるわけか。

「リンさんも?」

「いや、私らは女だし、元々、そこまで無茶をしないんだ。これは私がドジっただけだな」

リンさんはそこまで冒険に情熱があるようには見えなかったしな。

「まあ、わかったわ。レベル3の回復ポーションね。本当は1600円もするんだけど、特別にタダにしてあげるわ」

俺はそう言うと、錬金術の作業として使っている机に座り、置いてあるカバンからペットボトルと薬草3つを取り出す。

「見ててもいいか? 作るのを見てみたい」

後ろにいるヨシノさんが聞いてきた。

「どうぞ。とってもつまらないと思うけどね」

俺は取り出したペットボトルに薬草を入れると、じーっと見る。

すると、ペットボトルが光りだし、ペットボトルが灰色の液体が入ったペットフラスコに姿を変えた。

「あっさりだなー」

「でしょう? だからつまらない。材料も安いし、大量生産できるのよ。大儲け」

「エレノア…………本部や政府の情報が欲しくないか?」

ヨシノさんが俺の肩に手を置き、耳元で囁いてきた。

そして、俺の背中には柔らかいものが当たっている。

ほら来た。

金の亡者め。

俺と2人きりになりたかったのは傷痕を見られたくない以上に俺だけなら簡単に落とせると思ったからだろう。

「おっぱいを押しつけないでくれる? いくら欲しいのよ?」

別におっぱいに負けたわけではない。

元からこうなることは予想がついてたし、サツキさんもヨシノさんから情報を奪えと言っていた。

だからおっぱいに負けたわけではないのだ。

「なーに、ほんの少しで良いんだ。ほんの20パーセントでいい」

「頭、沸いてるの?」

20パーセントもやるわけねーだろ。

10パーセントまでだ。

「じゃあ、いくらだ?」

「5パーセント」

「君は本当に交渉が下手だな…………まあ、ここは従っておこう。10パーセントでいいぞ」

なんで俺の上限がわかるんだろ?

「あなたのユニークスキルを教えなさい」

最初は俺とエレノアさんのことをユニークスキルでわかったって言ってたけど、どうなんだ?

「私のユニークスキルは大したものではない。完全記憶だ」

「何それ?」

「説明が非常に難しいのだが、一度見聞きしたものを保存でき、いつでも取り出すことができる。例えばだが、君との会話を思い出したいと思えば、その時に見た映像も会話した内容も脳内で再生されるんだよ。録画した動画を見てる感じかな」

「そりゃすごいわね。ナナカさんの透視よりも正当にカンニングできる」

教科書を一度見ればいいわけだ。

「もう学生じゃないし、カンニングとして使うことなんてほぼないけどね。暇な時に見たことがある映画や漫画を見ることができるくらいだ。あとは今回のような時に使える。君の歩き方を再生し、沖田君とエレノア・オーシャンを見比べて気付いたことだ」

あー、だから夕方にミレイユ街道で会った時にジロジロと見てきたわけだ。

沖田君とエレノアさんを重ねてたんだな。

「ふーん、冒険には使えそうにないわね」

「そうでもない。情報をいつでも取り出せるのは強い。地図を見なくてもいいし、モンスターの特徴もわかる」

確かに……

「便利ね」

「ああ、とはいえ、戦闘能力が上がるものではないし、金儲けも難しい。私も錬金術が欲しかった」

そりゃね。

直接的に儲かるスキルだもん。

「まあ、いいでしょう。10パーセントを払いましょう。でも、まず、あなたはナナカさんとサツキさんに謝りなさい。わだかまりを取り除かないと協力できないでしょう」

ナナポンは探りを入れてきたことを

そして、サツキさんには移籍のことを。

「横川には謝る。そのつもりだったしな…………でも、サツキ姉さんか……」

ヨシノさんが微妙な顔をして目を逸らした。

「あなた、めちゃくちゃ気にしてるんでしょ? だったら素直に謝りなさいよ」

「許してくれるかな?」

ヨシノさんが不安そうに聞いてくる。

「ぶっちゃけると、あまり気にしてないっぽいわよ。そんなことよりも今の金儲けって感じだったし」

「そうか…………すまん、エレノア、この部屋を借りてもいいか?」

「どうぞ。サツキさんを呼べばいいの?」

「頼む」

めんどくさいが、しゃーない。

「じゃあ、呼んでくるわ。あ、これはあげる。さっさとそんな傷痕は治しなさい」

俺は立ち上がると、机の上に置いてあるレベル3の回復ポーションを指差した。

「ああ、感謝する。治ったら見るか?」

「誘惑しようとしても無駄よ。私にはカエデちゃんがいる」

「愛人でもいいぞ」

そこまでして金が欲しいのか……

「あなたを抱いて、朝起きたらすべてがなくなってそうだから嫌。アホなことを言ってないでそこで待ってなさい」

金もカエデちゃんも失いそうだわ……

俺はヨシノさんを置いて、部屋を出ると、リビングに戻った。

「あ、先輩」

「ん? ヨシノはどうした?」

リビングに戻ると、テーブルでビールを飲んでいる2人が俺を見てくる。

「サツキさん、悪いけど、私の部屋に行ってくれる? ヨシノさんが話がしたいんだって」

「ヨシノが? わかった」

サツキさんは頷くと、リビングを出ていった。

「話は終わったんです?」

俺がカエデちゃんの隣に座ると、カエデちゃんが聞いてくる。

「終わった。10パーセントで買収」

「まあ、そんなもんですかね? ナナカちゃんも10パーセントですし。サツキさんに話っていうのは?」

「移籍のことを謝るんだってさ。土下座でもしてんじゃね?」

わざわざ2人きりにしてほしいって頼むんだもん。

「あー……してそう」

「身内の話だし、俺らは関与しないようにしよう」

俺はそう言って、テーブルの上にあるビールを取ると中身が空だった。

「そうですね。あ、飲みます? 取ってきますよ」

そう言って、立ち上がり、キッチンに向かうカエデちゃんの後ろ姿を見ていると、誘惑には負けないぞ、と強く思えた。