作品タイトル不明
第272話 また護衛
「まあ、わからないものを考えても仕方がないわ。無事に封殺できたことを喜びましょう。その本はどうするの?」
「私は処分が良いと思いますね。アルク、どうですか? あなたが決めてください」
リディアちゃんは旦那である次期王のアルクに確認する。
「僕も処分で良いと思うよ。そんな本はいらないし、流出しても困る。燃やしてしまおう」
「では、そのように……適当なところで燃やしておきます」
「お願い」
アルクとリディアちゃんが頷き合った。
「これは私がもらってもいいのよね?」
石を取り出して、見せる。
「それは師匠のものです。我々がどうこう言うことではありません」
「それ、何? 石ころ? 洞窟で拾ってきたの?」
アルクが呆れた顔で聞いてきた。
「その部屋には机があったね。そこにこの石が隠してあったのよ。これは生命の結晶よ」
「生命の結晶!? あの!? すごい! 初めて見た…………いや、結晶じゃないじゃん」
まあね。
「これをクレアが見つけたんだけど、買収に手間取ったわ」
「だろうね。あのおばさん、ヨシノとは違う方向の守銭奴だもん」
ホントだわ。
「大変でしたねー。エレノアさん、剣を抜いてクレアさんを殺そうとするし、クレアさんはクレアさんで絶対に譲らない姿勢でしたから一触即発でしたよ……ハァ」
ナナポンがやれやれと言った感じでため息をつく。
「君らは人間性がねー……それで買収できたの?」
「仕方がないからキュアポーションと交換してあげたわ。喜んで交換してくれたし、今頃、裏のオークションとやらに出す準備でもしてるんじゃない?」
「裏のオークション……真っ黒だなー」
俺もそう思う。
「あいつはあいつでブラックだからね。まあ、上手くやるでしょう」
「だといいけど…………ところで、それ、どうするの? 生命の水を作れるんだよね? 作って売る?」
どうしよっかねー?
「ちょっと考えてみるわ。冒険者を引退したからそこまで必要性があるわけではないし」
こっちの世界では使えないし。
「まあ、君は家でゴロゴロしてるだけだしね」
「そうね。とにかく、これでお仕事は終了。たいした稼ぎじゃなかったけど、暇つぶしにはなったわ」
特にサンドドラゴン狩りは良かったな。
弟子2人の尊敬度が上がった気がする。
「お疲れ様。ねえ、暇になった?」
「暇か暇じゃないかと言われたら暇じゃないとは言えないわね」
「遠回しに言ってるけど、暇なんだね?」
「そうね」
やることはない。
「じゃあ、ちょっと手伝ってくれない?」
「何? 何かのお仕事? 言っておくけど、事務はできないわよ?」
「知ってる。君にそんなことは頼まないよ。ちょっと護衛を頼みたいんだよ」
まあ、俺に頼むのはそっち方面だわな。
「何? あんた、危ない仕事でもするの? 次期王様なんだからそんなのは部下に任せなさいよ。この前、命を狙われたのを忘れたの?」
「わかってるよ。その命を狙ってきた奴の家に詰問に行くんだ」
「犯人がわかったの? あのヨシノさんが言っていた奴?」
「だね。証拠も上がった」
へー……
「あんたが詰問に行くの? 危なくない?」
「当然、護衛の兵士を連れていくよ。それに自らが行くことで度胸を示すわけ」
度胸ねー。
「私を連れていくくせに?」
「実際の度胸はどうでもいいよ。そう示したいだけ」
ふーん……
「ついていくのはいいけど、斬ってもいいわけ? 抵抗するかもよ?」
「斬ってもいいよ。どうせ死刑だし、証拠は掴んでいるからね」
じゃあ、楽だな。
「いいわよ。いつ行くの?」
「明日」
早いなー。
別にいいけど。
「じゃあ、明日ついていってあげるわ。弟子に何かあったら嫌だしね」
「あのさ、僕、弟子なの? もう無理な感じ?」
「無理ね。尊敬しなさい」
「僕、君ほど尊敬できない存在は知らないんだけど……」
いいぞ。
その挑発を磨け。
高みを目指せ。
挑発王アルクになるんだ。
「行くのは私一人でいい? ナナカさんやヨシノさんは?」
「捕まえに行くだけだから君だけでいいよ」
「わかった。明日ね。どうせ明日はカエデちゃんもいないし、ちょうどいいわ」
カエデちゃんがいない時点で明日の予定はチビのゲームを眺めるだけだし。
「じゃあ、お願いね。朝からだから」
「はいはい。三日連続早起きね……行くのはやっぱり私?」
「まあ、すでに認知されているし、この際だしね。ハジメよりかは良いと思う。向こうも君を見たら抵抗を辞めるんじゃない?」
どうだろうね?
どっちみち、死刑なわけだし、無理にでも抵抗をする可能性もある。
「わかった。私が行きましょう。危なくなったら逃げなさいね。その間に皆殺しにしておくから」
「この魔女、怖いよー……」
「さっきのサンドドラゴンの惨殺劇を見ているから冗談に聞こえません」
「頼もしいですね」
冗談じゃないし。
「……まあいいわ。ミーア、黒ローブを洗濯するのはいいけど、明日までには着れるようにしておいてね」
「かしこまりました。アルク様をよろしくお願いいたします」
ミーアが恭しく頭を下げる。
そういえばだけど、本来はミーアが侍女を兼ねた護衛だったな。
ちょっと強いらしいけど、まあ、ミーアはウチのメイドで仕事もあるし、俺がやった方が良いだろう。
「よし、景気付けに今日は焼肉にしよう」
「わーい」
「やったー」
アルクとナナポンが喜ぶ。
「夏は焼肉にビールですよねー」
ねー。
「ミーア、私はハラミが良いのでそのように……」
「かしこまりました。買ってきます」
グルメなリディアちゃんが命じると、ミーアが頷いた。
いやー、夏は良いね。