軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話 スタイルの戦い

支配人さんが使いを寄こしてくれたようで、兵士の方がマッシュの無事を私たちに伝えに来てくれた。

ダメージはあるものの深刻な怪我ではなく、本日中に帰れるとのこと。

その報告を聞いてようやく安心できたけど……。

やっぱりアールジャックさんは怖かったなぁ。

「マッシュに大きな怪我もなく一安心ですね」

「はい。かなり一方的にやられていたので私も心配していましたが、良かったです。やはり絶対王者なだけあって、アールジャックさんは強かったですね」

「僕はマッシュなら勝てると思っていたんですけど……! 本気で戦っていたら分からないと思いますし、色々と悔しいです!」

安心したためか、悔しい気持ちが湧き上がってきた様子のジョエル君。

私も悔しいし、能力や魔法も使えていたら分からなかったとは思うけど、武闘大会のルールを把握した上での参加だから文句は言えない。

「あっ、ガロさんが出てきたみたい。どうやら奥の会場のようね」

「本当ですね。若干遠いですが、この席は高さがある分、しっかり見えます」

来賓席は会場の熱が伝わりづらいものの、観戦には本当に向いている。

遠さはあるものの、高さのおかげでしっかりとガロさんの姿を捉えられている。

「ガロさんの相手も巨漢ですよ! アールジャックさんほどではないですけど、背がすごく高いですね!」

「その上で槍使いのようだね。リーチが長くてやりづらそうだよ」

「ガロとやらは……短剣? 片手剣使いじゃなかったか?」

予選はすべて片手剣だったし、これまで喧嘩の仲裁をしてくれた時も片手剣を腰に差していた。

『レガースキッド』で飾られていたのも片手剣だったから、片手剣使いであることは間違いないと思うけど、相手を見て短剣に決めたように見える。

「試合が始まったようです。先手は相手からですね」

リーチの長さも相まって、これまで初手の攻撃で沈めてきたガロさんだったが、今大会で初めて先手を奪われた。

長い腕で長い槍を突き込んでくるが、ガロさんは舞うように攻撃を躱している。

その動きは華麗そのもので、アールジャックさんの攻撃のように一撃ごとにドッと沸く類ではないけど、躱すたびにじわじわと歓声が上がり始めた。

私から見たら目にも止まらぬ高速の突きだけど、ガロさんは掠ることなく全てを避け切っている。

そして盛り上がりが最高潮になったところで、ゆっくり前進を開始。

わざと突きを放たせながら、一歩ずつ距離を詰めていく。

近づけば近づくほど槍を避けるのが難しくなるはずなのに、完璧に躱し切るガロさん。

そんな状況に音を上げたのは、まさかの相手の方だった。

槍を落とし、頭を抱えてうずくまる相手。

近づいてくるガロさんへの恐怖で、敵前逃亡してしまった形だと思う。

「すっご! 一発も攻撃をせずに勝ってしまいましたよ!」

「攻撃をしないで心を折るって化け物だね。流石は佐藤の友達だよ」

「力でねじ伏せたアールジャックさんと、攻撃せずにねじ伏せたガロさん。……今大会がこれだけ盛り上がっている理由が、トーナメント初戦でよく分かりました」

まさにスタイルウォーズ。

パワーとテクニック、どちらが強いのか。

現役を退いたガロさんを心配していたはずなのに、今や私も両者の対戦を期待してしまっている。

会場中が、アールジャックさんとガロさんのどちらが強いか議論し始めた――そんな空気を感じていた、その時。

「――ふぎゃ!」

悲鳴に近い声が聞こえ、手前に視線を向けると……そこには黄金色のぷよぷよボディが小さく跳ねていた。

もちろんライムであり、私たちが奥のガロさんたちに意識を向けている間に、手前で行われた試合を一瞬で終わらせたらしい。

開始タイミングが悪かったうえに一瞬で試合が終わったことで、ライムの試合を見ていた人はほとんどいない。

会場がざわざわし出す中、ぽつりぽつりと拍手が起こった。

絶対に他意はないだろうけど、アールジャックさんとガロさんだけじゃないぞと言っているような勝ち方。

「うわぁー! ライムの試合を見逃しちゃいました!」

「私もです。ガロさんの試合がすごすぎて、ライムに視線が向かなかったですね」

「ほとんどの人が見られていないんじゃないでしょうか? でも予選に続き、一撃で勝負を決めたということですよね? 見られていませんが、勝ち方は凄まじいです」

ライムも強みは消されているけど、体を硬化させることは可能だからね。

ぷよぷよボディをバネのように引き絞って飛び、接触の瞬間に硬化して突撃。

これだけで十分に脅威になり得るし、止められる闘士は滅多にいないはず。

ライムはまだ、全然優勝の可能性があり得ると思う。

そんなことを考えつつ、今日の武闘大会の見どころは終了。

せっかくならスピンさんも見たかったけど、会場を出るのが遅れれば遅れるほど混雑に巻き込まれてしまうため、初日はこれで宿に戻ることにしたのだった。