作品タイトル不明
第307話 はんなり
縁日の開催から3日が経過。
お祭りの後片付けも綺麗に終わり、ようやくいつもの日常に戻ってきた。
縁日全体の売り上げも想定以上。
そして、屋台や花火も大好評だったということで、未だに王都では大きな話題になっているとサムさんやベルベットさんが教えてくれた。
交通の便や宿泊施設の充実さ、その他諸々を考えて、次は王都で開催してほしいという話も出ているんだけど……。
来年も変わらずここで行うと思う。
来年には宿もオープンしているだろうし、王都からの交通の便ももう少し良くしたいとも考えている。
色々と考えなくてはいけないことはたくさんあるんだけど、今は縁日や後片付けの疲れを癒すべく、何も考えずのんびりしたい。
ということで、農作業を終えた後、ライムやスライムが遊んでいるのを眺めながら、ハンモックでゴロゴロする。
このハンモックはシッドさんが作ってくれたもので、寝心地がとても良い。
なんでもヘビーモスという大きな蛾の魔物の幼虫の糸から作った繊維で、丈夫で肌触りも良いのだ。
幼虫のサイズも1メートル以上あると言っていたため、その背景を聞いたら以前の私なら嫌悪していただろう。
畑仕事や自然の中での暮らしで虫への耐性がつき、従魔やダンジョン攻略で魔物への耐性もついたからこそ、こうして何も考えずに眠れている。
このまま軽く昼寝でもしようかなと、うとうとし始めたタイミングで……王都方面から誰かが近づいてくるのが見えた。
最近のイベント開催のおかげで来訪者自体はかなり増えたんだけど、徒歩でやってくる人はかなり珍しい。
それだけで気になって見ていたんだけど、徒歩以上に珍しいものがついていることで、眠気が一気に吹き飛んだ。
近づいてくる人の頭には大きな耳、そしてお尻には尻尾。
まだシルエットしか見えない段階だけど、私はすぐに獣人であることが分かった。
ハンモックから下りて私の方からも近づくと、その姿をはっきりと見ることができた。
大きな耳や尻尾はモフモフで、色合いも含めてキツネっぽい感じ。
ただ、獣人っぽい箇所は耳と尻尾だけで、他は完全に人間だ。
というか、切れ長の目に完璧な配置の鼻と口。
獣人であることに目がいっていて気づかなかったけど、物凄い美人な方だなぁ。
「ちょっとええやろか? 佐藤さんという方に会いに来たんやけど、どこにおらはるか知ってはります?」
おぉ……見た目のクールな印象とは違う、おっとりとした舞妓さんのような喋り方。
ヤトさんは別として、ハリー君は訛っていた感じがしたし、この世界にも方言が存在するようだ。
「あっ、私が佐藤ですが……どちら様でしょうか?」
「あんさんが佐藤さんやったんやね。うち、レティシア言います。クリスティーナ様に言われて、今回は視察に来さしてもろたんよ。よろしゅうお頼もうします」
深々と頭を下げながら自己紹介するレティシアさん。
なるほど、クリスさんの使いの方だったか。
「奴隷の方を引き受けるという話のことですよね? 視察ということは、レティシアさんが受け入れられないと判断したら、受け入れの話はなしになるということですか?」
「まぁ、そないなところ。ただなぁ、視察のほんまの目的は、裏切ってはらへんかどうか確かめることやし……せやから受け入れてもろうことになる思います」
「急にやってきたのは、そういう理由だったんですね。安心してください。裏切るという行為だけはしませんので」
「疑うようなことしてもうて、ごめんなさいな」
「いえいえ、大丈夫ですよ。とりあえず中に入ってください」
私はレティシアさんを別荘の中に招き入れることにした。
クリスさんの使いの方なら、丁寧に扱わないといけない。
単純に敵に回したくないというのもあるけど、また買い物に行きたいからね。
「こちらお茶とお菓子です。食べてください」
「わざわざかんにんな。実はうちからも渡したいもんがあってな……これ、クリスティーナ様から佐藤さんへの贈り物なんよ」
レティシアさんが鞄から取り出したのは2匹の動物。
小さくてツンツンした針を持っている可愛らしい動物は……まさか電気を発することができるハリネズミ!?
「その動物って、まさか……」
「佐藤さんが欲しがってはった、エレクトリックマウスちゅう動物や言うてはりました」
「ありがとうございます! ただ、こんなに高額な動物をお譲りいただいてもいいんでしょうか?」
「もちろん。よう可愛がってあげてほしいって言うてはりました」
私が両手を出すと、口をもぞもぞさせながら手のひらに乗ってきたエレクトリックマウスたち。
その可愛さに癒されるも、この子たちの値段を知っているから申し訳なさも感じている。
レティシアさんをおもてなしする予定が、私の方が想像以上のおもてなしをされてしまった。
額が額なだけに受け取らない選択も頭を過ったんだけど、ここはクリスさんのご厚意に甘えて、エレクトリックマウスたちを大事に飼育させてもらおう。