軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

73.伝説の冒険者

その日、魔法騎士学園は期末試験で行われるダンジョン攻略戦のため先生を呼んでいた。

大抵はAランクの冒険者やギルドマスターが来たりして学生に指導するのだが、今年は異例なことにSランクの冒険者だった。

「やっ」

短い腕を上に伸ばして、レインは挨拶をする。

広間に集められた学生たちは、ちんちくりんな姿をした褐色エルフ娘に困惑する。

「これが本当に伝説の冒険者か?」

「迷子じゃないの……?」

「ちょっと可愛いかも」

様々な意見が飛び交い、レインが半眼でムッとする。

「伝説の冒険者だし、迷子じゃないよ」

淡々とした口調で言い、俺はその言葉を聞いて苦笑いを浮かべた。

アハハ、自分で言っちゃダメだよ……。

「本物の証拠見せてくださいよー!」

生徒の誰かが言った。レインはそれに、「良いよ」と答えて杖を構える。

「じゃあ、あそこの的ね」

設置されていた訓練用の的に向かって、レインは魔法を唱える。

「【断水穿】」

レインの足元から風が吹く。

次第に杖先に水が溢れ圧縮した。

ビュンッという音と共に放たれた鋭い一撃が、的に命中する。

砂埃をあげ、的に穴が開く。

見ていた生徒たちが沈黙に落ちる。

「さて、問題。今、私がやったことわかる人いる?」

その場にいた生徒の誰も手を上げようとしない。

誰も分からないのだ。

またも機嫌が悪そうにレインがムッとする。

「……最近の学生のレベルはどうなってるの。昔より酷いよ」

そういって、俺と目が合う。

「あっ、アルト。やっぱり居た」

生徒たちの視線が集まる。

俺が軽く手を振ると、レインが言う。

「アルト答えてよ、わかるでしょ」

奇妙な視線に晒されながら、俺は答える。

「【断水穿】は普通の【 水撃(ウォーターショック) 】よりも高濃度に圧縮した魔法だよね。一点集中に出力するから、難しい魔法だよ」

「正解、流石」

魔法は得意ではないんだけど、原理くらいは把握している。レインがやったのは、長年の技術で培ってきたからこそできる芸当だ。

「分かるのかよ……」

「私、全然見えなかったのに……」

「てか、伝説の冒険者と顔見知りっぽいぞ……? 本当に何者だよ……」

レインが俺たちのそばへ近寄る。

「なんだ、君たちもいたんだ」

「君たちも、とはなんだ。レイン」

ウルクが怪訝そうな顔をした。

「深い意味はないよ」

俺は気になったことを聞く。

「ところで、なんでレインが学園に?」

「レーモンにお願いされたんだ。大量のお菓子あげるから、先生やってって」

ウルクがため息を漏らした。

「レイン……私は少し不安だぞ。お茶会の時もそうだが、お菓子で釣られすぎじゃないか?」

「失礼だよ。私はそんな軽い子じゃないよ」

ウルクが懐から飴を取り出す。

それを頭上に掲げると、レインが手を伸ばして「わ、わ〜」と声を漏らした。

「……届かない。怒るよ」

「悪い人に利用されそうで怖いんだ。簡単に釣られないと約束するのなら、渡してやる」

「分かった、約束する」

ここまで信用できない約束はないなぁ、と俺は思う。

だが、レインが嬉しそうに飴を食べたので黙ってることにした。

「……ん? あれ、聖女がいる」

「あ、どうも……初めまして、セシリアと言います」

聖女という言葉にレインは思い入れがあるのか、静かにセシリアを数秒ほど眺めていた。

「……懐かしいね。先代の聖女を思い出すよ」

「先代……ですか? どういう方だったんですか?」

「よくお菓子くれた」

その場にいた全員が(そこかよ……)と思う。

「魔法の制御はどこまでできるの、セシリア」

「全然です……ずっと農民だったので……」

「うん、じゃあ丁度いいかな」

その言葉に、俺が問いかける。

「丁度良いって?」

「もう一人、連れてきたから。一緒にやらせる。成長にはライバルや仲間が必須」

そういって、レインが指を差した。

「あそこにいるよ」

視線の先に、大量の荷物を持たされてご立腹のウェンティがいた。

「なんで! 私が! あんたの荷物持ちをやらされてるのよ!」

「仕方ないよ。学園に来てすぐ授業だったから」

「レイン! あんたが道中で食べ歩きなんかしだすからでしょ!?」

レインが視線を逸らす。

なぜウェンティが……と思うと、レインが言う。

「 お姉ちゃん(ラクス) にお願いされたんだ。魔法を教えに行くならウェンティにも教えてあげてって。特別だから教えてる」

「そっか。ウェンティのためにありがとう、レイン」

俺が感謝をすると、ウェンティが言う。

「なんでアルトが感謝するのよ……私の保護者じゃないんだから」

少し機嫌を悪くしたのか、ウェンティが頬を膨らませる。

「ごめんごめん」

「……謝んないでよ」

「そういう目で見て欲しくないだけなのに……」とウェンティが呟く。

レインが杖の底で、トントンと地面を叩く。

「アルトたちにも課題があるよ」

「課題?」

俺は魔法騎士学園に来てから、自分に多く課題があることを知った。

貴族らしい口調も結局できてないし。

「特製のゴーレム作ってきたから、倒して」

そういって、レインは魔法で数体のゴーレムを出現させる。

「アルト、手本」

どうやら、ゴーレムを倒せと言うらしい。

それくらいなら訳ないけど……。

「アルトのゴーレムだけ強さはSランク並みに設定してあるよ」

「レイン、それはやり過ぎじゃない?」

流石の俺でも、Sランク並みの魔物の強さは知っている。

何度も接敵しているし、倒してはきた。戦闘を重ねるごとに、俺はダメージを負うようになっていた。

「無理?」

「いや、できるよ」

俺はゴーレムの前に立って、付与魔法で身体強化をしようとする。

「【付与────」

その瞬間、場が静まり返る。

レインが俺の目の前に杖を構えた。

「それ、禁止」

先ほどまでの抜けた雰囲気とは違う。

戦闘時に見せる、透き通ったような瞳だ。

そこに一切の隙はない。

俺が魔法を使えば、迷わず魔法を撃ってくるだろう。

レインの威圧に押された生徒たちが全員後退りする。

可愛さや愛嬌など微塵も感じ取れなかった。

「アルト。確かにアルトが【付与魔法】を使えば、強さは私に匹敵する……けど、反動がデカすぎるよ」

身体強化は大幅に力を引き上げるが、比例して身体へのダメージはデカくなる。

「違う方法を、探すべき」

「……違う、方法」

悩む俺を見て、レインは杖を下げる。

レインの真面目な雰囲気が消え去り、ふにゃっとした表情をしたのちにウルクの元へ寄った。

「抱っこして」

「え……私がするのか?」

「疲れた。クッションあった方が、楽」

「そ、そうか。よく分からないが、こうでいいか?」

ウルクがぬいぐるみのようにレインを抱きかかえる。ウルクの胸が良い感じのクッションになっていた。

それを隣で見ていたレアが、イラッとした表情見せる。

「なんだか、いきなり横から殴られた気分ですね」

俺は目の前にいる起動したゴーレムに向かって、剣を抜く。

(生き物と違って、ゴーレムの表面は岩だ。普通の石なら切り裂くことも容易だけど、レインの用意した物なら対策済みだろう。戦い方を変える必要がある)

【付与魔法】を使えば、そういうしがらみを無視して切り裂くこともできるだろう。

でも、使わずにやる必要がある。

目先まで剣を持ち上げる。

「はぁっ────」

深く息を吐いて集中する。

そして、俺は地面を蹴った。