軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58.ウェンティの錬金術

フィレンツェ街に戻って数日後、俺は久しぶりに孤児院へ足を運んでいた。

ラクスさんたちへゲリオット街のお土産を渡すと、凄く喜んでくれる。

子どもたちが「アルトお兄ちゃんのお土産、おいしい~!」と叫ぶ中で、ラクスさんが言う。

「ありがとうございます、アルトさん」

「いえ、あと【 神秘の蜜(ダーオット) 】はウェンティの好物の一つですから、飲ませてあげてください」

「ふふっ、流石はアルトさんです。ウェンティのこととなれば、誰よりも詳しいですね」

「元執事ですから……アハハ」

ただの主従の関係ではないということをラクスさんは知っている。

家族のような関係……と俺が勝手に思ってるんだけど。ウェンティ自身はどう考えているのかな。

辺りを見渡すと、当の本人が居ないことに気付く。

「あれ、ウェンティはいないんですか?」

「うーん……話しても良いんでしょうか」

頬に手を当て、意味深なことを言うラクスが目を瞑る。

すると、そこへ声が響いた。

「やったわ! やったわよラクス!」

水に濡れて透けた服のウェンティが現れる。

やけに嬉しそうな顔だったが、ラクスさんの隣にいる俺を見て、目を丸くした。

「あ、アルト……アルト!? もう帰ってきたの!?」

「うん、ただいま。濡れてるけど、どうしたの」

「え?」

そう言われたウェンティは、自分を見下ろして見てカーッと顔を赤くする。

ウェンティは咄嗟に姿を隠した。

「帰ってくるなら帰ってくるって手紙寄こしなさいよ!」

「手紙出すよりも、会いに来た方が早いかなって……嫌だったかな」

「くぅっ……うっさい」

ウェンティの顔は見えないが、どこかうわずった声をしていた。

俺は首を傾げる。

(ウェンティ、なんだか少し変だな。いまさら緊張するような間柄でもないはずだし……)

ラクスが苦笑いを浮かべた。

「ウェンティ、何かアルトさんに見せたい物があるのでしょ?」

「見せたい物……ですか?」

それから着替えてきたウェンティに連れられて、孤児院のお風呂場にやってくる。

綺麗に並べられた道具を見て、俺は悩む。

(あれはラクスさんのポーションだし、錬金術関連で使う道具もある……)

何をするのだろう、と見ているとウェンティが自慢げな表情を浮かべた。

「実は私、【調合】が使えるのよ!」

「っ!!」

驚いた俺の顔に気分を良くしたウェンティが、ポーションを使って【調合】をして見せた。

お風呂の色が変わり、香りが漂い始める。

「あのウェンティが……勉強して……魔法を……」

「むっ……ねぇちょっと、そっちの方の驚きなの?」

いやもちろん、錬金術の魔法を使えるようになったことも驚きだ。

だって、昔からウェンティは勉強を嫌っていた。口癖はそう、『どうせ必要ない』だった。

そのウェンティが、俺がいない間に努力して魔法を使って見せた。

【調合】して出来上がったお風呂に手を浸す。

「……うん、しっかりと疲労回復に効果のあるお風呂になってる。凄いよウェンティ!」

嬉しそうにしつつ、それを突っぱねるように鼻を高くした。

「当然のことよ。確かに、錬金術って難易度が高くて取得するのが難しいけど、なんかすんなりと頭に入ってきたのよね」

あ、そうか。とそこで俺は気づく。

「ウェンティ。昔のルーベド家は錬金術の家系でもあったんだよ。当主……ウェンティのお父さんは貧乏くさいと言って毛嫌いしていたんだけどね。代々受け継がれていた工房も壊してたし」

俺はそれを見て、せっかく代々から大事にされていたものなのに勿体ないなと思った。

「え……そうなの?」

だからルーベド家に錬金術の本が置いてあって、俺もそこから錬金術を学んだ。

ウェンティは家のことに一切興味がなかったし、その父も錬金術を嫌っていた。ウェンティが知らないのも無理はないかもしれない。

でも、その才能はウェンティにもしっかり受け継がれていたようだ。

ウェンティがつぶやく。

「お父様……か」

隣にいたラクスさんが俺と同じように、手を浸した。

「ウェンティ、このお風呂がさっき成功した例のですか?」

「えぇ、そうよ」

「ポーションの混ざりが荒いですね。そのせいで疲労への効能が低いです。それにアルトさんと比べてお風呂の色も薄くなっています。もっとアルトさんのはポーションの薄青が色濃く出ていますから」

いつもは優しいラクスさんが厳しく言うことに、俺は少し驚いた。

ウェンティは慣れているようで、すぐに反論する。

「なっ! アルトと比べるの!?」

「当然でしょう。アルトさんの代わりにウェンティが【調合】でお風呂を作れるようになりたい、と言っていたではありませんか」

へぇ、そのために頑張ってくれたのか。

ちょっとだけ嬉しく思う。

ウェンティが眉を引くつかせた。

「やってやればいいんでしょ!? もう、どこが悪かったって言うのよ……たぶん、練度の問題……メモしなきゃ」

メモを取るウェンティから見えないよう、ラクスさんが俺へ耳打ちする。

「アルトさんは優しいですから、私が厳しく言います」

「アハハ……すみません」

「いえ、アルトさんにはウェンティを褒めてもらうという仕事がありますから」

「俺がウェンティを?」

「私が褒めるよりも、そっちの方がきっと喜びます」

うーん、本当かな?

俺がウェンティを褒めても、そんなに喜ぶとは思えないけど。

ウェンティを見る。

(ラクスさんが褒めろって言ってたし、何かご褒美とか必要かな)

「ウェンティ」

「何よ」

「頑張ったご褒美とか、いる?」

ウェンティの手が止まる。

「アルトからの……ご褒美……欲しいわ」

「良かった。ウェンティの好きな【 神秘の蜜(ダーオット) 】を持ってきたから、飲もうか」

「もちろん飲むわ!」

ラクスが軽く笑って思う。

(ウェンティ、今までで一番嬉しそうでしたね。そんなにアルトさんに褒められるのが嬉しかったの)

やはりこれが素のウェンティなのだろう、と思う。

歪んでしまったウェンティを素に戻すことができたのは、アルトさんのお陰に違いない。

アルトさんの天性の明るさや優しさが、たまに良いな……と思ってしまう。

(私がもう少し若ければ……ふふっ)