軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56.伝承

ゲリオット伯爵の屋敷に主要メンバーが集まっていた。俺はその光景に、暗黒バッタの時に会議したことを思い出す。

あの時は既に暗黒バッタの大群が迫っていたけど、今は状況が違う。

緊迫とした表情をするゲリオット伯爵に対し、レーモンやテッドさんたちは落ち着いた様子を見せていた。

レーモンが紅茶を口にする。

「ほぉ、良い茶葉じゃな」

俺はあっ、と気付いて紅茶について話した。

「ゲリオット街の紅茶は王室にも献上されるほどの品で最高級品なんですよ。名前は確か……【 神秘の蜜(ダーオット) 】」

近くに居たゲリオット伯爵が感嘆の声を漏らした。

「ほぉ! 【 神秘の蜜(ダーオット) 】はあまり知られていないのにアルト殿はよくご存じだ!」

「確かに有名ではありませんが、その土地の味を知れば、自ずと領民の努力も分かるというもの。ゲリオット街の紅茶はとても美味しいですよ。個人的に一番だと思います」

「おぉこれは……アルト殿、ありがとう」

ぷっくりとお腹の膨らんでいるゲリオット伯爵に感謝される。

「ふむ、確かに菓子によく合うな。アルトが認めるのも分かる」

ウルクやレアもそれに続いて、緊張した空気が僅かに軽くなる。

椅子が低くて鼻元までしか顔が見えないレインが、頬を膨らませていた。

「お菓子、遠い。届かない」

そんなレインに、ため息をつきながらザッシュがお菓子を近寄せた。

愛槍を肩に携えながら、相変わらず不愛想だった。

「いらないの?」

「俺は甘い物も紅茶も飲まねえ」

「ふーん、ならもらう。ありがとう」

レインがパクパクと食べる横で、ウルクがつぶやく。

「この味ならイスフィール家に卸しても良いかもしれないな……」

「なんと! それは誠ですかウルク様!」

「あぁ、おじい様も認めて下さればだが。どうでしょう、おじい様」

「そうじゃな、これなら品質に問題はない。今度、大量に使う機会があるからのぉ」

「では……もしやイスフィール家の方々に……」

「うむ、良いじゃろう。買うとしよう」

大量に使う機会ってなんだろう……って思っているとゲリオット伯爵が両手を合わせ、目を輝かせた。

「イスフィール家の方々に認められたとあれば、光栄なことです……!」

「良かったですね、ゲリオットさん」

「アルト殿のお陰だ! 美味しいと言ってくれてありがとう!」

俺は微笑む。

すると、ゲリオット伯爵がはっとした表情をする。

「おっと! 事件の話をすっかり忘れてた……アルト殿! 事件は解決できそうか……?」

その言葉に、場に緊張が走る。

「はい。解決してます。元凶も倒しました」

「それは……! まさか、Sランク級の魔物が居たのか⁉」

ウルクの言葉に、俺は首を横に振る。

「まず、家畜や死体が消えた原因は【 死肉を荒らす者(デビル・ドブネズミ) 】だよ」

「【 死肉を荒らす者(デビル・ドブネズミ) 】……?」

「Bランクの魔物なんだけど、数十年も放置されていた【地下迷宮】で大量繁殖してたんだ」

「なっ!!」

周囲が驚いた表情をした。

「アルト! それは本当か⁉」

「う、うん……三人でなんとか全滅させたよ」

ザッシュの顔色が一瞬青ざめる。

まるで思い出したくないと言ったような顔だ。

レアが問う。

「大量繫殖って……何匹居たのですか?」

「えーっと、1000匹くらいかな?」

「そ、それをたった三人で……? アルト様は相変わらず、やることが凄いですね……」

ザッシュがそこで口を挟んだ。

「待て。俺はほぼ巻き込まれただけで何もしてねえよ。この化け物共と一緒にしないでくれ、俺はまだ人間なんでね」

まるで俺が人間ではない、と言いたげな口ぶりにウルクとレアの表情が険しくなる。

場を和ませるように、俺は乾いた笑い声を漏らした。

ゲリオット伯爵が聞きづらそうに、俺へ問う。

「で、ではアルト殿。冒険者が消えたというのは?」

「少し前に大雨がありませんでしたか?」

「水路が氾濫するくらいの大雨はあったが……」

「おそらくですが、その雨の影響で【地下迷宮】にAランクの魔物が流されてしまったようです」

「……ッ!!」

三人で倒したAランクは3匹だが、なかなか手強かった。

あれでは普通のAランクの冒険者がやられてしまうのも納得が行く。

全てが必ずしも、Sランクの魔物によって引き起こされる事件じゃない。

小さなことが積み重なったり、自然災害によって引き起こされることもあるんだ。

「……なら、アルト殿。このザッシュという武器商人は一体なぜ【地下迷宮】に?」

周囲の視線が一気にザッシュへ向く。

渋々、と言った様子で語りだす。

「あぁ? ……チッ、行方不明者のAランク冒険者は、俺の弟だ。連絡が取れなくなったから調べてみたら、【地下迷宮】に行ったっきり帰って来ねえって言うからな……まぁ、あれじゃあ死体も食われちまっただろうな。聖堂にでも行って、祈りを捧げるさ」

どこか消沈した様子のザッシュだったが、「冒険者なら、仕方のねえことだ」と言って割り切っていた。

弟だったのか。ザッシュさんにとって、大事な家族だったはずだ。

それでも、人前で弱気な姿を見せないのはザッシュさんらしい。

「まさか、アルト殿が来ただけでこうも解決してしまうとは……噂に違わぬ実力だ!」

ウルクが腕を組んで考える。

「でも、この辺でAランクの魔物が出現するなんて……いや、前に 滅尽の樹魔(エクス・ウッズ) は目撃されたが……そもそも、一体どこから……?」

ウルクの言葉に、その場にいた全員が考え込む。

俺もかなり考えたが、この周辺に特別な土地はない。そもそも、ゲリオット街ですら人々は平和に暮らしているだけだ。

そんな中、長寿でありエルフのレインだけが【地下迷宮】の地図水路を見て呟く。

「……精霊樹ファルブラヴ森林」

精霊樹ファルブラヴ森林?

俺はその単語がよく分からなかった。

だが、その場にいた全員は張り詰めたような表情をしていた。

「えっと、皆さん……? なんでそんな驚いてるんですか?」

レーモンが目を見開いて、

「なんじゃアルト。知らぬのか」

「す、すみません……」

「精霊樹ファルブラヴ森林は口承のみで言い伝えられている物じゃよ……書物や地図からも抹消されているがな」

口承で伝えられた物なんだ。

俺の回りだと昔話とか話してくれる人はいなかったからなぁ……。

レアが慰めてくれる。

「アルト様は隔離された環境で長年居たのですから、知らないのも無理はありません」

「ありがとうございます、レア王女殿下」

でも、なんで口承だけなんだろう。

「あそこは数百年も昔の森です。アルト様が気にするようなことではありません。まぁ……内部で何が起こっているのかは誰も知りませんが……」

レインが即座に言う。

「長い水路の先を見ると、唯一精霊樹ファルブラヴ森林と繋がってるから、可能性はそこしかない。でも、あそこは厳重な結界が張られていたはずだから、外部や内部にも干渉はできないはず」

ザッシュが冷や汗を掻きながら言う。

「おいおい、その森にはSランクの魔物がゴロゴロいるって話を聞いたことがあんぜ? 本当に大丈夫かよ」

「私も昔、戦ったことがあるよ。精霊樹ファルブラヴ森林から出て来たSランクの魔物、あれは強かった、仲間の一人が死んだからね」

「レインの仲間って……お前らと同じ実力くらいだよな……マジかよ……」

その言葉に、ザッシュが息を飲む。

ゲリオット街を守る役目があるゲリオット伯爵は、焦った様子を見せた。

「そ、そうです! 本当に精霊樹ファルブラヴ森林から流れてきたのなら……結界が緩くなっている証拠です! 国王陛下に報告して唯一、結界を直せる聖女様を至急呼ばなければ……!」

「だが聖女様は、まだ学業の身じゃ」

レーモンはレアと目を合わせた。

「儂から、国王陛下に調査を頼もう」

「そうですね、私もお父様……国王陛下へ話してみましょう」