軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第58話 傍受される狂気。G4の決議と傲慢な皮算用

スイス・アルプス山脈の奥深く。『シャトー・デ・エーデルワイス』の地下に設けられた絶対の密室では、G4(臨時四ヶ国協調体制)の首脳陣による、イージス・イノベーションズ排除のための『国家の総力戦』の決議が、熱を帯びた最終段階へと入っていた。

電波ジャミングと鉛の壁に守られた円卓の間。彼らは、自らが人類の歴史を正しく書き直す神にでもなったかのような高揚感に包まれていた。

「――軍事作戦の概要については、これで各国の合意が取れたと見なす」

アメリカのCIA長官が、テーブルの上に広げられた極東の海図を満足げに見下ろし、分厚い葉巻の先端を噛み切った。

「太平洋上に集結させたG4合同艦隊と航空戦力による、イージスの通信衛星網への物理的な威嚇と 電子妨害(ジャミング) 。そして、その死角を突いて潜入する四ヶ国合同の特殊部隊による、深海プラントの制圧および神盾宗一と家族の確保。……我々が国家の全リソースを一点に集中させれば、あの極東の悪魔とて必ず首を差し出すことになる」

「その通りだ。奴らがどれほど未知の技術を持っていようと、しょせんは軍隊を持たない一介の民間企業に過ぎない。大国が本気で押し潰せば、ひとたまりもない」

ロシアのFSB高官が、琥珀色のスコッチが入ったグラスを揺らしながら獰猛に笑った。

「さて、本題はここからだ」

中国の国家安全部(MSS)トップが、ギラついた欲望の瞳で円卓の面々を見回した。

「神盾宗一を排除し、イージス社を解体した後……奴らが独占していた『富と技術』を、我々でどう 再分配(シェア) するか。……戦後処理の青写真を、ここで明確にしておく必要がある」

その言葉に、部屋の空気が一段と重く、ドロドロとした狂気を帯びたものへと変わった。

彼らがイデオロギーを越えて手を組んだのは、人類を脅威から救うためなどという高尚な理由ではない。イージス社が吸い上げている『世界経済のすべて』と『究極のオーバーテクノロジー』を、自らの国家の胃袋に収めるためなのだ。

「まず、宇宙空間に展開されている 次世代通信衛星網(イージス・リンク) および、宇宙開発プラットフォームは、我がアメリカ合衆国が接収し、管理下に置く」

CIA長官が、当然の権利であるかのように傲慢に宣言した。

「我が国の宇宙軍は、奴らの妨害によって甚大な被害を受けたからな。その正当な賠償として、宇宙のインフラは我々が引き継ぎ、世界中に『安全な通信』を提供してやる」

「強欲なことだ。ならば、伊豆諸島沖の『深海プラント』と、全固体電池をはじめとするエネルギー技術の全特許は、我が中国とロシアで二分させてもらおう」

中国の諜報トップが、一歩も引かずに要求を突きつける。

「レアアースの精製と供給ルートは中国が管理し、メタンガスの抽出と欧州へのパイプラインの管理はロシアが担う。これで、世界のエネルギー市場は再び我々大国のコントロール下に戻るというわけだ」

「我が欧州連合は、そのエネルギーを優先的かつ適正な価格で供給されることを条件に、この分割案に賛同しよう。さらに、イージス社が保有する医療用ナノマシン等のバイオテクノロジーの特許群は、欧州の管理下に置かせてもらう」

欧州の安全保障理事会トップが、冷徹に計算された妥協案を提示する。

彼らは、まだ一発の銃弾も撃っていない段階から、獲物の皮を剥ぎ、その肉をどう切り分けるかを巡って、よだれを垂らしながら熱弁を振るっていた。

一企業の資産を国家間で山分けするという、法も倫理も完全に無視した狂気の皮算用。だが、彼らにとってはそれが『大国による正しい世界の秩序』なのだ。

「……だが、一つ問題が残る」

ロシアのFSB高官が、テーブルの上に置かれた『日本地図』をナイフの先端でトントンと叩いた。

「イージス社を解体したとして、日本政府が大人しく我々の『戦後処理』に従うだろうか? 連中も今や、資源大国としての旨味を存分に味わっている。神盾宗一という後ろ盾を失ったとはいえ、国家主権を盾に我々に反抗してくる可能性は高いぞ」

「だからこそ、日本という国家そのものを『教育』してやる必要がある」

CIA長官が、極めて残酷な、だが彼にとっては合理的としか思えない提案を口にした。

「イージス社は人類の脅威となる大量破壊兵器を密かに開発しており、日本政府はそのテロ組織を国家ぐるみで匿っていた……我々G4は、そういう 大義名分(ストーリー) をでっち上げる」

「なるほど」

「そして、国際社会の安全を確保するという名目で、G4の平和維持軍を日本本土に駐留させる。……北海道および東北はロシア。関東および中枢機能はアメリカ。関西から西日本は中国。そして九州および四国は欧州が管理する」

CIA長官は、太い万年筆を取り出し、日本地図の上に無慈悲な直線を引いて四つに分割した。

「G4による、日本列島の『分割統治』だ」

「素晴らしい」

中国のトップが手を叩いて賛同した。

「日本の官僚機構を完全に解体し、我々の意のままに動く傀儡政権を四つ樹立させる。そうすれば、深海から汲み上げられる資源の利益は、日本の国民に一滴も還元されることなく、すべて我々大国の懐に吸い上げられるというわけだ」

「極東の生意気な黄色い猿どもに、二度と我々を見下すような真似はさせない。永遠に浮上できないよう、我々の足元で泥を啜らせてやろう」

ロシアの高官も、残忍な笑みを浮かべてグラスを掲げた。

「では、決議しよう」

CIA長官が、再び円卓の中央に手を差し出した。

「イージス・イノベーションズの完全排除。技術と富の四分割。そして、日本列島の分割統治による永遠の管理。……この『G4・極東制圧シナリオ』を、我々の最終目標として承認する」

「異議なし」

「賛同する」

「人類の平和のために」

四人の影の支配者たちは、再び手を重ね合い、自らの欲望と傲慢さを「平和」という言葉でコーティングしながら、狂気の決議を可決した。

彼らは本気で、この計画が完璧であり、自分たちの覇権が再び約束されたのだと信じ切っていた。

自分たちの頭上のシャンデリアの影から、その醜悪な皮算用のすべてが、一字一句漏らさず『極東の悪魔』の耳へと届けられていることにも気づかずに。

* * *

「――以上が、スイスの古城で現在進行中の、G4トップたちによる狂気の決議の全容です」

地球の裏側。東京、六本木ヒルズ。

イージス・イノベーションズ本社の地下に広がるサイバー・コントロールルームで、ヴィクトル・イワノフが、極低温の殺気を孕んだ声で報告を締めくくった。

壁面の巨大モニターには、ナノ・ドローン『ベルゼブブ』が傍受した、大国の権力者たちの醜悪な笑顔と、赤いペンで四分割された日本地図が鮮明に映し出されている。

「……反吐が出ますね」

隣に立つ橘玲奈が、美貌を歪めて氷のように冷たい声で吐き捨てた。

「自分たちの無能を棚に上げ、他人の築き上げた富と技術を泥棒のように奪い取る計画を立てておきながら、それを『人類の平和のため』だと本気で信じ込んでいる。……彼らの頭蓋骨の中には、傲慢さしか詰まっていないのでしょうか」

『ヒャッハー!! 笑えるぜ! 宇宙の衛星網も、深海のプラントも、ボスのパスワードと生体認証がなけりゃ一秒で自爆するただの鉄屑だってことも知らねえで、山分けの相談で盛り上がってやがる!』

分割画面の向こうで、Dr.クリス・ウォーカーが腹を抱えて大爆笑している。

『アメリカが宇宙インフラを貰うだぁ? 中国とロシアがプラントを山分けするだぁ? あいつら、俺たちの技術をリバースエンジニアリングできるほどの知能すら持ってねえくせに、皮算用だけは一丁前だな!』

「笑い事ではないぞ、クリス」

私は特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、低く、這うような声で呟いた。

その声の奥底には、どんな爆発よりも恐ろしい、静かで絶対的な『激怒』がマグマのように渦巻いていた。

モニターに映し出された、赤いペンで四分割された日本地図。

前世で、サチコとユウキが光に飲み込まれたあの光景が脳裏をよぎった瞬間。

パキンッ、という乾いた音が響いた。私が手にしていた陶器のコーヒーカップが、握力に耐えきれずに砕け散ったのだ。