作品タイトル不明
1-8
撃ち切った弾倉を取り外してリロードする。
見渡す限り敵、敵、敵。
何処を撃っても当たる状況だが、一体に集中させなければ倒すこともままらない。
今俺が狙っているのは「昆虫型」と呼ばれる小型に分類される体高2メートル、全長は7メートルはありそうな体中から根のようなものを生やしたカブトムシに似たデペス。
確か「タイプA」に分類される突進以外に攻撃手段を持たない最も対処が簡単な寄生体である。
その分性能が高いのか攻防に優れ、突進の速度も侮れないので、戦闘能力に劣る支援タイプの英霊の下には辿り着かせないようにしなければならない。
そんな甲殻に対してこの初期武器が何処まで通用するか……と心配していたのだが、三つの弾倉を撃ち切ってリロードしようとしたところでようやく一匹が動かなくなった。
(一匹倒すのに三マガジンか! 序盤のハードモードよりも硬いぞ!)
攻撃が全く通用しないわけではないのが救いだが、この数をチマチマと一匹ずつ処理するとかどう考えても無理である。
ここはもう味方に期待するしかない、と豆鉄砲を連射しているその正面でリオレスの剣が三匹のデペスを一撃で薙ぎ払う。
続く連撃で周囲のデペスがバラバラになる。
これもう俺いらないんじゃないかな?
でも銃撃は続ける。
弾は無限だろうし、暇だからね。
縦横無尽に駆け回る英霊たちに当たらないように孤立した個体を狙っているのだが……倒すのが遅い、とばかりに他の連中が横からついでとばかりに始末していく。
凄まじい勢いで減るデペスと余裕綽々の英霊陣。
「弱ぇ弱ぇ! こんなもんかぁ! 人類の天敵ぃ!」
斧の一振りで爆散するデペスの群れ。
その空いた空間に突っ込むのは蛮族のおっさんデイデアラ。
タイトルを付けるなら「蛮族無双」で決まりという光景に俺の引き金を引く指が止まるほどだ。
「やることがありませんね」
いつの間にか隣にいた目隠し神官がぼやいている。
大きなシンボルが付いた杖を両手で横向きに持っている。
両腕に挟まれたことで激しく主張する胸に目が行くが、今はそれよりもこの状況で何ができるかを考えなくてはならない。
「回復役の出番がないのはいいことだ」
それだけ言って俺は前に出る。
できることがある分、状況的には彼女の方が俺よりマシだろう。
英霊たちが暴れすぎたのか、最前線までの空白地が初期武器の有効射程よりも長く伸びてしまっている。
そんなわけで走り出したところに後ろから声がかかる。
「回復魔法なんてありませんよ?」
神官ではなかったのか、と驚きのあまり思わず後ろを振り返る。
「神の恩寵を受けやすいのは事実ですが、ここには私が信じる神はおりませんので」
詳しく聞いてみたところ、どうやらサポートタイプと思っていたがアタッカーだったようだ。
信仰の力で味方にもバフがかかるらしいのだが、信仰を同じくする者でなければ効果は薄く、そもそもそれだけの力を得ることもできないのが現状であると彼女は語る。
「せめて儀式用の聖印でもあればできることも増えるのですけど……」
言葉を濁したことから用意できるものではないことが伺える。
つまり彼女には現状を変える手立てがない。
実質できることがない二人が揃ったわけだが……俺の記憶が正しければ、彼女の柱での記録は百を超えていたはずである。
「攻撃力の足りない者同士、協力して一体ずつ地道に狩るか?」
この申し出に彼女は「そうですね」とだけ言うと俺に続いて走り出した。
目についた孤立した個体を銃撃でおびき寄せ、俺に狙いが向いている隙に彼女が光の輪っか――「聖輪」と呼ぶ魔法で攻撃する。
この聖輪、DPSがもの凄く低い。
昆虫型タイプAのデペスがマガジン三つで倒せるところ、二つ半くらいで仕留めることができた。
魔法だから詠唱する必要があるのかと思ったが、無言で放っていたのでただの溜め攻撃と思われる。
構えからの振りを見る限り、多分←溜め→だろう。
利点としてノックバック性能が高いのか、真横から直撃を食らったデペスが大きく吹っ飛ばされていた。
回転している飛び道具なので切断するかと思いきや、まさかの爆発なのだからびっくりである。
小型とは言え、あの巨体を吹き飛ばせるのだから衝撃はかなり大きいはずだ。
高い防御力を持つこのタイプとの相性が悪く、ダメージがあまり通っていないということだろうか?
ともあれ、これで突進攻撃を妨害できており、こちらの低い攻撃力と上手く嚙み合っているのだから不思議な話だ。
回避自体は警戒線が出るので全く問題ないが、速度があるので走ることに専念する必要があり効率が僅かに落ちる。
接近させなければよいだけの話なのだが、生憎手持ちの武器は初期武器のみでは足止めもままならない。
なのでノックバック効果は回避の手間が省けるので有難い。
即席のコンビながら互い欠点を補えている……かはどうかが疑問だが、戦闘終了まで俺たちは一体ずつ確実にちまちまとデペスを倒し続けた。
戦闘終了を伝える信号弾が打ち上がった。
青色に点滅する光が無事にデペスを殲滅し、人類が勝利したことを告げている。
「二人合わせて41匹、か……」
何万……いや、何十万か下手すれば百万以上いたかもしれない中で、たったの41匹しか倒せていない。
戦闘時間は5時間ほど。
太陽の位置もすっかり真上に近づいている。
疲労感はない。
戦闘が終了したことでリザルト画面が出てくるわけでもない。
どうしたものか、と青い空を仰ぎ見る。
「お疲れ様です」
聞こえてきた声に振り返ると目隠し神官の姿があった。
少し息を切らしており疲労が窺える。
「そちらもな」と軽く返事をする俺に疲労感が見えないのか不機嫌なようだ。
「やはり今の私では到底戦力にはならないようです」
「こちらも似たようなものだな」
無言で激戦区だった方角を見ていると彼女が隣に立つ。
「戦闘に出れば何か変わると思ったのだが……」
上手くいかないものだな、と俺は肩を落とした。
どうやら目隠し神官も期待していたらしく「私もですよ」と溜息を吐いた。
そのまましばらく立ち尽くしていると撤収の合図が聞こえてきた。
「……戻るか」
俺の呟きに隣から「そうですね」と聞こえてきた。
これで彼女も戦友かと思い、レーションでも奢ってやろうと声をかけようとする。
しかし名前が出てこない。
「名前を憶えていない、というのはいただけませんね、スコール1?」
「あの時は状況を確認するだけで手一杯でな」
嘘はついていないが視線を逸らす。
誤魔化すように胸ポケットから取り出したレーションの封を切り、軽く振って飛び出した一本を差し出した。
「最果ての守り手『レイメル・シアテース』」
そう言って贈り物を受け取った彼女の口元が微笑む。
だが、すぐにその優し気な口元は消える。
「あなたは何者ですか?」
唐突な質問の意図が掴めず俺は首を傾げて沈黙する。
「私にはあなたが見えません。ですが確かにそこにいる。そこにいないはずなのに、あなたはそこに存在している」
目が見えないのに何を言っているんだ、と思わなくもないが、彼女が盲目であっても見えていることは知っている。
その彼女が俺のことを「見えない」と言っているのだ。
原因として真っ先に思いつくのはこの姿がゲームのものであること。
だが自分自身が今の状況を理解しているわけではなく、むしろ何もわかっていない。
彼女は嘘を判別できると思われる以上、真実を語る以外なく、それ自体が自分でも信じることができていない。
「もう一度聞きます。あなたは何者ですか?」
この沈黙をどう捉えているのかはわからないが、再度問われるが言葉は出ない。
「……俺が知りたい」
搾り出すように偽りのない言葉を口にする。
レイメルを見るとレーションを齧った顔が何とも言えない表情になっていた。
吐き出すほどではないが、食べかけのレーションを突き返された。
口元を押さえて足早に去るレイメルを俺は見送る。
チーズ味はよく賛否が分かれるが、そこまで不味いものだとは思わないんだが?