軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-7

その日はサイレンの音で目を覚ました。

時刻は早朝の午前4時と話に聞いていた通り、デペスは時間など関係なしに襲来するらしい。

俺は上着を掴むと歩きながらいつもの服に着替える。

その最中に綺麗に傷跡一つなく治療された腕が見えた。

あの模擬戦から3日が経過した。

気持ち悪いくらいの速度で回復した負傷に驚きつつも、地球との技術体系の違いに感心する。

一晩寝ると服も何故か新品同然に修復していた。

理屈はわからないが助かるので深く考えないようにしている。

科学と魔法を両立しているが故に何かわからない部分があれば「そこは魔法が何とかしてる」で納得できてしまう。

恐らくは逆も然りで魔法の世界から来た連中は「科学が何かやってる」と納得しているのかもしれない。

ともあれ、サイレンが鳴れば緊急招集である。

俺は駆け足で廊下を進む。

ちらほらと英霊たちの姿も見えるが、全力壁走りで目的地に向かうのはどうかと思う。

「忍者みたいなやつもいるんだな」と若干それっぽい後ろ姿に出身が少し気になった。

そんな風に思考が何処かに流れていると飛び出してくる女性への反応が遅れてしまう。

自室から急いで飛び出した彼女とあわや衝突事故……と思いきやすんでのところで回避が間に合う。

「きゃっ」と小さな悲鳴を上げる彼女の腕を取り、体勢を整えるまでしばし立ち止まる。

「すまない。考え事をしていた」

そう言って軽く頭を下げた俺は相手が記憶にある人物であることに気が付いた。

目隠しをした如何にもファンタジーな神官衣装に身を包む金髪の女性。

(確か……噓発見器みたいなことをしていた人物だったはず)

姿勢と少し乱れた衣服を正した彼女は軽く一礼する。

何と言うか育ちの良さを感じさせる所作である。

それよりも気になることがある。

目隠しである。

目が見えていないのか?

それとも傷か何かを隠しているのか?

何にせよこれでは視界がないに等しいはずである。

「……手を引いた方がよいか?」

学生時代の職業体験訪問で全盲のお爺さんの手を引いた記憶が蘇り、思わず口に出してしまった。

しかしその無意識の発言を彼女は一瞬驚いたような間を空けてからクスリと笑う。

「大丈夫ですよ。目が見えなくとも私には見えております」

むしろ目が見えなくなったことでより見えるようになった、とまで言った。

(なるほど、心眼とかそういうやつか)

俺は一言謝罪をしてから彼女と一緒に目的地へと駆け出した。

道中ちらりと彼女を確認したが、確かに見えているようにしか思えない動きだった。

それにしても、と思う。

(ノーブラっぽいんだよなぁ)

エルメシアといい女性陣の服装が刺激的である。

悪いことではないのだが、戦いの中で名を残せる英霊だからこそ、女である部分も積極的に利用している、ということなのだろうか?

国が変われば文化も変わる――それが異世界という距離であるならば、その違いはどれほどのものか?

浅学な俺にはきっとわからない話なので「そういうもの」と認識して口には出さないようにしておこうと心に決めた。

余談だが、この時は単に急ぎ過ぎて下着をつけ忘れていただけであったと後に判明し「てっきりそういう文化だと思っていた」と口にしたことで女性陣からは白い目で見られることになる。

口は禍の元、とはよく言ったものである。

集まったのは事前に知らされていた「作戦室」と呼ばれる広い部屋。

長い机と全員分以上の椅子が置かれており、既に十数人がバラバラに着席していた。

軍人と思しき屈強な見た目の男が正面の大型モニターを困り顔で弄っている。

機材トラブルでもあったのかと入口前で様子を見ていたところ「座ってくれ」と言われたので中へと進む。

取り敢えず空いている席に座る俺とその隣に座る目隠し神官。

名前が思い出せず軽く会釈するだけに止める。

少しずつ席が埋まり始めたところで待機していた軍人が「あ、これか」と呟くとモニターに地図が映し出された。

軍人が前に座る英霊に小言を言っているので、恐らく彼が好奇心で何かやってしまったのだろう。

「ごめんて。俺っちのところとどう違うのか知りたくてちょっとバラそうとしただけだから」

悪気はないような言い方だが、無断で分解はどうかと思う。

ともあれ、全員は集まっていないが状況の説明が始まった。

「今回の作戦の説明を行う『ジェスタ・アーバイン』だ。今後も出撃の時は俺が担当することが多くなる」

名前くらいは覚えておいてくれ、と白い歯を見せる金髪マッチョ。

特に反応がなかったのが悲しいのか、少ししょんぼりした様子で説明を始める。

「まずはこれを見てくれ」

そう言ってモニターに映し出された地図を指す。

「ここがエデン。作戦領域はここ――今回我々はこの円の中で戦うことになる。当然他の場所でも戦闘は起こるが、そこは君たちの先輩方がやってくれる。つまり第8期と呼ばれる君たちの戦場はここに限定されるということでもある」

今回は第8期の初陣ということで先輩方らが戦域等の調整をするとのことである。

また初回ということもあってブリーフィングは簡潔に行われる予定らしい。

教育水準の差はどうしようもないのだろう。

まず最初に注意事項の再確認が行われた。

初日に聞いていたことの反復であるが、戦闘前には確認の意味も込めて必ずするようになっているとのことである。

次に作戦内容についてだが、作戦領域の調整はエデンが把握している戦力から割り振っているため、軽い気持ちで持ち場を離れてもらうと「戦線が崩壊しかねないので厳守となる」と強く注意された。

とあるゲームの作戦領域の設定と凄く似ていると思い少しおかしくなった。

なお、遅れてやって来た英霊たちは皆堂々と入ってきて何食わぬ顔で座っている。

全員が集まったのを確認したのか、ジェスタが作戦の説明を進めた。

「では今回の戦域予想だ」

ジェスタがそう言うとモニターに映る地図に赤い光点が表示された。

俺はそれが敵を示すものであると瞬時に判断できたが、そのモニターに映る赤く光る敵影の範囲……いや、量は明らかに異常だった。

(明らかにこのエデンよりも広い範囲に敵がいるようにしか見えないんだが?)

おびただしい量の光点が表示されている地図上の上部をほぼ完全に埋め尽くしている。

押し寄せてくるであろう物量が既に狂っている。

しかしジェスタはそのことに触れることなく話を進める。

「これが今回のデペスの進行予測だ。まずはここで第3と第5の混合部隊がぶつかる」

その予測では真っすぐにエデンを目指す赤い光点が派手に散らばっている。

「パネェな英霊」と心の中で呟きながら、これくらいの規模なら当たり前のように戦えるのかと改めて英霊という戦力に驚く。

「この程度の数なら新人研修にも使えるのか」という安心感からか、空腹を覚えた俺は何気なく胸ポケットからある物を取り出した。

取り出した四角い箱を開け、中の包装紙を破いてこげ茶色をした棒状の物を口に運ぶ。

口の中でボリボリと音を立てて咀嚼されるそれはレーション。

ブロック型軍用糧食というのが正式名称なのだが、誰もそんな原作仕様の名前は使わず「レーション」と呼んでいる。

俺はこのレーションを胸ポケットから取り出すことができる。

いつだったかのコラボでこれを食べるエモートが実装されたのだが、それを使うことで弾薬同様に取り出せるのである。

条件はあれど恐らくこれが無限に取り出せるのだから、俺という存在のバグキャラ感が否めない。

バグ繋がりで思い出したが、ゲーム時代ではこのエモートにはバグがあった。

通称「エモキャン」と呼ばれるエモートのモーションをキャンセルして特殊な行動、或いは攻撃を行うのだが、ここで発見されたのは「回避行動をキャンセルしてレーションを食べる」というもの。

内容は至ってシンプルだが、その中身はタイミングが完璧なら回避行動時の無敵をそのまま引き継ぐことができるというもの。

但し動きはキモイ。

しかもそこからキャンセルした行動までも無敵化するため、弾を撃ち切るまでの時間が長い武器が全て強武器と化した。

流石にこれは修正されたが、エモキャン自体は既にあった技術であり、見た目が気持ち悪い以外に特に何もない要素なので放置されている。

ちなみに今の俺でもエモキャン自体は使用可能。

鏡の前でやってみたが、あれでどうして関節が無事なのか不思議なくらいだった。

ただ、現実であるならば咄嗟の回避行動して使えなくはないのでは、と一考に値する程度には価値を見出している。

とまあ、エモキャンの話はさておき、ボリボリと糧食をかじりながらブリーフィングに集中する。

集中している……と言いたいのだが、いつの間にか隣にいたデイデアラがじっと俺のレーションを見つめている。

俺は無言で包装紙ごと差し出すと「悪ぃな」と髭のおっさんが笑顔で一本取り出した。

どういうわけか何かとこのおっさんとは縁がある。

何かあった時に協力を得られるようにしておくことは悪いことではないだろう。

「甘ぇのか」と想像していたものと違ったのかデイデアラは首を傾げる。

するとその声に反応したのか、隣の目隠し神官が俺の方を見てくる。

無言で差し出す……いや、ここは相手に手渡すと目隠し神官の口元がにっこりと笑う。

これでレーションはなくなった。

弾薬同様新しいのを取り出すと今あるものは消えるので、彼女が食べ終わるまでは待たなくてはならない。

ちなみにフレーバーは合計七種あり、チョコレートとバニラ、フルーツにヨーグルトと定番の甘いものからコンソメやチーズ、出汁塩味がある。

胸ポケットからどれが出るかはランダムだ。

一口かじった目隠し神官は「あら」と口元に手を当てる。

チョコレート味がお気に召したらしく、何ともご機嫌なオーラが目に見えるような笑みを浮かべながら食べている。

それを見ていたジェスタからは「そこ、少しは緊張感を持て」と怒られた。

「作戦は至って単純だ。この群れを分散させ、各部隊が作戦領域内に入ってきたデペスを殲滅する」

簡単に言ってくれるが、相手は都市一つを埋め尽くすほどの数である。

そう上手くいくものなのか、と思ったが……あることに気が付いた。

(……ゲームの終盤くらいだとそんなもんじゃね?)

中盤ですら町一つを飲み込むくらいに敵が出現する。

終盤ともなれば見渡す限り敵となり、最終局面ともなれば空が完全に見えなくなる。

英霊の戦闘能力がこっちの最終装備クラスと考えた場合、それがここにいる以上の数を揃えていることになる。

冷静に考えてみると負ける気がしない。

事実、敵の数を知ってなお怯える者は一人もいない。

そんな俺たちを見てジェスタがニヤリと笑った。

「では諸君。出撃の時間だ」

こうして俺たちの初陣が幕を開けた。