軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-10

当然この誘いにはエデン側から待ったがかかる。

最悪は共倒れ――それ以前にどちらかが欠ける可能性がある以上、外での戦いは容認できない。

予想通りの介入に俺はフィオラを煽る。

「となれば全力は出せんか」

仕方ないな、と外で戦うことを諦める素振りを俺は見せる。

するとそこに口を挟んでてくるフィオラ。

「それはどういう意味だ?」

「言葉通りだ。俺が地下で全力を出せばエデンが沈む。まさかとは思うが……手加減されても勝ちたかったのか?」

俺の挑発にフィオラが食いついたが、同時にエデン側も反応する。

外へと進行方向を変えるフィオラとそれを止めるミグニ。

俺は説明を求められたので淡々と語る。

「味方を巻き込むから使っていない兵器、威力はあるが使い勝手の悪い武器。地下闘技場という閉鎖空間では使用すれば自身も巻き込みかねないようなものは排除が前提。つまり、全力では戦えない」

「よく吠えた。叩き潰してやろう」

制止を振り切りゲートへと進路を変えるフィオラはもう止まらない。

フィオラが背を向けたことを確認し、俺は端末をそっと取り出す。

向こうを止めるのが無理ならば、と俺を止めに来たミグニだが、端末の画面に表示した文章を見せるとピタリと止まった。

ただ一言「想定内だ」というこれが盤外戦術であることを示す言葉。

実際はただのアドリブだが、これで文句はでないはずだ。

(大体あいつが殺して死ぬような相手でないことくらい調べればわかるだろうに)

翻訳の都合もあるが、よく観察していれば気づくこともできたはずである。

やはり実際に戦う人間でなければ、あの能力の使い方を想定できないのかもしれない。

問題があるとすれば俺のAPである。

滅殺ミサイルの範囲に巻き込まれるのはほぼ確定。

対人戦闘ならばどうやってもあの爆風範囲からは逃れるのは難しい。

ゲーム通りの判定ならば生き残ること自体は間違いなくできる。

問題はゲーム通りでない場合だが、そのケースを想定しても多分何とかなる。

でなければこんな危ない橋は渡らない。

「本当に大丈夫なのか?」と必死に視線で訴えかけているミグニに向かい、俺は黙ってただ頷く。

「……わかった」

俺とミグニのやりとりを見ていた一人が観念したように声を出す。

「外での戦いが止められんならば、せめてルールを設けさせてもらう」

その言葉に「ほお?」と顔だけこちらを振り向かせるフィオラ。

「ルールは二つ。まず、エデンを巻き込むことは禁止だ」

当然のルールなので、俺とフィオラはこれを承諾。

「次に、相手を死に至らしめるのも禁止。殺した場合、その戦いは生き残ったとしても敗北となる」

「そのルール、意味があるとは思えんが?」

鼻で笑うフィオラだが、それに負けじと名前も知らぬ上層部と思しき老人が笑う。

「おや? 殺さずに勝つことはできませんかな?」

その挑発めいた言葉に即座に彼の首が落ちる未来を即座に思い浮かべた。

(そう言えば、ここの職員って覚悟決まってる奴もいるんだよなぁ)

あの日のローガンを思い出し、俺は僅かに苦笑する。

「勝つべくして勝つ。貴女はそれを我々に見せ続けてきた」

そう言って老人は「できませんかな?」ともう一度フィオラに笑みを浮かべて尋ねる。

「いいだろう。レデル、貴様の無礼を許す」

フィオラはそれだけ言うと深紅のドレスを翻して廊下を歩き出す。

一方レデルと呼ばれた老人は俺の前に来ると深く一礼する。

「上級議員の『レデル・パーシバ』と申します」

「スコール1だ」

知っているだろうから不要だとは思わず、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀である。

「倒せますかな?」

殺さずにフィオラを倒せるか、と問われれば俺はこう聞き返すしかない。

「殺して死ぬような相手だと思っているのか?」

苦笑するレデルを見て俺は彼がフィオラの信奉者であることを察する。

あの露出狂は確かに変態行為が多い。

だが、それを補って余りある戦闘力を持つが故に全てが許されており、百年を超える歳月で出来上がったその牙城を俺が崩そうとしている。

それを望む者もいれば、そうでない者もいる。

彼は恐らくは後者。

レデルはエデンの命運をフィオラに賭けている。

「勝てるのか?」と問いかけるその視線から逃れるように彼を追い越す。

その代わりにただ一言だけを俺は残す。

「勝算がなければ戦いには応じなかった」

全員が納得するような結末は多分無理だろう。

それは俺が地下闘技場で戦っても同じことだった。

今更だが、たまには俺が引っかきまわす側になってもいいはずだ。

俺はそれだけ言うとフィオラを追って足早に廊下を歩く。

あの軍勢を相手にするには自爆は必須。

ゲートを潜る前には覚悟を決めておきたいものだ。

「ゲートを潜れば後戻りはできんぞ?」

挑発的な笑みを浮かべるフィオラに対して俺はいつものポーカーフェイス。

特例として認められた外での決闘。

その最終確認とばかりにゲート前にはお偉方が集まっている。

「この決闘はレデル・パーシバが取り仕切る。フィオラ・アルフメルデ、スコール1。両名、前へ」

形式としては古く、既に使われていない決闘宣誓。

こんなものを持ち出すことになったのは外で戦うことになったからに外ならない。

要するに「外で戦うからと言って羽目を外してルール破りとかしないように」という注意である。

「――ルールは以上。両名、ゲートへ」

俺は隣にいるフィオラと足並みを揃えてゲートへ向かう。

俺たちが外に出るとゆっくりと閉じるゲート。

「さて、どの辺りが戦場として相応しいか……」

そう言ってフィオラは俺を見る。

射程距離では間違いなく俺が上。

ならば、エデンを巻き込まずに戦える場所を俺が決めろ、ということだろう。

俺はバイクを出すとそれに跨る。

そして当然のようにその後ろに座るフィオラ。

流石に「降りろ」とは言えず、俺は黙ってバイクを走らせた。

それからほどなくしてフィオラが話しかけてくる。

「さて……余を外に連れ出した、ということはあの爺どもに聞かれたくない話があるのであろう?」

「いきなり何言ってんだお前は?」と声には出さず、まずは沈黙で応じる。

まさかそのように捉えられていたは予想外だった。

「……茶番が過ぎたか?」

時間稼ぎの確認に「当然だ」とフィオラは鼻で笑う。

その間にも俺は質問を考える。

「弱者は弱者なりに生き残りをかけて策を巡らす。悪いことだとは言わん。それも力であり、強さの一種だ。だがな……」

恐らく裏で俺とエデンがやり取りしていた件だろうが、それをフィオラは「目障りだ」と一蹴する。

こいつを調べていくうちにわかったことがある。

それが「戦いに対する異常なまでの執着心」である。

生前のプロフィールだけでも十分わかる話なのだが、深掘りすると話の端々にまるで戦闘そのものを神聖視しているような節が見られる。

「何故戦いを求める?」

なので俺が搾り出した質問がこれ。

だからその返答が「つまらん」の一言で返されたとしても仕方がない。

「実につまらん質問だ。貴様、それを余に問うためだけにあ奴らを利用したのか?」

「いいえ、完全にあなたの勘違いです」と正直に言えないロールプレイ。

何も言えずに黙っていると聞こえてきたのは大きな舌打ち。

「闘争こそが人を強くする。それがわからぬ貴様でもあるまい?」

確かにスコール1は戦うことで強くなっていく。

しかしそれはゲームのシステムであり、俺からすればそれは現実の話ではない。

いや、確かに戦いを経験することで強くなるのは事実だが、ゲームのような飛躍的な向上はあり得ない。

「それだけの力を持ってなお、お前は強さを求めるか」

「阿呆が。強さなど未来永劫に求めるものよ。生きとし生きる者、その全ては強さを追い求める宿命にある」

でなければ淘汰されるのだからな、と続けるフィオラの言葉に俺は一定の理解を示す。

(要するに自然淘汰。戦いを求めるのは強くなるため、強くなるのは自然淘汰に抗うため。やべぇな、こうして聞くとこの変態が過激派なだけで言ってることはまともに見えてくる)

しかし言い換えれば自然の摂理。

文明を手にした人類にその理屈を持ち込む意味を考えたところで思考をシャットアウト。

俺にわからない話をするのは止めてくれ。

「だから戦争を続けたのか?」

「……そう言えば貴様の世界には元々人類の敵などいなかったのだな」

温い世界だ、とこれ見よがしに溜息を吐かれた。

なんだか地球を馬鹿にされた気分である。

「この辺でよかろう」

フィオラは十分にエデンから離れたと思っているようだが、俺はきっぱりとそれを否定する。

「ダメだ。まだ範囲内だ」

俺の言葉に「ほう?」と楽しそうな声が返ってくる。

「貴様こそ、それだけの力を持ちながら何故戦いを拒む?」

「シビリアンコントロールの概念はそちらにないようだな」

「ああ、貴様はまだ兵士だの英雄だの言っているのか」

つくづくつまらん奴め、と悪態を吐くフィオラ。

それから少しして、痺れを切らしたのかバイクから「もうよいだろう」と返事を待たずにフィオラが飛び立つ。

流石にここなら位置を調整でもしない限り大丈夫か、とバイクを止めて戦闘開始位置に同意する。

バイクに跨ったまま、アサルトライフルを取り出す俺の前には旗のついた槍を振り回すフィオラの姿があった、

「闘争こそが人を強くする。故に、余は人類に戦争を与えた。火が鉄を鍛えるように、戦争は人類を鍛え上げる」

フィオラと話してわかったことが一つある。

「だから焚べた」

馬鹿みたいに強い変態――それが第一印象。

「戦争という火に人を焚べ、人類を鍛え、生き残った者を更なる高みへと導いた」

「だが滅んだ」

耳障りにも近いその演説を否定するような俺の言葉にフィオラはただ頷くだけ。

「そうだ。余亡き後、人類は蛮族に滅ぼされた」

「なんたる脆弱さ」と嘆くフィオラだが、その眼に後悔などない。

ただ、その弱さを責める言葉だけがそこにはあった。

俺は情報を修正する。

こいつはただの変態ではない。

フィオラ・アルフメルデは狂人である。

それも「狂信者」と言われる厄介な類の狂人だ。