軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-9

あれから五日ほど経過した。

自分なりにあの件について考えてみたのだが、市民と職員の間にある危機感の温度差は流石におかしい。

恐らくだが、あれはアピールがやり過ぎだった結果ではないかという結論に至った。

よく考えてみてほしい。

単騎で百万のデペスを蹂躙できる英霊がいるのである。

それが頻繁にエデンを守っていることをアピールしており、英霊は他にもたくさんいる。

五十年間隔で英霊が召喚されていることを考えると、第五期であるフィオラは百年以上このエデンで最高戦力としてエデンを守り続けていることになる。

ならば、それを知っている親は子にどう伝えるか?

勘違いするな、という方が無理なのではないか?

これに関しても結局「あの変態の所為か」となる。

影響力が大きすぎるというのも考え物である。

さて、そんなお騒がせ人物なのだが……もう不満が爆発しかかっているらしい。

予想以上に堪え性がなかった。

「最低でも一週間はもつだろう」と隠れ家まで用意してもらった意味がない。

これにはローガンも苦笑い。

「それくらい彼女が君に執着しているということだ」

少なくともこのようなケースは初めてのはずだ、とローガンは俺にかかる負担について頭を下げる。

俺はそれを仕方のないことだ、とエデン側の立場に立って頷いた。

俺としてもエデンに貸しを作るのは吝かではない。

死んだ覚えがないのに英霊として召喚された件について、色々考えてはみたものの、答えは結局わからなかった。

俺は生きたまま呼ばれたのか、それとも死んだからこそ召喚されたのか?

エデンは死んだからこそ召喚されたと言っていたが、果たして本当にそうだろうか?

この件について、俺は可能性がゼロではないとも思っている。

なのでこの戦いが終わり、送還となった際に俺はエデンにある注文をつけるつもりでいる。

これまで召喚された者たちは時間軸がバラバラだった。

ならば、召喚直前までは間違いなく生きていたはずの俺は、元居た時間を少し巻き戻すことができるのであれば、仮に死んでいたとしても生きて戻ることができるはずである。

この答えに行きついたからこそ、俺はエデンに貸しを作るように動いている。

技術的に難しい可能性もある。

そもそもできない可能性だってある。

それでも、エデンに実行させるために貸しを作るのだ。

ポイントで動かすことはできるだろう。

しかし戦いが終わった以上、戦闘だけの英霊は不要な存在となる。

だから「貸し」なのだ。

人間は合理的な判断よりも、時に感情を優先する。

ポイントだけでは足りない。

その価値は他者によって付与されたものである以上、それを取り上げるのもまた誰かなのだ。

既に豪遊でもしない限り使い切れないようなポイントが貯まりつつある。

これは戦った者への報酬であり、俺が持つ権利でもある。

だが俺はこの権利を行使しない。

来るべき時が来るまでは、彼らの側に立つことで信用を稼ぎ、貸しを積み重ねていく。

彼らが俺の願いを断れないように……そのためにもこのロールプレイは非常に都合が良い。

「スコール1ならばそうする」

英雄である彼を演じることで、俺の手は願いを掴み取ることができるのだ。

さて、何故こんな長々と自分に言い聞かせるのか?

それは端末に送られてきたこの通知を見たからである。

「彼女が上層部に直談判を開始しました」

アリスからの送られてきたこの一文で全てを察した。

近々俺はあの変態と戦うことになる。

その強さは言わずもがな。

勝算は不明。

負けた時のペナルティこそないものの、あの変態が何か要求してくる可能性もある。

フィオラ・アルフメルデの能力「我が戦争」は自身が手に入れたものを再現するものである。

彼女の作り出す軍勢や、突如としてその手に現れる武器の数々はその条件で出現している。

これを堂々と自身のプロフィールに載せているのだから虚偽情報かと疑いたくもなる。

しかし、あの全方位露出癖のある変態の戦争狂ならば恐らく真実。

負けた時のペナルティはないが、武器を奪われる可能性がないと言えるだろうか?

俺がこいつと戦いを避けるのは何もエデンを考えてのことだけではない。

単純にリスクもあるからなのだ。

(想定の範囲内に収まればいいが……)

最悪は武器の使用不能。

相手と条件次第では使う武器を制限することも視野に入れた方がいい。

俺はその日も身を潜めて過ごす。

エデンにある電子掲示板では何故か俺とあの変態が戦うことになっていたが、どうもこちらは人気投票の話のようだ。

利用にはIDが必要だが、俺のものは新造された一時的なもの。

特定される心配がないことを確認済みなので、暇な時は大いに利用させてもらっている。

そんなわけでこちらの電子掲示板を使ってみた感想だが……ネット文化というのは世界が変わってもあまり変化はないのだな、と思わぬ発見にどうでもいい内容を書き込んでみる。

話題の人物がこっそりと偽名で書き込んでいるなどここの住民は夢にも思うまい。

翌朝、ローガンに呼び出されてみれば、そこには腕を組んでほくそ笑む変態の姿があった。

その後ろでは見たことのない職員……ではなく、恐らくこのエデンの上層部が並んでいる。

「多数の制約と制限があるとは言え、余の追跡を躱したこと褒めてやろう」

踏ん反り返る変態を無視してローガンに視線を送ると彼は黙って頷いた。

「わからんて」と言いたくなるが、恐らくは俺が言った通りに都合の良い条件を引き出して、この場を整えたのだと思いたい。

「スコール1。エデン上層部の要請により、彼女と戦ってもらいたい」

「断る。理由がない」

当然最初は拒否。

これはローガンと予め決めていた流れである。

「はいそうですか、わかりました」ではこの変態がエデン側に借りを作れない。

「まあ、貴様ならそう答えるだろう。なので余が用意してやった」

不本意であるとばかりに交渉の場にいた上層部の一人が大きな溜息を吐く。

演技ではない本気の仕草に「相当溜まってんなぁ」と同情しているとその人物が前に出る。

「久しいな、スコール1」

彼の言葉に俺は頷く。

「誰だっけ?」と頭の中で必死に彼を思い出す。

そもそも俺が知ってる上層部らしい人物など一人か二人。

しかも名前を知っているとなれば「ミグニ」という司令部の人間とドッツ議員だけである。

「確か『他の世代と交流が進めば会う機会が増える』だったな?」

俺の言葉に乾いた笑いを漏らすミグニ。

「言いたいことはわかる。だが、君の本当の実力を確かめたいという者は多いのだ」

「戦いの中で見せているつもりだが?」

そうではない、とばかりにミグニは首を横に振る。

「特型については聞いているはずだ。我々にとって最後の障壁と想定されている特型……人形型であった場合、求められるのは対人能力。それを我々に見せてほしい」

「……つまり、俺の実力が信用できない、ということか?」

これはローガンと決めたセリフである。

俺の実力を疑うというエデンにはデメリットしかない行為を強要させる。

支払わせる対価を可能な限り大きくする。

そのためには俺からの信用を失うくらいの発言は必要であり、既に裏で合意が済んでいる事実を隠した上で、何も知らないミグニは俺の前に立っている。

もしも彼が上からの命令を拒絶し、俺をかばう立場に回れるのであれば、逆にこれを利用して更なる対価をあの変態に払わせる。

そういう手筈になっているが、ミグニは息を吐き、拳を握り締めて決断する。

「そうだ。だから現在エデンの最高戦力である彼女と戦ってほしい」

僅かに震える声。

彼は感情よりも命令を優先した。

(だが、訴えかける情は確かにある)

俺を睨むように見つめる目は「わかってくれ」と訴えかけているように見える。

だが、それでも俺が用意しているセリフは変わらない、変えられない。

「断る。何度も言うが、その理由がない。実力が疑わしいのあれば、該当する戦場へ俺を送るな」

至極真っ当な意見である。

それ故に反論もできない。

エデンは英霊の力を借りている立場であり、お願いするしかできない以上、突っぱねられてしまえば何もできない。

「そこを曲げて頼む」

そう言って俺の前に出てくるのはローガン。

「君もわかっているはずだ。チキュウを侵略した船がこちらに現れた以上、我らに猶予はないのかもしれない。呼び出したこちらが言うには勝手が過ぎるとは思う。しかし、君の因縁は君自身の手で片づけたいとは思わんかね?」

黙る俺はローガンに向かって「続けろ」と顎をしゃくる。

「全面的に君に協力しよう。我々エデンは、君の宿敵との戦闘の際、全面的な協力を約束する」

そう言ったローガンは「どうかこれで頼む」と深く頭を下げる。

それに続くミグニもまた同じように頭を下げて頼み込む。

「……顔を上げろ」

俺の言葉に二人は顔を上げる。

俺は「戦えばいいんだな?」とフィオラの方を向いて確認する。

「頼む」

ただ一言……しかしミグニのその声は切実なものだった。

エデンは俺からの信用を失い借りまで作った。

これならば高くつく――ポーカーフェイスのまま、俺はフィオラの前に出る。

「茶番は済んだな?」

フィオラの言葉に一瞬ドキリとするが、ロールプレイを意識していたお陰で平静でいられた。

「どう転んでもお前は俺を引きずり出すつもりだった。遅かれ早かれ、という意味では確かに茶番か」

否定するのではなく、逆に同意する。

やましいことなどありませんよ、と遠回りに主張する。

「まあよい、地下闘技場へと向かうぞ」

そう言って歩き出すフィオラに俺が続くとローガンを始め、お偉方も付いてくる。

「折角だ。勝敗に何か賭けようじゃないか、スコール1」

フィオラの言葉に俺は「ああ、やはりか」と彼女の能力を察する。

「なるほど『勝ち取る』必要があるのか」

俺の反応にフィオラは「ほお」と嬉しそうな声を出す。

「それがわかっていて余の誘いに乗るか」

舐められたものよ、と振り返って俺を睨む。

だが俺もポーカーフェイスで返してやる。

「賭けはなしだ」

「臆したか? 存外臆病なのだな?」

負けるとは微塵も思っていないその面が、自分の方が強いと言って聞かないその態度が、少しばかり気に障った。

「場所を変えよう」

これまでのこともある。

いい加減ムカついていたのも事実である。

だから、本気で勝ちにいきたくなった。

「……何を言ってる?」

俺の意図を掴みかねてか、フィオラは首を傾げている。

「戦う場所はエデンの外だ」

丁度いいものが、丁度良いタイミングが手に入っている。

最高戦力さんよ、その肩書を返上する準備はできたかい?