軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-7

待ち合わせの場所へと職員の服に着替えて向かう。

この自室が調べることができないとは言え、エデンという閉鎖空間では手あたり次第調べればいつかは見つかってしまう。

俺と戦いたがっている現最高戦力であるフィオラ・アルフメルデから逃れるべく、今日も今日とて職員に変装しての逃避行。

眼鏡のデバイスを操作して道順を確認しながら廊下を歩く。

他にも色々な機能があり、使ってみると意外と便利な眼鏡である。

すれ違う職員に「おはようございます」と挨拶をし、何人かに二度見をされながら到着したのは研究室。

待っていたアリスとローガンが俺を見つけて近づいてくる。

「中々様になっているじゃないか」

髪型まで変えるくらいには気合を入れて変装している俺をローガンが笑う。

「見つかりたくないからな」と心底迷惑そうな反応をする俺にアリスが申し訳なさそうにしている。

「呼び出した、ということは申請が通ったということか?」

俺がそう確認するとローガンは頷く。

「居住区の独身寮に丁度使える場所があった。出入りに関しても専用のIDを発行している」

また「その変装なら大丈夫だろう」と道中に見つかることはないとローガンは太鼓判を押してくれた。

「時間稼ぎはできそうだな」

俺の言葉にローガンは満足そうに頷いた。

「安心したまえ。彼女が吊るされた餌を我慢できる時間はそう長くない。こちらとしても折角の機会だ。最大限活用させてもらうつもりだ」

「『全力で戦う場合は兵装を回復させる時間が必要』とも言っておいてくれ。それが事実かどうかなど、エデンが判別する術はない」

実際に一度使うとしばらくは使えない武器があることを教え、時間を稼ぐための口実を積み重ねていく。

戦うことが決まっても予定日の前に襲撃が入れば、再び対戦日をずらすことができる。

あの変態がこれに不満はあっても文句を口に出しても、強行するような人物ではないことはわかっている。

「戦う以上は全力で戦う」

戦争を好み、戦うことを生き甲斐にしているような奴なのだ。

その戦いにケチが付くようなマネを許しはしないはずだ。

そんな具合に話をしていたところでローガンの端末に連絡が入る。

「向こうの準備も完了したようだ。移動するとしよう」

俺は頷いて廊下に出るとローガンに先導されて歩き出す。

後ろにはアリスもおり、先ほどからずっと端末を操作している。

歩きスマフォは危険だが、前には俺とローガンの二人がいるので大丈夫だろう。

しばらく歩いたところでアリスが前に出てきた。

「こんなものはどうでしょう?」

そう言って差し出した端末に映っているのは「金髪のかつら」であった。

(なるほど、黒髪で判別される可能性もあるか)

確かに必要かもしれない、と俺はアリスの提案を受け入れる。

ちなみに全体の完成図を見せてもらったが「金髪眼鏡の猫背研究員」という見た目となっており、スコール1の面影を見事に消している。

どうやらアリスはこれを作っていたようだ。

これなら大丈夫そうだと俺はアリスに向かって頷く。

そんなこんなで到着した居住区前――ここで俺は受け取ったIDを端末で読み込む。

その後は教えられた通り、読み込んだデータを見せるようにゲートのセキュリティに端末をかざしてIDチェックを受ける。

認証に成功したのでゲートが開いたので誘導されるままに中へと入った。

居住区に入るとまず目に入ったのは街路樹だった。

こちらに来てから観葉植物くらいしか見ていなかったので、この光景にどこか懐かしい気持ちになる。

「君にはこの街並みがどう見える?」

振り返ると遅れて中に入って来たローガンとアリスは並んでおり、ゆっくりと閉じるゲートが見えた。

「人が住んでいるとわかる。そんな光景だ」

規格化されたかのように同じような建物だらけではある。

僅かではあるがちゃんとある緑に歩道を歩く住人もチラホラ見えた。

道路はあれど車は走っておらず、バスのようなものは見えるが運行しているわけではなさそうだ。

それでも、日本にいた頃に見た閑静な住宅街に近い空気を感じた俺はそう答えた。

「この辺りは私たちのような研究職が住んでいるんです」

その所為か殺風景なんですよね、と苦笑するアリス。

聞けば市民が住んでいる側の居住区は賑わいがあって華やからしいが、エデンの現状を鑑みれば、ここよりは人が多いという程度だろう。

そう思っていたのだが、ショッピングモールのある周辺は本当に人が多いらしい。

「一応ポイントを使って口座を作り、クレジットに交換することもできるが……」

止めた方がいいだろう、とローガンは溜息を吐く。

それにアリスも同調するように「止めておいた方がいいですね」と苦笑する。

そんな言われ方をすると逆に気になるのだが……そこで口を挟むようなキャラでもない。

(しばらくはここに出入りするつもりだし、何かの拍子に知る機会くらいはあるだろう)

追及はしないと決めれば思考を切り替える。

用意された隠れ家へと歩きながら、周囲を見ていると公園のような一角があることに気が付いた。

遊具はないので公園というよりは自然に囲まれた休憩所。

(隠れ家から近いのなら、あんな場所でゆっくりするのも悪くないな)

良さそうな場所を見つけた、とこの休憩所を記憶しておく。

さらにそこから三分ほど歩いたところで目的地へと到着。

「ここです」というアリスの言葉に俺は建物を見上げる。

端末で詳細を見せてもらい、ここが五階建てのワンルームマンションのようなものだとわかった。

「研究職の人って自宅が寝るだけの場所になることが珍しくないんですよ」

アリスの言葉に「なるほど」と頷きつつも、繁忙期で終電帰りを繰り返していた日々を思い出して納得する。

ここでもIDを使って中に入り、廊下を歩くと「1-3」と書かれたプレートが貼ってあるドアの前でローガンが立ち止まる。

「ここだよ」

それだけ言って俺にドアを開けるように促す。

端末をドアノブの隣にある読み取り機にかざすと小さくロックが外れる音が聞こえた。

ドアを開けて入るとそこには「必要最低限のものだけがある独身の部屋」と表現するしかない光景があった。

「両隣の住人は別の事情で君がここにいることになっている。何かあれば彼らに協力を頼むこともできるが、くれぐれも正体がバレないようにしてくれ」

「時間的にかかわることはないと思うが念のため」と付け加えるローガンの忠告に同じ意見らしくアリスも頷いている。

英霊が居住区にいることは確かに問題か、と俺はローガンの忠告に頷いて返す。

俺がここにいるのは「スコール1の信用」に依るところが大きい。

問題を起こせば当然信用にかかわる問題となるので、これに関してはしっかり注意しておこう。

一通りの説明を聞き終え、二人とはここで別れることになった。

ちなみに俺がここにいるのは「別の部署でとある研究員と意見の食い違いから喧嘩に発展してしまい、頭を冷やすべく一時的にこちらに移り住むことになった」ということになっている。

俺はこのままここで隠れるつもりだ。

何かあればすぐにでもアリスが連絡をくれるとのことであり、俺が通話の操作をせずとも繋がるようにされてしまった。

居住区では襲撃のアラームが聞こえないらしく、こればかりは仕方がないと俺も渋々同意する。

二人を見送り、扉が閉まるとこの部屋で何ができるかをまず調べる。

ベッドと端末が置いてある机と椅子、壁にかけられたモニターとそれを操作するためのリモコン。

キッチン等は存在しておらず、トイレとシャワーは同室。

改めて「シンプルな部屋だな」と冷蔵庫すらない隠れ家の感想を漏らす。

取り敢えずテレビでもつけてみようかとリモコンを操作……するのだが反応がない。

これが故障か、それとも操作が間違っているのかの判断が俺にはつかない。

彼らにとっては常識の範疇かもしれないが、俺にとってはそうではないのだ。

(あー、これの説明を聞いておくべきだった)

今からなら呼べば間に合うか?

通話よりも廊下に出て確かめようとドアを開けたところ、隣人と思しき人物が丁度二人を足止めしていた。

そこに俺がひょっこりと顔を出したものだから三人の視線がこちらに向けられる。

「……ああ、彼がそうですか」

俺を指差す研究員の制服を着ている隣人の男性がローガンに確認するようにそちらを向いた。

彼に頷くローガンを見て「タイミングが悪すぎる」と出した顔を引っ込めようとしたが……それを本当の事情を知らない隣人に咎められる。

「君ねぇ……喧嘩で他人に迷惑かけておいて、何か一言あるんじゃないか?」

ぐうの音も出ないほどに真っ当な意見である。

しかしローガンとアリスはそうではない。

「あー、話した事情には話せない部分もあるんだ。極力彼にはかかわらないように頼む」

いざという時は協力することになっているが自分からはかかわるな、という言い分に彼は首を傾げるも、主任という立場のローガンから言われれば頷くしかない。

「本当にすみません」と頭を下げるアリスだが、それに隣人は焦ったようにぶんぶんと過剰なまでに手を振っている。

「いえいえ、こちらこそ事情も知らずに出過ぎた真似を……!」

この隣人の態度から俺は何かを察する。

自由恋愛とは無縁の社会かと思ったがそうでもないようだ。

「あとは若い人に任せますか」と軽く頭を下げてから引っ込もうとした時、話が終わったタイミングを見計らい隣人がアリスに話かける。

「そう言えば、アリスさんはもう見ましたか?」

何気ない言葉から始まる会話。

ローガンも気を利かせてか立ち去ろうとしている。

俺もそれに倣って音を立てないようゆっくりと扉を閉める。

「今話題の『スコール1』……あれは絶対に見るべきですよ!」

熱く語り出した彼の言葉に扉を閉めようとしていた俺の手が止まる。

顔を出してアリスを見ると露骨に目を逸らされ、ローガンへと視線を向けると「あちゃー」と言わんばかりにのけ反り気味に顔を右手で覆っている。

何故俺を見るべきなのか?

いや、これは俺を指している言葉ではない。

まるで「映像作品の話をしている」かのように隣人はアリスに「スコール1」というものを勧めている。

ゆっくりと扉を開け、半身を廊下に出した俺はじっと二人を見つめると観念したかのように揃って息を大きく吐き出した。

どちらでもいいからさ、ちょっとお話をしようかお二人さん?