軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-30

翌朝、目が覚めて目に入ったのは悲しいほどに何もないリザルト。

完全な空欄のリザルトに何の意味が?

「せめて被った武器くらい表示しろよ」と言いたくなるが、クレーム先の運営も開発もここにはいない。

そのことを嘆くも、いたらいたで真っ先に俺がチーターとして通報されているのは間違いなく、いないことに安堵の息を漏らす。

しかし武器のステータスを見ることができないのは如何なものか?

俺がほぼほぼ記憶しているから良いものの、そうでなければ本当に面倒なことになっていた。

(何凸してるか不明なのはどうにかならんかなぁ……)

予想では1凸につき1%の攻撃力上昇で最大10%。

つまり10凸で完凸になると思っているが、これが正解かどうかはまだ不明。

データ不足なのもそうだが、そのデータが見れないのだ。

一つ一つ手作業で調べていくしかないが、流石にこれは効率が悪く、また武器の性能が上昇する理由を尋ねられた場合に何と答えればよいのかわからない。

不思議な部分があると自覚しているからこそ、数値として出る検証は大っぴらに行うのは危険だと思っている。

(自分で自分を異端と認識しているからこそ、慎重にならなければならないことだってあるんだよな)

ベッドから起き上がった俺は顔を洗って食堂へと向かう。

今日は朝から作戦室での戦闘詳細報告がある。

遅刻しないように時間はしっかり確認しよう。

そんな訳で俺は今作戦室にて待機している。

訓練するには時間が中途半端なので、こうして早くに来ているのだが……流石に少し早すぎたらしく、まだ誰も来ていない。

今回は七期と八期の合同であるため、早くても誰かいると思ったがそんなことはなかった。

職員すらいないのでやることは支給されている端末を触ることくらいである。

しかし特に何かすることが思い浮かばず、何気なく「誰か来ないかな」と扉を見るとそこにいたのは忍者っぽい同期。

目が合うと流れる沈黙の時間。

自動で閉まるドアに触れ、ゆっくりと音を立てないように調整する忍者。

入って来たのに全く気が付かなかったところは流石忍者と言うべきか?

それ以上に「こいつは普段からこんなにこそこそしてるのか?」という疑問が浮かぶ。

取り敢えず、あまりじろじろと見るのも失礼だと思い、俺は視線を端末へと戻す。

「確認したい」

突然イケボで声をかけられたので顔を上げて周囲を見渡すが誰もいない。

声がした方向も曖昧でわかりにくく、今から忍者が隠れている場所を当てろと言われてもお手上げだろう。

「何故わかった?」

部屋に入って来たタイミングで扉を見たのは完全な偶然である。

しかし、そう言ったところで「誤魔化している」と捉えられるのはこれまでの経験からわかっている。

「……空気の流れだ」

ならば、それっぽい答えを言うのが正解。

それっきり反応はなかったが、多分大丈夫なはずである。

そんなやりとりがあって後、作戦室に入って来たのはジェスタ。

「一人か? 随分早いな」

「時間が中途半端だったのでな。遅れるよりかはマシと思ったが……」

「流石に早すぎた」と言って肩をすくめる俺をジェスタが笑う。

忍者のことは話さない。

黒子はいないものとして扱うのがマナーである。

使えるポイントがないので暇を持て余すと言ったところ「今回はちゃんとプラスになっているから安心しろ」とのことである。

「それはそうとスコール1」

真顔になったジェスタが何か言いたげなので、俺は頷いて話を聞く。

「お前のリソースについてなんだが……わかったかもしれん」

「ほう」と思わず他人事のように声を出してしまった。

自覚症状が何もない状態では、深刻に考えるだけ無駄と割り切ることができていたので「もう調査が完了したのか」と感心する。

「何でもエデンにとっては非常に都合が良い話だったようだが……詳しい話はローガン主任に聞いてくれ」

「都合が良い?」

俺の言葉に頷くジェスタ。

(都合が良い……エデン側は気にする必要も心配することもない、ということか? だとすればリソースが膨大、もしくはすごい勢いで回復している?)

ジェスタはまだ詳細を聞かされていないらしく、色々と尋ねたいが「主任に聞いてくれ」としか答えることができない。

報告会の準備を進めるジェスタの手伝いをしていると、やってきたのは第七期の面々。

雑用を手伝う俺を見てイザリアが「何やってんだ」という顔をしていたが、手持無沙汰なので仕方ない。

準備を手伝いながらチクチクと今回の戦闘の文句を言われていると、八期のメンバーも少しずつ作戦室に入ってくる。

「来ない奴はどうせ来ないし、これだけいるなら少し早いが始めてしまうか」

ジェスタの言葉に「それでいいのか?」と思ったが、俺も早めにローガンのところに行って詳細を聞きたい。

そんな訳で戦闘推移をモニターで見ているのだが、イザリアが思ったよりも戦場をちゃんと見ている。

特に俺がTier1ロケットランチャー「ブレイブ」を連射した辺りでごっそりと敵影が減った際、俺と隣にいるクドニクチームを動かした後、反対側のリオレスも動かして全体を調整している。

(まあ、戦場を上から見下ろせるならそれくらいはできて当然か?)

戦場全体を俯瞰しているのであれば、的確な指示も容易だろう。

それを範囲火力役がやっている、というのが第七期の強みである。

既に完成されていたところに第八期という異物をぶち込んだにしては「よくやっている」と考えるのが妥当ではないだろうか?

最後の最後で俺とリオレスが暴れているシーンとなり、モニターに映る敵影が凄い勢いで削れだし、上手に円形にまとまり始めていたデペスの群れが歪な形へと変わっていくのが見て取れた。

それを指差してゲラゲラと笑うデイデアラがイザリアを挑発するが「陛下、子供のような真似はお止めください」とガチトーンで説教を開始。

今度は縮こまるおっさんを逆に指差すイザリアに「お前らいい加減にしろ」とアーシダが一喝。

普段喋らない人物の一言で場が静まり、その後は最後までスムーズに進行した。

さて、気になる戦功順位だが……一位のイザリアは当然として、二位が俺で三位がリオレスだった。

その後はデイデアラやエルメシア、ザイスやベルクシオといった各世代の上位陣が名を連ねることとなる。

「まあ、今回は敵の数が少なかったから大きなポイントにはならんと思うが、変なことに使わず、有効活用してくれることを願っている」

ジェスタは最後にそう言って解散となった。

俺にはやることがあるので、廊下に出ると足早に目的地へと向かう。

到着したのは多目的室。

ジェスタから聞いていたので早速中に入ってみると、ローガンがモニターに何かを表示している真っ最中だった。

「もう、来たのか」

予想よりも少し早かったらしく、まだ準備中であることを嬉しそうに告げるローガン。

「都合が良い結果だった、と聞いているが?」

「ああ、正直ここまでエデンに都合が良いと、我々も神の存在を信じてしまいそうになるよ」

言いながら複数のデータやグラフをモニターに表示させていくローガン。

「まあ、これくらいでいいか」とローガンは作業を中断して俺に向き直る。

その顔には怖いくらいの笑みがあった。

「さて、まずはこちらを見てくれ」

そう言って動き出す先ほど見た戦闘の推移図。

「君はここだな」と図を拡大し、その動きがわかりやすいように表示する。

戦闘が始まり、モニターに映る棒グラフが心電図のように上下に動きながらも上昇していく様が映し出されている。

「ここだ」と言ってモニターの映る状況を停止させるローガン。

「わかるかね? このグラフは君のリソース……というより全ての供給と出力を表示している。下に振れる場合、君は武器や弾薬を出している。これで君が何の代償もなくその力を振るうことができる説が消えた。では、この上に振れるケースは一体何なのか?」

俺を見るローガンは笑いが堪え切れなくなったか、声を出して笑った。

しかしすぐに笑いを止めるように手で口元を塞ぐ。

「いや、すまない。まさか、こんなケースが存在するとは夢にも思わなくてね。ふははは……」

そう言って再び笑いだしてしまうローガンだが、深呼吸をして落ち着いたのか続きを話す。

「このグラフが上に振れる前には必ず敵影が消えている。つまり、君はデペスを倒すことでリソースを回収、或いはデペスから何かを吸収し、それをリソースとして取り込んでいる」

「君はまさにデペスを狩るための存在と言えるだろう」と付け加えるとローガンは再び笑った。

俺はと言うと「なるほどな」とジェスタの言った「都合が良い」の意味を理解した。

(強力な武器を使うには代償が必要です。その代償は敵を倒して払います。そりゃ都合が良すぎるわ)

おまけにグラフを見れば黒字である。

ちょっと前に四十万ほど倒しているのだから、今の俺のリソースはどうなっているんだ、という話である。

普通に考えるのであればリソース問題はこれで解決した。

貸出も余裕で行えるくらいには貯蓄もあるのは間違いない。

(ただ、ローガンは……いや、俺以外は知らないことがある)

敵を倒せばAPが増える――確定ではないが、その可能性は高いと俺は見ている。

ならば、このグラフで表示されている「供給」が何を示しているかをはっきりさせなければならない。

「確認したい。このグラフで消費しているものと増大しているものは同一か?」

俺の質問にローガンはしばし考えた後に首を傾げた。

質問の意図がわからない、といった素振りに俺は補足する。

「あの装置では出力と供給の全てを計測していた。ならばそれらが同一ではない可能性も考えられるのではないか?」

俺の説明に「そういうことか」と納得したように頷くローガン。

「君の懸念ももっともだ。だが、それ以外に何があると言うのかね?」

候補すらない――それがローガンの答えであり「心当たりがある」のが俺の答えである。

そしてこれは話すことができない内容である。

当然、このデータが示す通りである可能性も否定できない。

むしろそうであってほしいとすら思っている。

だが、俺の中で生まれたこの懸念を無視することは難しい。

エデンはこれまで以上に俺を頼るだろう。

それに反して、俺はこれまで以上に注意しなければならない。

「面倒なことになった」

口にこそ出さないが、この状況は決して楽観できるものではない。

エデンと俺の間にある認識のずれ――それがやがていつか致命的なものにならないよう、今の俺には祈ることしかできない。

エデンの懸念材料が一つ消え、新たな最高戦力候補が再び戦場立つことへの憂いはない。

(最悪は想定しておくべきか?)

そう考えて俺は僅かに表情を曇らせたが、上機嫌に笑うローガンは最後までそれに気づかなかった。