軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-26

闘技場に歩き出す二人を黙って見送ることにしたが、そこに待ったをかける人物が一人。

「と言うか、話さなくていいのか?」

声の主であるマリケスを見ると、デイデアラを見ながら親指が指す方向にはベルクシオがいた。

「特に話すことはねぇな」とだけ言うと闘技場へと入っていくデイデアラ。

それを追うザイスに代わり、ベルクシオがこちらにやって来る。

「陛下が申し訳ありません」

そう言って頭を下げるベルクシオ。

蛮族という見た目の王様と違い、こちらは想像通りに騎士の恰好をしている。

「本当に王様だったのか」という声が上がったが、これにはベルクシオも苦笑い。

「仕方がありません。あの方は、本当に自らを顧みることがありませんから」

「省みる」の間違いではないか、と思ったが、どちらの意味でも通るのが日本語の妙。

彼の言い方からすれば前者なのだろうが、他の人の翻訳だとどうなっているのか少し気になる。

「陛下が亡くなったあの時も、あの方は自らを犠牲に民を、我々を逃がしたのです」

そうやって語られたデイデアラの過去――その内容は俺の予想からはかけ離れたものであり、ファンタジーの世界観でありながら、まさかのゾンビハザードという世界の危機を前に立ち向かう王国の物語であった。

だが奮闘空しく王国は崩壊する。

最後の砦に残り、数百万という不死者の群れを相手にたった一人で三日三晩戦い続け、国民が脱出する時間を稼いだ王の話はそこで終わる。

「国境となる山を越える最中、背中からいつまでも聞こえる戦闘音が消えた時、皆が砦を振り返りました。静まり返った砦を見て、我々は陛下の死を悟りました」

その後、隣国へと無事辿り着いたものの、待っていたのは過酷な日々。

一国から脱出した避難民を受け入れるには隣国は小さすぎたのだ。

また、ゾンビの脅威がそれでなくなったわけではなく、協力して事に当たらねばならない状況下で人間同士が争った。

結果、その隣国もゾンビに飲まれることになる。

そこでの撤退戦でベルクシオもまた命を失ったのだと言う。

「私もまた、陛下と同じく託したのです。ならば、ここで戦わない道理はありません」

「屍の山を築きし王」とはそう言う意味か、と納得しつつも懐疑的なことに俺は心の中で苦笑する。

「それ故に、陛下の命を聞くわけにはいきませんでした。今、求められるのは純粋な力。かつて私が見た陛下の力を私は確かめる必要がありました」

ですがまさかあのような不意打ちが通用するとは思いませんでした、と自分の知らないデイデアラの一面が見れたことを何故か喜んでいるベルクシオ。

忠誠が重そうな騎士である。

「そんなことより、だ」

話を中断させて割り込んできたのは俺を指差すイザリア。

お前は一体どうなっているんだ、と話を戻してきたのだが、それを一番知りたいのは俺である。

まさか実験と称してサンドバックにするつもりではないだろうな?

そんな風に疑いの眼差しでイザリアを見るが、どうやらことはことはそう単純な話ではないようだ。

「魔力もないのにあれだけの攻撃を続けるとか一体何を消費している? あとあれだけ被弾しておきながら何故平気な顔をしているんだ。普通の英霊なら五回は死んでるぞ?」

それについてだが、実は俺の中では既にある仮説があったりする。

前提として「地球軍VS」シリーズにおいて、プレイヤーの耐久は HP(ヒットポイント) ではなく、 AP(アーマーポイント) で表記される。

その理由はプレイヤーは装備がなければ一発の銃弾で死ぬほどに脆い人間であり、地球の脅威と戦うことができるのは「装備で耐えている」という設定に由来する。

ではそのAPはどうなっているのか?

最新作において、APは敵を倒して得られる素材を使って強化服を強化することで上昇する。

だが、素材が出ないこの状況ではどうなるか?

その答えとなるのが、前作のシステムが適用されている武器である。

ならばAPもそうなると考えるのは妥当である。

では前作、五作目ではAPをどうやって上昇させるのか?

答えは簡単、敵を倒すだけだ。

単純に倒した敵の数に応じてAPは上昇する。

設定ではプレイヤーが倒した敵は一部が回収されており、それらを用いて強化していることになっている。

ちなみにAPの最大値は999999――つまりほぼ百万だ。

そこに強化服の防御力が加わる。

と言っても防御性能の大部分はダメージの割合カットである。

強化服はランクが変われば基礎APとこのダメージカット率が上昇する。

俺はこの強化服をいつでも切り替えることができる。

そして前作の仕様通りであれば、強化服は個別に強化されるのではなく、APは共通で上昇していく。

この辺はゲームの仕様なので、そういうものだと納得するしかない。

仮にこの説が正しいならば、俺は最大で約九百万のAPを持つことができることになるのだが、強化服がない状態も換算できるのであれば一千万に到達する。

(しかもダメージカット付き。誰が倒せるんだよ、こんなクソみたいなチートキャラ)

バトルアーマーやジェットパックの固定APは加算しなくてこれである。

そちらはエネルギー問題があるので約一千万という数値の前では誤差に近いが、それでも防御性能や回避性能を考えると可視化されない数値として無視はできない。

問題は現在の俺のAPである。

イザリアとの一戦で強化服をとっかえひっかえして戦ったが、これを見るに俺のAPはまだ低い。

(こう考えると序盤の俺はどんだけ綱渡りをしてたのか……)

考えると怖くなってきたので、この話はこれで終了する。

もしかしたら完全に固定化されている可能性もあるが、仮に上昇するのであれば、前回のリザルトに相応しい上昇量でなければおかしい。

今回の戦闘で結構ボロボロになっていたが、まだまだAPは残っていた可能性もあるので、現状ではまだ確かなことは言えないのがもどかしい。

(かと言って試すにしても命懸けだからなぁ)

どうしたものかと頭を悩ませるが、もっとわからないのが、イザリアの言う通り俺のリソースである。

「無限に使える、なんてのはあり得ない。だから何かを消費していると考えるのが普通なの」

イザリアの言葉に俺も全面的に同意する。

だが、現状何を消費をして弾薬を出したり兵装の出し入れをしているのかが全くわかっていない。

そんな中、誰かがぽつりと呟いた。

「記憶、とかありそうね」

全員がそう呟いたエルメシアを見る。

「代償によって力を引き出すなんてよくあることよ? 現状そいつが出せそうなものと言えば、魔力がないんだから記憶や魂が真っ先に候補に挙がるのは当然ではなくて?」

エルメシアの言葉に全員が黙る。

肯定するような沈黙はやめてくれんか、と口に出そうになったが、現状心当たりが全くない。

(いや、身に覚えが全くないから怖いのか?)

当の本人は自覚もなければ危機感もなし。

ということで色々と思い出してはいるのだが……該当しそうなものが全くない。

「……記憶の欠落らしきものが見つからない」

もしかしてこれはまずい兆候か、と確認してみるが、発言したエルメシアは「さあ?」と完全に他人事である。

まあ、他人事なのは確かだが、そのような発言をした以上は何か意見がほしい。

だが正直にそう言ってエルメシアが動くはずもない。

なので俺は言い方を変える。

「そうか、わからないなら仕方がないな」

「は? 誰もわからないなんて言ってないわよ?」

チョロすぎて逆に心配になるレベルの魔女である。

周りが見る目も何だか優しいものに変わっており、そこからはエルメシアとイザリアが協力して俺を調べることとなった。

結論を先に言うとさっぱりわからなかった。

というより、記憶の欠落が確認できなかった、と言うべきか?

デイデアラとザイスの戦いに決着がつき、ボロボロになりながらも上機嫌のおっさんが戻って来る頃合いで調査が終了。

様々な記憶に関する質問に対し「問題ない」で全て返した俺を見て、これはダメだとお手上げのイザリア。

ムキになって「脳から直接情報を抜き取る」とか言い出した引き籠り魔女をどうにか止めたところで本日はお開きという名のタイムアップ。

結局、俺のリソース元が何なのかを突き止めることはできなかった。

ところが、ここでも俺には心当たりと言うか、仮説のようなものが浮上している。

(これ、俺じゃなくてスコール1の方の記憶消費してるとかないよな?)

そもそも前提がリソースとして記憶を消費していることが正しくなければ成立しない。

一度だけ出てきた彼の戦いっぷりを見れば、消費されているのが記憶以外である可能性の方が高いようにも思える。

なので俺は最後の手段とまではいかないが、ある人物に声をかけることにした。

「なるほど、それで儂を頼るのか」

「まあ、間違ってはおらんの」と手渡したレーションをボリボリ食べるジャミトス。

以前アネストレイヤが言っていた通りならば、解析は彼の得意分野と思われる。

なので声をかけたのだが、反応がどうにも鈍い。

エリッサが警戒していたこともあって、声をかけるかどうか迷ったが、この反応はこちらとしても予想外だった。

「無理か?」

俺の言葉に首を横に振るジャミトス。

何か問題があるのか、と思ったがどうやら彼自身が自分を頼って来るとは思ってもみなかったそうだ。

「見ての通り儂は警戒されておる……というより完全に嫌われとる」

誰彼構わず解析した結果なのだろうが、それでそこまで嫌われる理由になるのだろうかと思ったが、わかりやすく言えば「相手を色々と数値化」もしているらしい。

それを聞いて俺は全てを察した。

中身が老人だからかプライバシーやデリカシーへの認識が違っているのだろうな、と俺は心の中で擁護しておく。

当の本人が現状をあまり気にしておらず、むしろ研究や研鑽の邪魔をされないので快適であると言っているので色々と手遅れかもしれない。

ともあれ、俺の依頼をジャミトスは引き受けてくれた。

そのためにハンドガンとマガジンを彼に手渡すことになる。

「早ければ明日、まあ数日もあれば結果は出るだろう」とのことなので、後は待つ外ない。

さて、解析の結果はどうなるのか?

明日は魔法の座学を受けることになっているのでそちらを含めて楽しみである。