軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-19

俺たち二人が「本当に英霊か?」と疑われている。

理由は単純、弱いから。

英霊として呼び出したのはそっちだろ、と言いたくなるが、ここで言う「英霊」とは全ての世界の危機に対し、戦力となれる者だけを指しているのかもしれない。

「戦果ポイントを使用して意見を送ることはできますが、このような使い方は二度としないでください」

要するにこの男が戦績が振るわないことを理由に戦果ポイントを使って「こいつらは本当に英霊と呼べるのか?」と意見したようだ。

だが、戦果ポイントを使えば意見を送ることができるなんて情報はどこにもなかった。

誰かの入れ知恵か?

それともこいつが考えた使い方か?

どちらにせよ、こいつは敵対的な同僚ということだ。

少しばかり頭に血が上るが、ここで感情的になれば不利となることは明白。

ここは静かに相手の出方を窺い、隙あらば失言を引き出したい。

(というか今すぐにでも煽りたい。このムカつく面を歪ませてやりたい)

エデン側のアリスも不快であるらしいので、少しくらいはやっちゃってもよいのではないだろうか?

「それで、僕たちに何をしてほしいの?」

そんな内心激おこの俺と違い冷静なエリッサ。

恐らく用件を「英霊としての資質を示す」等のことだとエリッサは推測したのか、自分たちが何をすればよいのかと単刀直入に問う。

確かにここで睨み合っていても始まらない。

エリッサの意見に同意するように頷いてアリスを見る。

「あなた方の戦いの記憶を見せてもらいます」

「戦いの記憶?」

エリッサの呟きに俺も首傾げる。

デペスとの戦いの記録ならばエデンにあると思ったが、詳細な個人の戦闘記録を提出せよ、ということだろうか?

「あなた方の生きた時代。その戦いを明らかにし、あなた方が英雄と呼ばれるに相応しい存在であることを証明してください」

アリスの言葉に俺は固まった。

戦いの記憶――言葉通り、相手の記憶を見る手段がエデンにはある。

ポーカーフェイスを維持するのが困難なほどのピンチを前に、俺は動揺を隠すだけで精一杯だが、隣にいるエリッサは「わかった」と頷いている。

「……確認するが、それは脳に直接電極を差し込んだりしたりは、しないだろうな?」

俺の質問に逆に引き気味となるアリス。

「そんなことはしません!」と大声を出すが、疑いの眼差しを向ける俺に槍の男がニヤニヤと笑みを浮かべて嘲るように挑発してきた。

「おやおや、記憶を見られることがそんなに怖いのか?」

「そうだが? 古今東西、他者の記憶を見るとなれば脳みそを直接弄り回すと決まっている。死ぬか廃人か……その二択を迫られれば恐怖も感じる」

即座に肯定して緊迫した様子を見せる俺に槍の男は「お、おう」と戸惑い気味だが、アリスの方は「だからそんなことはしません!」と再び声を荒げている。

「記憶を呼び起こし、それを映像として映し出すことができる英霊が、エデンにはいるんです」

ついには怒り始めたアリスが記憶を見る手段を教えてくれるが、それでもかまわず俺は隣のエリッサに向けて怪談話でもするかのように語る。

「こんな話がある。より効率的で強力な兵士を生み出すべく、科学者たちは人間の脳から戦闘データを採取し、それを新兵に植え付けようとした。採取に使われたのはまだ生きている負傷兵の脳」

事実がどうかはわからんが、実しやかに囁かれていた話だ、と俺は締めくくる。

エリッサの表情が硬くなったところで「まあ、噂話だ」と真偽不明とネタ晴らし。

だってこれ他のゲームであった話だからな。

暢気な俺に苛立った様子が隠しきれていない槍の男に「からかわれた」と不機嫌になるエリッサ。

呆れるアリスが「もう行きますよ?」と先導し、件の英霊が待機しているという部屋まで案内することとなった。

廊下を歩きながら内心焦りまくってる俺はポーカーフェイスの維持で精一杯。

(記憶を呼び起こす、ってことは見せる記憶はこっちで指定できるんだよな? そうだよな?)

「そうであってくれ!」と心の中で祈りながら未だ立ち入ったことのないエリアへと足を踏み入れる。

そこを一言で言うならば「居住区」だろう。

実際遠くに見えるビルのような建物には人が住んでおり、そこから今いるエリアへと出勤している住人が多数いるそうだ。

ここはエデンの住人の生活エリアでもあり、ここに入ることができるのは一部の英霊だけだとアリスは説明してくれる。

「戦うことができなくなった英霊や、戦いを望まない英霊の中には、送還ではなくここで労働に従事することを選ぶ方もいます。その中でも特異な能力を持つ人は重宝されます」

どうあっても悪いようにはならない、という保険のように聞こえるが、実際その通りなのだろう。

この世界には無駄にできるものがないのだ。

ならば呼び出した英霊には可能な限り世界のために働いてもらいたい、と考えるのは必然とも言える。

当然それはこの世界に生きる人間にも言えるのだから、世界レベルのブラック環境である。

無言のまま歩き続けること約五分――研究施設の一部と見られる部屋へと到着した。

そこで俺たちを待っていたのは怪しい占い師のような恰好をした老人と若い眼鏡の職員。

「はて?」と俺は首を傾げる。

英霊は全盛期の肉体で構築されるのではなかったか?

そう思い眼鏡の職員をじっと見る。

「実はこっちでしたー」というドッキリでもやってるのか、と思ったらその通りだった。

「『セダル』さん……何をやっているんですか?」

「いや、ごめんね! 第八期の子らと会えるって聞いたもんだからつい!」

そう言って笑う眼鏡の職員。

まさか本当に入れ替わっていたのか、と思ったら普段からこの恰好で、知り合いの職員にドッキリの手伝いをしてもらっただけだった。

「いやー、長く生きてると娯楽に飢えてくるんだ」

こっちの娯楽作品は全部見ちゃったしね、と笑うセダルと呼ばれた英霊。

「先ほどご紹介に預かった『セダル』だ。第四期に当たる英霊であり、記憶を司る魔術の始祖。『エイダムリヤの時の番人』とは私のことだ」

自己紹介を終えたセダルが自慢げに胸を張る。

しかし大層な二つ名を名乗られたところで知らぬ人間からすればよくわからない。

「うん、まあ同じ世界の人はいないよね」

もう一度「うん」と頷くとセダルは何やら準備を始める。

「アリス君、彼らの戦闘の記憶でいいんだね?」

「で、君は?」と槍の男を顎で指す。

「俺はマリケス・ディトリッジ。彼らの戦績があまりにも不甲斐なくてね、こうして意見をさせてもらった一人だ」

まるで他にも俺たちに不満がある者がいるかのような言い方だが、こいつ以外にもいる可能性は確かに否定できない。

「正直、こんな弱者を同じ英霊として認めるわけにはいかない。先輩はどう思う?」

同意を求めるような聞き方だが、セダルは興味がないのか質問を無視して俺たちの方を向いている。

「さて、エリッサ君。そしてスコール1君」

セダルが俺たちを名を呼ぶと占い師の恰好をさせられた職員がスイッチを押す。

大きな紙のようなスクリーンと思しきものが壁一面に広がり、部屋の照明が消えると外からの光も遮断されて真っ暗になる。

「これから君たちの戦闘の記憶を呼び起こす。見せたいものがあれば強く思い浮かべてくれ。ああ、折角だから『もう一度見たい記憶』があるのであれば、そちらでもいいよ」

両手を胸の前に揃え、何やら詠唱を開始したセダル。

椅子に座らされた俺はというと心の中で両手を上げての勝利ポーズである。

記憶を見られるとあって警戒しまくっていたが、その使い手が英霊とあって高性能で助かった。

(……感謝! 圧倒的感謝! セダルはん、あんた最高やで!)

諸々がセーフとわかれば余裕も生まれる。

見せたいシーンが見せられるのであれば、やることは一つしかない。

プレイヤーから満場一致で「開発に人の心とかないんか」とドン引きされた地獄のストーリーのお披露目である。

最初は俺からということで背後に回ったセダルが詠唱を完了させ、淡い光が頭部を包み込んでいく。

「では、君の記憶を見せてくれ」

セダルの声に俺は黙って頷いた。

さあ、お前らに本当の絶望を教えてやろう――と言いたいのだが、ムービーシーンだけでも余裕で一時間以上ある。

即興で動画編集をやれと言われた気分である。

最初は入隊の時のムービーから入れば、時間も稼げてなんとかなるはずだ。

そう思って強く思い起こすと正面の壁がスクリーンとなり、俺が良く知るムービーシーンが再生され始めた。

一人称視点、右端の先頭に位置している俺が敬礼している横を一人の男が通り過ぎていく。

今映し出されているのは整列する新兵たちの前に一人の男が立ち演説をするシーン。

その姿を確認した俺の口から彼の名前が自然と出た。

「……南雲教官」

果たしてこれは俺の意志か?

それとも魔法の効果なのか?

もしかしたらこの体――スコール1となった彼のものか?

それがわからぬまま、何も考えることができなくなった俺は、何度聞いたかわからない南雲教官の演説を聞いていた。