軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話 世紀の結婚式 、 生涯、貴方の隣で

あの運命の夜会から数ヶ月後。

王都の中心にそびえ立つ大聖堂は、国中の祝福と歓声に包まれていた。

建国以来の格式を誇るオレオ侯爵家嫡男、スティーブ。そして、メーデン子爵家の次女、メリッサ。二人の婚姻の儀が、これ以上なく盛大に執り行われようとしていた。

「ああ、メリッサ……! なんて美しいんだ……! 我が家の誇り、いや、王国一の美しい花嫁だよ!」

控室で待機するメリッサの元へ、感極まった様子で駆け寄ってきたのは、彼女の実家であるメーデン子爵夫妻だった。

侍女として勤めていた娘が、まさか最高峰の侯爵家に見初められ、未来の侯爵夫人として迎えられるなど、夢にも思っていなかった。さらにオレオ侯爵家の絶大な後ろ盾により、メーデン子爵家の鉱山事業はかつてないほどの好景気を迎えている。実家の家族はみな、メリッサの掴み取った幸福に涙を流して大喜びしていた。

「お父様、お母様。これまで心配をかけてごめんなさい。私、本当に幸せよ」

メリッサの身を包むのは、最高級のシルクと、星屑を散りばめたような魔石の刺繍が施された、純白のウェディングドレス。結い上げられた柔らかな髪には、侯爵家代々の花嫁に受け継がれてきた、至高のティアラが輝いている。

かつて地味な黒と白の侍女服に身を包み、日陰で我慢を強いられ続けていた少女は、今、世界で一番幸せな花嫁として、眩い光の中に立っていた。

「お義姉様! まぁ、なんてお美しいのかしら! お兄様には本当にもったいないくらいですわ!」

扉を開けて入ってきた義妹のイザベルが、大興奮でメリッサの手を取る。その背後からは、同じく正装に身を包んだ、この上なく気高く美しい新郎――スティーブが静かに歩み寄ってきた。

スティーブはメリッサの姿を目にした瞬間、そのあまりの美しさに息を呑み、恋に落ちた少年のように瞳を熱く揺らした。

「……メリッサ。君を私の妻として迎えられるこの日を、どれほど待ち望んでいたか。生涯を懸けて、君を愛し、守り抜くと誓うよ」

惜しみなく注がれる、あまりにも深く、真っ直ぐな愛の言葉。

メリッサは胸をいっぱいに満たしながら、スティーブの差し出された逞しい手の上に、自らの手をそっと重ねた。

大聖堂の扉が開かれ、鳴り響くパイプオルガンの重厚な音色と、数千人の貴族や市民たちの割れんばかりの拍手と祝福の声。

光の射すバージンロードを、二人は呼吸を合わせて一歩ずつ進んでいく。

もう、振り返る過去は何もない。メリッサはただ、隣で自分を誰よりも大切にエスコートしてくれるスティーブの横顔を見つめ、心からの幸福な笑顔を咲かせたのだった。

世紀の結婚式から、数年の月日が流れた。

オレオ侯爵邸の、陽光が心地よく差し込む美しいプライベート庭園。

かつて優秀な侍女として邸内を駆け回っていたメリッサは、今や誰もが憧れ、尊敬を寄せる高貴な侯爵夫人として、穏やかな日々を過ごしていた。

「メリッサ、少し風が出てきた。冷えないように、これを着ておいで」

背後から優しい声がしたかと思うと、上質なカシミアのショールがメリッサの肩をふわりと包み込んだ。

振り返ると、数年前と変わらぬ――いや、より一層深い愛をその瞳に湛えたスティーブが、愛おしそうにメリッサの腰を引き寄せ、その額に優しく口づけを落とした。

「ありがとうございます、スティーブ様。いつも、そんなに甘やかされてばかりでは、私がダメになってしまいますわ」

「いいんだ。君を世界一甘やかすのは、夫である私の特権だからね」

スティーブは悪戯っぽく微笑み、メリッサの隣のベンチに腰掛けた。

その温もりを感じながら、メリッサはふと、今日届いていた王宮からの書類の一部を思い出し、クスリと微笑んだ。

「そういえばスティーブ様。風の噂で聞いたのですが……あのダリルが、平民の志願兵として、第三騎士団に入団したそうですわね。……それも、裏であなた様が、少し口利きをしてくださったとか」

メリッサの言葉に、スティーブは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに降参したように肩をすくめた。

「隠し事はできないな。……ああ、その通りだよ。国境付近の防衛や治安維持を担当する第三騎士団なら、実力主義だし、過去の不名誉除隊の経歴があっても、泥臭く這い上がるチャンスはある。彼が本来持っていたという『正義感』と『剣の腕』を活かすには、あそこが一番相応しいと思ってね」

スティーブはメリッサの細い手を優しく包み込み、少しだけ真面目な顔をした。

「君があの男の最後の姿を見て、少しだけ気に病んでいるだろうと思ったんだ。君に、過去の感傷をこれっぽっちも引きずってほしくなかった。……余計な世話だったかい?」

スティーブの言葉の裏にある、あまりにも深く、どこまでも自分を第一に考えてくれる思いやり。

ダリルへの未練など、とうの昔に消え去っていた。だが、スティーブはメリッサの「心の平穏」のために、かつてのライバルにすら、その本質を活かせる最後の更生の道を用意してやったのだ。これほどまでに器が大きく、深い愛を持った男が、自分の夫なのだ。

メリッサは愛おしさが胸から溢れそうになり、スティーブの胸にそっと頭を預けた。

「いいえ。本当に、ありがとう、スティーブ様。あなたのそういう、どこまでも深い優しさが、私は大好きなのです」

スティーブはメリッサの髪を優しく撫で、満足そうに目を細めた。

「これで、もう、あの男のことは考えなくていいな」

「はい。もう忘れます」

メリッサは、はっきりと、微塵の迷いもなく頷いた。

あの通りでの別れの日、ダリルへの古い義理や思い出は、すべて綺麗に精算し終えている。今の自分の 現在(いま) も、未来も、そのすべてはスティーブのものであり、彼と共に築く家庭だけが、自分の世界のすべてなのだ。

ダリルは今頃、平民の泥塗れの騎士として、かつてメリッサが語った言葉通り、自分の犯した罪を背負いながら誠実に這い上がろうとしていることだろう。それはそれで、彼の選んだ、彼の人生だ。もう二度と、自分たちの人生と交わることはない。

スティーブの腕の中に包まれながら、メリッサは遠い青空を見上げた。

(ああ、あの時。我慢して耐え続けるのをやめて、彼を待つのをやめて、本当によかった)

もしもあのまま、不実な男の言葉を信じて日陰で待ち続けていたら、今のこの眩いほどの幸福を知ることはなかっただろう。自分の足で一歩を踏み出し、スティーブの手を取ったからこそ、この最高の人生が始まったのだ。

「メリッサ。愛しているよ。これまでも、これからも、生涯私の隣にいておくれ」

「ええ、私も愛しております、スティーブ様。生涯、貴方の隣で、どこまでも共に歩んでまいります」

ふわりと優しい風が吹き抜け、庭園の薔薇の花びらが二人を祝福するように舞い踊る。

溢れんばかりの深い愛と、終わることのない甘い幸福に包まれながら、メリッサは最愛の夫と共に、まだ見ぬ輝かしい未来へと、一歩ずつ歩みを進めていくのだった。

ハッピーエンド