軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 告発の幕開け

会場の音楽がぴたりと止まり、きらびやかな大広間に奇妙な静寂が広がった。

ゲストたちが困惑の表情で視線を交わす中、中央の演台に立ったのは、オレオ侯爵家嫡男、スティーブだった。その冷徹なまでの美貌と圧倒的な威圧感に、誰もが自然と息を呑む。

「皆様、今宵は我がオレオ侯爵家の夜会にお集まりいただき、感謝する。だが、宴を続ける前に、当家として見過ごすことのできない『重大な不誠実』について、この場で決着をつけさせていただきたい」

スティーブの低くよく通る声が、広間の隅々にまで響き渡った。

彼は鋭い視線を、会場の二箇所へと向けた。

「バルモン伯爵令嬢カサンドラ。そして、第一騎士団所属、騎士ダリル。前へ出なさい」

名前を呼ばれた瞬間、ダリルは心臓が跳ね上がるのを感じた。なぜ自分が、最高格の夜会の中心に指名されたのか理解できず、困惑のまま周囲の視線に押されるようにして中央へ歩み出る。

一方のカサンドラは、一瞬だけ不審げに眉をひそめたものの、すぐに「ああ、スティーブが私との婚約を皆に盛大に発表するために、特別にダリルも巻き込んで演出してくれているのね!」と、どこまでも都合の良い勘違いをして、誇らしげに顎を引いて進み出た。

「お呼びでしょうか、スティーブ様。皆様の前で、私にどのようなお話が―」

「カサンドラ。君との婚約は、今この瞬間を以て白紙とする!」

可憐な微笑みを浮かべたカサンドラの言葉を、スティーブは無慈悲な一言で叩き切った。

「……え?」

カサンドラの思考が停止する。広間が一気にざわめきに包まれた。

「お、お言葉ですが、スティーブ様! 何かの冗談でしょう!? 私とあなたの婚姻は、両家の間で―」

「我がオレオ侯爵家には、他家との婚約期間中に、別の男を囲って不貞を働くような、不誠実極まりない女を迎え入れる席などない。……それともダリル騎士、君からも何か言い訳があるか?」

スティーブの冷ややかな視線がダリルを射抜く。

ダリルは、全身の血の気が一気に引いていくのを感じた。

「ふ、不貞……!? 何のことでしょうか! 俺はただ、カサンドラ様には騎士として――」

「往生際が悪いな」

スティーブが軽く指を鳴らすと、控えていた家令が、厚みのある革のファイルを恭しく差し出した。スティーブはそれを開き、衆人環視の真ん中で、冷淡に読み上げ始めた。

「これらはすべて、我が家の隠密、および王宮法務官の立ち会いのもとで収集された、君たちの不貞の記録だ。『三月三日、王都北区の高級宿にて密会。四月十日、バルモン家貸し別邸にて、ダリル騎士が夜を明かす。衣服の乱れ、および夜間の睦み合いの声』、計十五件の確実な証拠を確保している」

広間が激しい騒然とした空気に包まれる。貴族たちの視線が、一瞬にして「汚物」を見るような軽蔑のそれへと変わった。

「な、何よそれ……! そんなの、ただの捏造だわ! 言いがかりよ!」

「捏造、か。では、これはどう説明する?」

スティーブはファイルから数枚の書状を取り出し、カサンドラの足元へ容赦なくぶちまけた。

ひらひらと舞い落ちた紙面には、紛れもなくカサンドラ自身の筆跡で、『私の愛しいダリル。あの冴えない侍女の目を盗んで、今夜もいつもの場所で待っているわ』『オレオの男など、実家の借金を返させるための道具に過ぎないわ』といった、生々しく傲慢な愛の言葉と、オレオ侯爵家を侮辱する計画が、克明に記されていた。

「あ……、あ、ああ……っ」

カサンドラは、自分の手紙を凝視したまま、顔面を真っ青に染めてガタガタと震え出した。言い訳のしようがない、紛れもない本物の物証。

世界の中心で勝利の笑みを浮かべていたはずの令嬢は、一瞬にして、衆人の前で恥辱を晒す「稀代の悪女」へと叩き落とされた。

「そして、騎士ダリル」

スティーブの冷徹な声が、今度はダリルへと向けられる。

ダリルはすでに、あまりの恐怖に息をすることすら忘れていた。

「君には、不貞罪だけではなく、さらに重い罪状が課せられる。……我が侯爵家が最も重用する優秀な侍女であり、君の婚約者であったメリッサ嬢に対する、二年間におよぶ『給与の搾取および横領』の罪だ」

その名前が出た瞬間、ダリルの頭の中に、昨夜自分が仲間と「そろそろ結婚してやってもいい」と高笑いしていた光景が、最悪のブーメランとなって突き刺さった。

「め、メリッサ……? なぜ、ここで、あいつの名前が……っ」

ダリルの震える声に応じるように、広間の重厚な扉が、静かに左右へと開け放たれた。