軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

疑問と真実と

部屋の中へと入ってきたフィリップ様は、かなり遠くから「待たせてすまない。帰ろう、送る」と声をかけてきた。

わたしはジェイミーにまたね、と別れの挨拶をし、彼の元へと向かう。けれどドアの近くにいたフィリップ様は、わたしを待つことなくさっさと部屋を出て行ってしまった。

わざわざ部屋まで来てくれたのだから、一緒に馬車へと向かうのかと思ったけれど、だんだんと彼との距離は広がっていくばかり。

今や長い廊下の先で、フィリップ様の姿は豆粒ほどの大きさになっている。そのくせ、チラチラと何度もこちらを振り返っているようにも見えた。何がしたいのかわからない。

もしやまだ怒っているのだろうかと思いつつ、馬車へと着くと流石にエスコートしてくれ、二人で乗り込んだ。

「…………」

「…………」

そしてやはり、沈黙が流れた。理由はよくわからないけれど、話もしたくないくらいに怒っているのなら、こうして待たせた上に一緒に帰る必要があったのだろうか。

そんなことを思っていると、不意にフィリップ様の口からは「き、」という言葉が漏れた。

「…………き?」

思わず聞き返せば、フィリップ様は顔を上げて。その美しい瞳には、不安が色濃く広がっている。

「嫌いに、なっていないだろうか」

そして彼はこの世の終わりのような顔をして、そう尋ねてきたのだ。わたしは予想外の言葉にぽかんとしてしまう。

「何を、でしょうか」

「俺を」

「わたしが、フィルを?」

「ああ」

どうしてそんなことを、そんな顔で尋ねるのだろうか。

「……本当に、すまない。あんなことを言うつもりでも、するつもりでもなかった。本当に間違えた」

確かに彼の言う通り、先程のフィリップ様は色々と間違えていた気がする。言っていることも、色々とおかしかった。過去の謎の設定も、普通に破綻していた。

「あの、別に嫌いになってなんかいませんよ」

「……本当に?」

「はい。でも、どうして行かないなんて嘘を?」

そう尋ねると、フィリップ様は安堵したように深い息を吐く。そして少しだけ躊躇うような様子を見せた後、口を開いた。

「君に、同窓会に来て欲しくなかったんだ」

「えっ」

「他の男に、シリルに、会わせたくなかった」

なんだろう、それは。意味がわからない。

「……なぜ、ですか?」

「君のことが好きだからだ」

ほら、また。表情一つ変えずに、そんな嘘をつく。

それなのに、やけに真剣な表情を浮かべるものだから、悔しいことに心臓は大きく跳ねてしまう。

「君が俺に黙って参加して、シリルと二人でいるのを見た瞬間、頭に血が上ってあんなことをしてしまった」

「あ、あの」

「本当に、嫉妬でおかしくなりそうだった。頼むから、もうあいつとは会わないで欲しい」

「……フィル……?」

そして彼は、わたしに縋るような視線を向けて。

「君のためなら何でもする。何よりも大切にする。だからもう一度、俺を好きになって欲しい」

そんなことを、言ってのけた。熱を帯びた今にも溶け出しそうな蜂蜜色の瞳に、わたしは言葉を失ってしまう。

──今だって、「もう一度」なんて嘘をついた。やっぱり、フィリップ様は嘘つきだ。嘘つきな、はずなのに。

それでも、ひとつの疑問を抱いてしまう。

だって、あんなにも嘘が下手くそなのに。今の彼の表情は本気でわたしに、好きになって欲しいと訴えているようで。

彼のこれは本当に演技なのかと、疑ってしまったのだ。

「……ヴィオラ?」

「ど、努力、してみます」

「ああ」

ありがとう、と言ってひどく嬉しそうに笑った彼の顔を、わたしはもう見ることが出来なかった。

◇◇◇

「えっ、それ本当にフィリップが言ったの?」

今日も何の連絡もなしに我が家へとやって来たレックスは、わたしの部屋で寛いでいた。ソファで寝転びながら、小馬鹿にしたような顔でわたしの愛読書を読んでいる。

そんな中、最近の出来事を報告させられていたけれど。

「あいつも頑張ってるじゃん、俺ちょっと感動した」

「どうして、そんな嘘をつくんだろう」

「嘘、ねえ……」

彼はソファから体を起こすと、じっとわたしを見た。

「本気で、今もそう思ってんの?」

やはり彼は、今日も痛いところをついてくる。

「……だって、フィリップ様は嘘ばかりつくし」

「お前だって沢山嘘をついてるけど、口から出ることが全て嘘なわけじゃないだろ」

「うっ……じゃあ、本当だって言うの?」

「さあ? 俺は知らないけど」

とぼけたようにそう言うと、レックスは笑った。

「まあ、何でも決め付けはよくないってことだよ。本当のことが何も見えなくなる」

「…………」

「目も耳もついてるんだから、ちゃんと自分で確かめなよ」

そしてレックスはこちらへとやってくると、「お前らはまだまだ子供だなあ」なんて言って、わたしの頭をぐっしゃぐしゃに撫でた。