軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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咄嗟の思い付きで言ったそれは、これ以上ないほど完璧な落としどころだと、シャンティは自画自賛した。

正直言って、今日の自分は恐ろしいほど冴えていると思った。ギルフォードも、なら仕方がないときっと納得してくれると思っていた。

けれど───。

「……妬けるな」

「は?」

まったく予期せぬ言葉を頂戴して、シャンティは首を傾げた。

ちなみにシャンティの脳内では、「妬ける」ではなく、「焼ける」と変換され、丸焼きになったアルフォンスが鮮明に写し出された。えげつないことこの上ない。

だから、そぉっとギルフォードの手を離すシャンティを誰も責めてはいけない。

「君を捨てたくせに、まだアイツは君の心の中にいる。それが悔しい」

離れていくシャンティの手を掴んで、ギルフォードは苦しげにそう呟いた。

そこでやっとシャンティもさっきの言葉が「焼ける」ではなく、「妬ける」だったことに気づく。そしてすぐさま苦笑する。

それは、馬鹿なことを考えた自分に対してではなく、馬鹿馬鹿しいことを考えているギルフォードに向けて。

─── ああ、もう本当にこの人は鈍いなぁ。そんなふうに思えるようになったのは、あなたがいてくれたからなのに。

シャンティは呆れてしまう。

この人は自分の何を見てきたのだろうと。

こんなにもわかりやすい態度でいたというのに何も気づいていないなんて、まさに朴念仁だと、ついでに心の中で悪態も付いてみる。

シャンティはギルフォードと出会ってときめきを知った。胸が意味もなくドキドキすることを知った。

だから結婚式当日にトンズラしたアルフォンスのその後を聞いても、笑っていられた。

心から幸せを願うことができた。

そして誰かの事を好きだと、本気で守りたいと思ったら、良い子ではいられないことを知った。

誰かに後ろ指をさされるようなことだって厭わないと思ってしまうことを知った。

時には誰かを傷つけてしまうことだってあることを知った。

実際、シャンティはギルフォードが元婚約者のコラッリオに対して冷たい態度を取ったのを目にして、ほっとした。

そしてそんな自分がとても嫌な子だと思った。人の不幸を喜ぶなんて、と。

これまでの自分だったら、そんなふうに思うことはなかった。

他人の大切な話をぶった切るような真似などしたことなかった。

なのに、自分はコラッリオが悔しそうにしているのに、ギルフォードの膝に乗ることに確かな優越感を覚えていた。

そしてあの会話の中、お菓子を頬張りながら、頭の隅で二人の仲が壊れちゃえばいいのにって願っていた。ずっと......ずっと......。

なのにこの人は、まだ自分のことをお人好しだと思っている。まったくもう、お人好しなのは自分じゃない。ギルフォードの方なのに。

そう苦く思う反面、シャンティはなんだかおかしかった。

「ギルフォードさんは少し鈍感なのかもしれませんね」

「……それはどういう?」

そんな質問、答えられるわけがない。

アルフォンスが恋人を想うように、私だってこの人───ギルフォードに想いを寄せたい。

でも、これは偽りの結婚。そして幕を下ろす時が来た。

シャンティは不満そうな顔をしているギルフォードに向けて微笑んだ。そして、きちんと背筋を伸ばして口を開く。

「そういう意味です......へへっ」

本当は伝えたい言葉が、たくさん押し寄せてきた。

だけど、どれもがわざとらしいような気がした。そして恥ずかしくて口に出す勇気がなくて、シャンティは笑ってごまかした。

ギルフォードさん。あなたのことが好きです。

この一番伝えたい言葉をシャンティは、必死に飲み込んだ。

ちょっとでも気を抜けば、ぽろりと溢れてしまいそうな気がして、不安でぎゅっと自分の胸を押さえながら。

再び沈黙が落ちる。

窓に目を向けると、太陽はいつの間にか一番高い位置にある。ここで昼食を誘われたら、ちょっと辛い。でも、多分断ることはしない。

そんな他のことをシャンティがぼんやりと考えていたら、ギルフォードから名を呼ばれた。視線を彼に戻す。

「─── 君は強いな。私は本当は臆病者なんだ。怖くて怖くてたまらない」

「そんなことないですよ」

だって口にすることはできないけれど、自分は始まることさえ許されなかったこの気持ちを失うことが、とっても怖いのだから。

これまで伝えられ、注がれていた温もりや眼差しは、期間限定であることは知っていた。

だから、自分の中でひっそりと始まってしまったこの恋も、全て偽りのものなのだ。

もともとなかったもの。ちゃんとわかっている。綺麗に笑ってお別れをしなければならない。

なのに......なのに、それを失うのがとても辛い。別れを口にするのが、とっても怖い。世界で一人ぼっちになってしまうような不安を覚えている。

でも、二人で歩む道が消えてしまった以上、別々の道を進むしかないのだ。

そう自分に言い聞かせた瞬間、幸せで固められたこの部屋が、なんだか違う景色に見えた。

「ギルさん、これまでありがとうございました」

言いにくいことだと思ったから自分から口にしたと言うのに、ギルフォードはなにも答えてくれなかった。

視界が歪む。鼻の奥がつんと痛い。頬に熱い何かが滑り落ちる。

ああ、自分は今泣いているんだ。みっともない。目の前にいるギルフォードがぎょっとしている。今すぐ泣き止まないと。

そんなことを思っても、シャンティは溢れる涙を止めることができなかった。