軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「シャンティ、足元に気を付けてくれ」

「はい。ギルさん、ありがとうございま───うわぁぁぁ、可愛いっ。ってか、おっきいっ」

ギルフォードの手を借りて馬車を降りたシャンティは、見たままの感想を結構な声量で伝えてみた。

途端に、頭上から楽しそうな笑い声が降ってくる。

「気に入ってもらえてなによりだ。裏にも、山頂に続く小道がある。だがもう夕方だから、明日は案内にしよう。では、屋敷の中に行こうか」

「はいっ」

旅の疲れなど微塵も感じさせないほど元気よく頷いたシャンティは、差し出された太い腕にほんの少しだけ頬を染めて自身の腕を絡めた。

シャンティは馬車の中で木々の隙間から見えたこのギルフォードの別荘は、隠れ家的なものだと思っていた。

けれど、到着してしまえば予想を遥かに超えるとても大きな屋敷だった。

もちろん、王都にある本宅に比べればこぢんまりとはしている。それでも、シャンティの自宅より遥かに大きい。

けれど、武骨な軍人の所有物件とは思えないほど、見た目はとても可愛らしかった。

レンガ造りのここは、長い時間をかけて蔦が外壁を覆っている。初夏の季節のおかげで、それは青々と茂っていて、茶色と若葉色のコントラストがとても美しい。

しかも庭は広いけれど、本宅のように訓練場は無い。

その代わりに、玄関へと続くアプローチには、自然の風合いを生かした花々が咲き乱れ、まるでおとぎ話に出てくる妖精の館のようだった。

ちなみにディラス邸で働く使用人達は、元軍人とその家族が多いせいか、皆とても仲が良い。

そして本宅と別宅はかなりの距離があるけれど、一部の使用人達……主に年頃のメイドは、手紙のやりとりを盛んにしているので、王都での出来事は筒抜けだったりもする。

が、しかり百聞は一見に如かず。

奥方様を伴って、久方ぶりのご主人さまの訪問に、使用人一同は玄関ホールに整列していた。

そして玄関扉が開き、ホールに足を踏み入れたシャンティとギルフォードを目にした途端、そこにいた全員がものの見事に唖然とした。

ギルフォードはシャンティの腰に手を回して、それはそれは大切にエスコートをしている。

寡黙の代名詞と言われていたはずのご主人様はとろけるような眼差しを新妻に向け、口元にも柔らかい笑みを浮かべている。

そしてギルフォードは軍人らしく大股で歩くので、普段なら5歩でホールの中央に到着するのに、本日はその3倍の歩数でゆっくりと歩いているのだ。

本来なら使用人達は、腰を折りご主人様を出迎えなければならない。けれど、誰も礼を取る者はいなかった。がっつり新婚夫婦に釘付けになっている。顎が外れる者までいる。

もちろんメイド達は独自の情報網で「ご主人様がヤバイ。マジでヤバイ」という情報を入手していた。けれど、これほどまでとは、想像ができなかった。

「───……紹介しよう。私の妻のシャンティだ。皆、よろしく頼む」

使用人達がぽかんと間抜けな顔をしているのにも関わらず、ギルフォードは普段通りの口調で新妻の肩を抱く。

途端に、使用人達は礼とは逆の方向に、大きく仰け反った。

けれどここにいるほとんどは、元軍人。人並み以上に鍛え上げた筋力で、そのまま反動を活かして腰を折る。

「ようこそいらっしゃいました。ご主人様、奥様」

この別荘の雑事を全て引き受けてくれている執事代理のダリスは、僅かばかりの理性を振り絞って、なんとかそれだけを口にした。

ちなみにダリスは、シャンティがギルフォードの現在代理の妻であり、また、ギルフォードが一途に想っている女性であることをドミールから聞いている。

そしてこの10日間、ご主人様とシャンティが、もっともっと良い感じになれるように身を粉にして働けという厳命も受けている。

けれどこれは超が付くほどの機密情報。本邸のメイドすら知らない事実。

ただ、ここ別荘の使用人達は、ギルフォードの妻になるはずだった女性がお金と権力がことのほか好きだということは知っていた。

「初めまして。短い間ですがお世話になります」

そんなことなど露ほどにも知らないシャンティは、礼儀正しく挨拶をするとぺこりと頭を下げた。

それを見た使用人達は、混乱を極めた。

本邸からの情報と、今、目の前にいる新妻があまりに違いすぎたから。

派手好きな性格で華美な衣装を好んでいるはずなのに、ここにいる奥方は小柄で素朴な容姿に、屈託のない笑み。

着ている服は少佐の妻らしく品はあるけれど、派手すぎることはない。いや、むしろ地味な部類に入る。装飾品だって、結婚指輪しかはめていない。

なによりご主人様が新妻を見る目は、どう見たって恋女房で。

一体全体、何が真実なのだろうか???

そんな疑問を抱えて沈黙が落ちる。けれどその後すぐ、使用人達は声に出すことはしないが、同時にこう思った。

「ま、ご主人さまがこんなにも嬉しそうなら、どっちでも良いか」と。