軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ギルさん、ギルさん、見てくださいっ。とっても綺麗です」

ガタゴトと揺れる車内のなか、シャンティは窓から見えるラベンダー畑があまりにも綺麗で、隣の席に座るギルフォードに向かって声をかけた。

「ああ、そうだな」

最愛の人から満面の笑みを向けられたギルフォードは、ふわりと笑ってそう答える。

ちなみに、ギルフォードは馬車の窓から見える景色などこれっぽちも見ていない。視線はずっとずっとシャンティに釘付けだったりもする。

なのでこの会話は、実は成立していない。でも、二人はそんなことは気づいていない。

そしてこんなやりとりは、本日、数えること二十数回。勝手にやってろと思いたくなるほど、馬車の中は甘い甘い空気で満たされている。

さて本日は、以前から計画していた新婚旅行の初日。

シャンティとギルフォードは早朝から馬車に乗り、目的地までちょいちょい寄り道をしながら道中を楽しんでいた。

けれど初めて見る光景に目を輝かせているシャンティは、いつしか子供のように、どんどん窓から身を乗り出し始めている。

新婚旅行先は、南の領地のギルフォードの別荘。海と見まごうほどに大きな湖の近くにある。

都会の喧騒を忘れ、ゆっくりと過ごすのにはうってつけの場所ではあるけれど、いささか遠い。なのでギルフォードは、移動の間シャンティが退屈しないよう、窓の大きな馬車を用意したのだ。

だがとうとう窓枠に両手を付いて、窓から顔を出し始めてしまったシャンティを見て、ハラハラとしてしまう。

「シャンティ、あまり身を乗り出すと危ない。ほら、こちらに来なさい」

そう言って、ギルフォードはシャンティの腰を持つと、そのまま自身の膝の上に座らせた。そして、そのまま窓辺に移動する。

「こうすれば良く見えるし、安全だ」

ぎゅっとシャンティのお腹に腕を絡めたギルフォードは、満足そうに笑う。

けれど、シャンティはみるみるうちに真っ赤になった。無論、先日の体調不良が続いているわけではない。

熱は翌朝には嘘のように下がっていた。でもギルフォードは、より一層、スキンシップが激しくなった。

もちろんこれまでも、それはそれは多かった。

けれど、日中の彼はあくまで紳士として、夫としての節度をかろうじて守っていた。

今はお空にいるシャンティの両親は、子供の目から見てもとても仲が良かった。

そりゃあ夫婦喧嘩をしているのも見たし、「まったくもうお父さんたらね」とか「はぁーお母さんには困ったもんだ」という愚痴も聞いてきた。

でもそれは互いに信頼し思いあっているからこそのものだったのは、シャンティにはわかっていた。そして気づけば仲直りしている両親を見て、『夫婦喧嘩は犬も食わない』という意味を身をもって学んだ。

だからシャンティも、代理の妻という立場でギルフォードに触れられることに、あまり抵抗はなかった。そんなもんなのかな?と思う部分もあった。

でも、この状況は違う。

どこの世界に馬車の中で妻を膝に乗せる夫がいるのだろうか。少なく見積もっても、この国には彼しかしないだろう。

しかも子供をあやすようなことしておきながら、そっとシャンティの首筋に口づけを落とすなんて、破廉恥だ。......それを喜んでしまう自分は、もっと破廉恥だとシャンティは思ってもいるけれど。

「シャンティ、見てごらん。あれが私の別荘だ」

もはや外の景色など、どうでも良くなっていたシャンティだったけれど、ギルフォードに促され再び窓に目を移す。

早朝から馬車に乗り込んで、気づけばもうすぐ夕方。お日様は雲をほんのり茜色に染めながら、西の彼方に消えようとしている。

ギルフォードが指差した方向は湖から少し上。小さい森の一番上だった。そこには小指の先ほどの大きさの尖った屋根が見える。

あそこが、目的地。今日から10日間ギルフォードと共に過ごす場所でもある。

シャンティの頭がにわかに騒がしくなった。

ギルフォードは軍人で、少佐である。上から数えた方が圧倒的に早いほど高い地位にある軍人だ。

だからとても多忙で、実のところシャンティがギルフォードの代理妻を始めて、2ヶ月以上経過しているが、一日まるっと一緒に過ごすことができたのは、数えるほどしかない。

なのにこれからお天道様が高い位置にあろうが、夜の帳が落ちようが、ずっとずっと一緒なんだ。

という当たり前の事実を噛み締めた途端、シャンティの胸のドキドキは止まらない。

どうしよう。まだ始まったばっかりなのに、もうこんな状態なら、心臓がもたないかもしれない。

そんな不安を胸に抱えつつ、シャンティの心は既に目的地に到着したかのように浮き立っていた。