軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 クチベシティI 『それはきっと最後の』

魔王討伐の五英雄

共和国のハルバーディア――ヴォルフガング・ドルイド。

突然変異として誕生した共和国最高の戦士。出生は不明だが、おそらくは魔族と人間のハーフだとされている彼は、元々そこまで口数の多い男ではなかった。

特に賢い訳でもなく、だからといって馬鹿な訳でもない。戦闘においては比類ない力を振るい、アイゼンハルトと最初に合流したのも彼であった。

『魔王はきっと……一人では倒せない……ともに、戦おう……双槍……』

対魔決起集会で顔を合わせ、旅立った五人は一瞬で仲間割れをおこし、別々の道を行った。その中で一番最初に道を共にした最高の戦士。それが、ヴォルフガング・ドルイドだった。

三十五歳という年齢の割に皺の多い、幾多もの戦場を駆け抜けた痕がありありと浮かんだその表情。ほとんど頬の筋肉を動かすことが無い彼は、魔王四天王が従えた大量の魔族を相手に一人で戦っていた。徴兵によって小さな子供たちが残された村を守るために、堀の前に仁王立ちして死に物狂いで。

ヴォルフガングが薄くほほえむ時。それは、子供たちの屈託のない笑顔が見られるその時だけだから。戦場にでている時に妻子が村で魔王軍に殺された彼だから、余計に子供たちへの想いは強い。何時の日か羽ばたく命を守らねばならない。だからこそ、ヴォルフガングは戦うのだと。

熱き思いを胸に秘め、その巨躯を自由自在に操って起こされるハルバーディアの一閃は、きっと五英雄のうちでも最も力強く頼もしい一撃であった。

そんな彼は、魔王城に仕掛けられた酸を一身に浴びながらも、相変わらずの無口で仲間たちを見据えて。

『あと……少し……だろう……! いけ……!』

と、全員を庇って死に絶えた。

「やあやあ、そこに居たのかいシュテン! ちょっといいかな!」

「あん?」

ケトルブルグ港から船で旅だって早二日。ようやくクチベシティ港へとたどりついたシュテンとその一行は、今日は一晩クチベシティに泊まることになって宿屋に荷物を運び込んでいるところであった。

今日一日世話になる宿屋の外観をぼんやり眺めていたシュテンの背後から呼びかけられた声に振り向けば、機嫌の良さそうなミネリナの姿があった。

夕暮れ時とはいえやはり日光は好きではないらしく日傘を差しながら、相変わらず上品な服装に身を包んでいる吸血皇女。

燃えるような赤のツインテールは、相変わらず強気そうな雰囲気を支えていて。

そんな彼女の屈託ない笑みに、何か良いことでもあったのかとシュテンは首を傾げる。

「突然元気マックスだけどよ、昼においしいものでも食べたのか?」

「いつからわたしはそんな食いしん坊キャラになったんだ!」

「いやだって初めて会った時アラモード盗み食いしてたし」

「あ、あれはほら何というか……」

「あと服着てなかったな。露出の癖でもぐぇ!?」

「下着は着ていただろう……!? 水浴びのあとで食べるデザートが極上なだけだそれ以上の無礼は皇女としてゆるさんぞっ……!!」

女の子とは思えない膂力、というのは既に何人か覚えがあるものの、やはり胸ぐらを捕まれて女の子とは思えない表情で迫られると中々怖いものがある。

それでも内心を抑えつつへらへらしているあたりがシュテンがシュテンたる所以ではあるのだが。

「皇女さまともあろうお方が、どうしてあのようなあられもない姿でつまみ食いなどをされていたのですか」

「敬うな敬うなやめたまえ! 逆に胸が痛くなるだろう!」

「冷やし過ぎたんじゃね?」

「だから普段からあんな格好しているような言いぐさはやめたまえ!!」

全く。とあきれ混じりに嘆息する彼女に、そろそろ本題をと視線を向けるシュテン。

こんなことを話す為に呼び止めたのではないだろう、とばかりのその双眸を受けて、誰のせいだともう一度かみつきたくなるミネリナであったが。

それを少し抑えつつ、彼女は言った。

「……きみの、おかげなんだろう?」

「何が?」

「とぼけなくてもいいさ。今朝、テツがわたしのところに来てくれたんだ」

「へぇ。夜這いにしちゃちょっと遅い時間だな」

「馬鹿なことを言って話題をそらそうとするなよ。単純に、礼を言いたいだけなんだ」

「だから何もしてねえって」

あくまでしらばっくれるかと、ミネリナは目の前の度し難い男を睨む。

さりとて堪えた様子はなく、シュテンは相変わらず飄々と肩を竦めていた。

だから、ストレートに言おう。

軽く取りなおして、彼女はシュテンを捉えて。

「ありがとう。テツミナカンパニーは、ようやく一歩前進出来そうだよ。ついこの間頼んだばかりのことがすぐに実現出来たことに、驚くやら戸惑うやら、という感じはするけれどもね。それでも、きみのお陰でテツが頑張ってくれることになったのは間違いない事実さ。礼を言うよ」

「俺ぁ思ったことを言っただけだ。礼の意味が分からん」

「なら分からないなりに受け取っておけ」

ぽん、とシュテンの胸を手の甲でミネリナは小突いた。

軽やかな声色が、とても楽しげであることを伝えてくる。

「まずは、丁寧に一つずつ潰していきたい。せっかく所信表明が出来たんだ。最初の仕事に失敗してちゃあしょうがないからね。今回の吸血鬼捕獲は、そのためにも達成したい事柄だよ」

「……なるほどなあ」

「ん? どうかしたのかい?」

朗々と語っていたミネリナが、ふと気づく。

顎をなでつつ、いつからか思考の海に沈んでいたシュテンは、何かしらを思い出したように顔を上げた。

「いや、難しいことじゃねえよ。ただ、思ったよりテツの奴は俺の話聞いてくれたんだってな。ってか、あいつの裏事情を知っちまったいま、俺はアスタルテをボコボコにしたい気持ちでいっぱいだわ。……ってなわけで」

「うん?」

「もう吸血鬼捕獲の為に俺ぁ要らないかもしれねぇが、それでもついてっていいかい?」

「なんだ、そんなことか」

ふん、と鼻を鳴らして彼女は胸を張る。

「もちろんだとも。テツに隠蔽も掛け直したとはいえ、もうバレてしまっただろうからね。これからはあいつも前線に加わるはずだが……それでも、きみの力はあったにこしたことはないし、なによりきみも理由があるのだろう?」

「ま、な……」

「なら問題ないさ。いいとも、行こう!」

楽しそうに笑うと、ミネリナはそのまま手のひらを差し出した。

何のまねなのかと一瞬きょとんとするも、その意味を理解してシュテンも彼女の握手に呼応する。

「ま、何事もなくてよかったじゃねえか。頑張ろうぜ、お互いによ」

「そうだね、ありがとう!」

ここに一泊すれば、このあとは本当の戦いが待っているだろうから。

憂いはこれで断った。テツとミネリナの仲も良好で、クレインたちも気力充実。

もちろんシュテンに不調などあるはずもなく、全てが万全だ。

その時は、そう思っていた。