軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 これから

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アルは考えていた。

ゲームで描かれていたヒト族と魔族の戦争。ソコを上手く切り抜ける事が出来るならそれで良いと。どうせ個人の力で戦争を未然に防ぐことは無理。ただ、薄いゲームストーリーの知識で、被害を軽減するために事前に嫌がらせくらいは可能かも知れない。まずはその程度の覚悟。

そして、戦争に突入して、戦線への参加を強いられれば貴族に連なる者として義務は果たす。ただ、本当にどうしようも無くなれば、主人公達の健闘を祈りながらファルコナー領へ戻るつもりでもあった。あくまで最終手段ではあるが。

昨今の西方地域はそうでもないが、他の辺境地域は王国から生活資源の支援がないと戦線や民の生活を維持するのが難しい。

特に南方。

大森林は高純度の魔石が採れるが、それらを魔道具に活用できるよう加工する技術職をはじめ、魔石需要が高いのは王都をはじめとした各都市部。

いわば南方辺境地はヒト族の生活圏を守るというだけではなく、魔石の産出という一次産業の担い手ともなっている。魔道具を含め、自給自足が完全に成立している領は南方には少ない。どうしても魔石と他の生活物資との取引が必要。つまり、王都の疲弊がそのまま辺境地の生活を締め付けるとも言える。逆もまた然りだが……

ファルコナー領はアルがこの世界に生まれた時から過ごした場所。故郷であることにも違いはない。在りし日の場所。当然のことながら、そこに住む人々が苦しむ姿は見たくはない。アル自身にも貴族に連なる者としての矜持や義務感はある。力無き者を援ける。……ファルコナーの領民たちが、力無き者かはアルにも疑問だが。

学院に来て、主人公達がこの世界の独自設定を持つことを知った。その上で、彼等の周囲はガッチリと権力者達が固めている。この辺りはアルが心配することもない。このまますくすくと、ラスボスを倒せる力を育ててもらいたいと思っている。

『託宣の神子』だとか『使徒』だとか。

この世界の独自設定と流れがあることはアルも理解しているが、では、自分は一体何を求められているのか?

よく解らないままに『使徒』であると認定されているらしい。実際、アル自身もイベントらしきモノとの遭遇率から、漠然と何らかの役割を課せられている気もしていたが……

「(……だからと言って、特別な“強制力”的なモノは感じないんだよな。クレア殿がどう言うかは知らんけど、このままフラッとファルコナーへ戻っても女神エリノーラの神罰が下るとも思えない。何だろう? 適当に“素材”は与えるけど、後はお前らで勝手にしろ……そんな放任主義的な匂いがする。まぁこの世界で女神の存在を身近に感じたのは、初めて 主人公達(ダリル殿たち) を視た時くらいだしな。女神に対して特別に何を思うこともない。ただ、この世界の女神は頻繁にアレしろコレしろと言わないのは確かだろうさ)」

いつもの如く一人で黙々と考え事をしていると、ふと、何者かがゆったりと、それでいて滑るように室内へ入って来る気配を感じる。

「……はは。アル様。相変わらず難しいことを考えているようですね」

コリン。

ファルコナー領都の屋敷付の使用人。馬丁見習いとしてファルコナーに仕えている者。

事前に気配は察知しており、彼の登場にアルが動じることもない。ただ、内心ではかなり喜んではいるが。

「久しぶりだな。コリン。元気そうで何よりだ。お互いに命がある状況で再会できたことが嬉しいよ。

それにしても、思ってたよりも早いね。伝書魔法の返事が少し前に届いたところだったのに……ってか、何で手紙なんだよ。魔法で返事を返せば良いだろうに。領都にも伝書魔法屋はあっただろ?」

「いやぁアル様。その領都の伝書屋に魔法を依頼しにいったら『王都へ向かうなら配達人の護衛をして欲しい』と頼まれて一緒に王都へ向かうことになりましてね。アル様だって、クラーラ様が反対する筈もないと踏んでのことでしょう? だったら伝書魔法で金を使うより、手紙の配達で良いかなと。それにしても流石はプロの仕事。途中で別れましたが、それでも配達人の方が数日も早く到着していたみたいですね」

アルは少し前に伝書魔法という、伝書鳩の魔法版のようなモノをファルコナーに向けて飛ばすように依頼していた。その内容もシンプル。王都での活動をコリンに手伝って欲しい。……と、それだけ。

メッセージを受けとった領政を取り仕切るアルの母クラーラはその場で即決。コリンの王都行きが決まる。何をするのか、詳しい活動内容を知らないままにだ。

これまた即座にまとまった金を持たされてコリンは王都へ旅立つ。

そして今に至る。

「それで……王都到着後、ここに来るまでの道すがらに物騒な御令嬢に張り付かれましたが……彼女はアル様が?」

「はは。良いね。やはりコリンはヴェーラに気付いたか。コレで彼女も納得するだろ」

心配事が一つ。ヴェーラ。少し前のギルド襲撃未遂を経て、彼女はこれまで以上にサイラス達に身の危険に敏感になった。なってしまった。

この度、コリンを呼んでギルドのことを手伝ってもらう算段だったが、『それなりに戦える人材ではないと不安がある』……と、珍しくもヴェーラがアルに意見した。

「つまり、俺はそのヴェーラ殿の御眼鏡には適ったので?」

「当然だろ。気配を消した彼女に気付く者は中々居ないさ。……ヴェーラも別に本気で心配していた訳でもない。ただ、保護下にある子供たちを自分以外の者に任せるのが不安なんだよ。……ということで良い?」

開かれたままの扉。その横にはヴェーラ。当然ながら、コリンもその気配には気付いていた。

コリン自身は前線の者ではなく、あくまで非魔道士の範疇。生活魔法を十全に操り、薄っすらと身体強化の魔法が使える程度。しかし、近距離の気配感知はアルやヴェーラに勝るとも劣らない。少し距離をおくとマナ量の加減からか、途端に感度は落ちることになるが。

「……申し訳ございません。試すような真似を……謝罪致します」

「いえ、別に気にはしていません。それどころか、貴女程の実力者に認められる事こそ誉れというものです。あ、俺はコリンと申します。ただの平民で家名はありません。ファルコナー領では馬丁見習いでした。非才の身ですが、どうぞよろしくお願い致します」

コリンは礼をする。貴族式のだ。ファルコナーでは、皆が皆、戦場を征く者という意味を込めて、平民も同じ礼を用いている。所謂ファルコナー式。

「私の名はヴェーラです。貴族に連なる者ではありますが、私も家名はありません。今はアル様の従者としてお傍に控えております」

ヴェーラは板についたコリンの礼に違和感を覚えることなく、同じく貴族式で礼を返す。

そして、お互いの礼が終わったタイミングで、もう良いだろうとばかりにアルが手を打つ。

「はいはい。自己紹介も出来たし、とりあえずコリンは旅装を解け。荷物もあるだろう? 後の話は少し休んでからにしよう。この屋敷には他の面子も居るからな。皆が戻ってきてから紹介するよ」

お試しで稼働したギルドに、アルの馴染みであるコリンが増員となる。

……

…………

………………

「俺はこの『ギルド』にて、子供たちの世話係兼護衛ということで?」

「まぁざっくりと言うならそういう事だ。あとは、出来れば年少の子たちにもファルコナー流のマナ制御を教えてやって欲しいかな」

リーダー格であるサイラスは酒場で働いているため、まだ戻ってはきていないが、その他のメンバーとコリンとの顔合わせが済み、改めてアルは彼にやってもらいたいことを説明する。

そして、これを機に託宣の神子、王家の影、使徒……今後に起こるだろう魔族との戦争についてもコリンに聞かせる。戦争云々についてはヴェーラも初耳のこと。

「……しかし、アル様がそんな事を考えていたとは……その“予知夢”のようなモノは幼い頃からあったので?」

「あぁ。僕が視たのは予知というよりは、あくまでも一つの可能性というべきものかな? そもそも僕の予知夢には『託宣の神子』なんて出てこない。重要な役割を果たす人物は同じだったけどさ。

予知夢によると、近いうちに貴族間での争乱が起きる。それが落ち着いた頃に魔族たちの軍が東方の大峡谷を抜けて王国領土へ侵入。その際、東方の辺境貴族家のいくつかが魔族側と内通しており、王都付近まで一気に攻め上がって来る……あくまでそんな可能性があるってところ。当然現実の状況とは少し違っているし、全てが当て嵌まる訳でもないけどね」

アルは流石に前世のゲーム云々は省く。あくまで予知夢のようなモノだと。その予知夢通りに戦争が起こるなら、被害を少しくらいは減らしたいという希望があると話す。そして、どうしてもダメなら最終的にはファルコナーへ撤収するとも。

内心はともかく、ヴェーラもコリンもアルの言葉を一応は飲み込む。全てを信じる訳でもないが、この世界には女神の託宣や啓示なども時折見受けられる。その類ではないかと二人は自分を納得させている模様。

「……アル様。学院の入学手続きの際、ダリル殿やアダム殿下たちを張っていたのは、その予知夢によるものでしたか?」

「その通りだよ。お陰でヴェーラたちに気付かれた。王家の影と関わったことには不自由な面も多いけど、君を従者として迎えられたことは数少ない良い点だね。ありがとう。いつも助かってるよ」

さらりとヴェーラへの感謝を述べるアル。

伝えたいことはさっさと伝える。ファルコナー領ではそれが暑苦しい会話だと思っていたが、王都に来てから、アレは彼の地の良い点だったとアルも認めて実践するようにもなった。

「……い、いえ。ご、ご迷惑もお掛けしていますので……過分なお言葉です……はい……」

だが、ヴェーラは未だに感謝や善意などを向けられることに慣れない。子供達からの好意に対しても一時停止してしまう有様。まだまだぎこちない。

「まぁそんな訳でさ。このギルドを創ったのも、サイラスたちへの支援もあるけど、平民の間での不穏な空気なんかを察知するため。僕の予知夢に合致する出来事があれば動けるようにとね。実際に魔族側の間者も既に入ってきている……というか、ヒト族社会にも魔族に出自を持つ者は思ったよりも多いみたいだし。

ただ……どうにも王家の影のクレア殿は僕の予知夢の内容すら知っていそうだし、実のところ彼女にこそ不穏な空気を感じる。だから、王家の影に頼りっぱなしはマズい気がしているのは確かだ。

あと、神子には少し接触したいけど、使徒云々については、目先で関われば対処するだけに止めるというところか。

とりあえず、これが今のところの僕の行動方針だ。サイラスたちはともかく、コリンとヴェーラには知っておいてもらいたくてね」

アルは語る。あくまでも戦争の被害軽減が優先だと。女神関連にはあまり首を突っ込まない。そこは主人公達の出番だと割り切る。そもそもあの黒いマナを注視するのは良いが、それを操る“敵”とはそう何度もやり合いたくもない。そして、黒いマナ使い達……その先にはクレアの姿もチラつく。正規ルートには居なかった存在。

「ま、俺はアル様に従うのみです」

「……私も同じく。仮にクレア様や王家の影が相手となっても、私はアル様の傍らに立つでしょう」

二人が首肯する。アルも二人から反対意見が出るなどとは思っていないが、丸っきり全てを信じてもらえるとも思っていない。あくまで確認作業のようなもの。

「金の面でも王家の影には世話になってるけど、別に切られても問題はないしね。コリンが追加の資金を持って来てくれたし。まぁそういうことでこれからも改めてよろしく」

アルは気軽に考えていた。

今回、“敵”の存在を知ることになったが、自分が関わることはそうないだろうと。

ゲームとしてはまだまだ序盤。アダム殿下とアリエル嬢の婚約の解消すらなされていない時期。ここから主人公達は幾多の事件を通じてアダム殿下とも知己を得ていく展開となっていたが、それはあくまでゲームの正規ルートでの展開。

アルの中には『ゲームとこの世界は違うモノ』という考えが定着しつつあるも、やはりどこかでゲームの方を意識したまま。

ゲームストーリーとの違いはもはや決定的。

本来は死んでいた者が生き残っていたり、争乱の陰に潜む敵として後半に描かれていた者たちの姿を、序盤である今の時点で垣間見たり、そんな敵の一人が呆気なく早々に退場していたり。

そして、主要な登場キャラであってもストーリー通りに動くとも限らない。

それはダリルとセシリー。『託宣の神子』でありゲームの主人公である二人もだ。

アルは王家の影から情報をもらうだけではなく、自ら情報を得るためにこれまではやんわりと避けていたダリル達との接触も考えている。

都貴族であるセリアンやコンラッド、神聖術使いのシルメス、魔族であるヴィンス……という面々とも顔繫ぎはできた。

主人公周りの情報くらいなら何とかなるだろうという軽率な考え。

主人公達と接触することで、更にゲームストーリーから乖離していくことをアルは知らない。

この世界において正真正銘の異物は自分であるという自覚は、アルにはまだない。

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