軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 異世界転生

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アルバート・ファルコナー男爵令息。

ファルコナー男爵家の第三子であり末っ子の三男。

ファルコナー家は比較的新興の貴族家であり、辺境の田舎貴族だ。領都の他には農村が四つほどあるだけの領地であり、特別に農業が盛んというわけでもなく、特産の物があるわけでもない。ただただ砦だけが多い領地。

辺境に配置される、魔物や魔族たちからヒト族の生活圏を死守するため、民の盾となって戦う貴族家の一つ。

そんなファルコナー家にアルバート……アルは生まれた。

彼は赤子の頃から余り泣かず、幼い頃から物静かで聞き分けの良い子だった。

王都を始めとした大都市であれば、悪霊憑きか、はたまた精霊の悪戯かと……周りも頭を悩ませていたかも知れないが、辺境の貴族家では特に疑問に思われることもなく育つ。

彼には秘密があった。

お決まりの異世界転生。

アルには令和な日本で過ごした一人の男の記憶が残っている。男自身や家族の名前などの固有名詞は何故か思い出せないが、細かい体験の記憶はあるという状態。

前世の記憶は四十代の半ば頃で終わっており、その先はない。特に死んだ記憶もないが、こうしてココに居るのだから、前世の自分は恐らく死んだのだろうとアルは考えている。

アルには生まれた頃から自意識があり『あ、転生してるじゃん』と、はじめは単純な異世界転生と認識していた。

この世界は所謂ファンタジーな世界。

魔法という力があり、それを用いてヒト族は魔物や魔族に対抗している。

特にステータスウインドウも無ければ、レベルやジョブといったシステムもない。

ただ魔法があり、その素となる“マナ”と呼ばれる不思議パワーを操る術があるのみ。

そして、この世界の「貴族」とは魔法を使う者であり、魔物と戦う使命を持つ。

当然貴族家に生まれたアルもその使命は同じであり、幼い頃から魔道士としての修練を積むこととなる。

貴族家の当主は「貴族」であり、子や親類は「貴族に連なる者」。

この者たちはその力、魔法を使い、魔物と戦い民を守る。

弱い者は貴族に非ず。民衆も弱い貴族など認めないというシビアな世界観。

この世界では、大貴族家ならともかく、ただ貴族家に生まれただけでは安泰とはならない。辺境であれば特に。

前世があろうが、知識チートなどはする暇もなく、ただひたすらに魔法を修練をし、幼児の頃から魔物狩りの見学兼雑用をさせられる日々。

十歳を超える頃にはアルも戦力として駆り出される始末。

この世界の魔法はイメージが重要であり、個人のオリジナル魔法が多い。というより、基礎以外は固有の魔法と言っても過言ではない。

大貴族家や古貴族家であれば、代々受け継がれるその家特有の強力な魔法の一つや二つはあるのが当たり前とも言われている。残念ながら、ファルコナー家にそんなご大層なモノはない。

修練と魔物狩りの日々の中、アルは思う。『やってられるか』と。

何とかして必殺技が欲しい。

無双やオレtueeeの為じゃない、ただ生き残るため。

安心して魔物狩りをするため。

このままじゃ死ぬ。

知識チート? 今はそれどころじゃない。……と、アルの切実な想い。

ファルコナー家は脳筋。ゴリゴリの近接戦闘がメイン。

魔法は無属性とも呼ばれる、身体強化を主とした 強化(バフ) 系が圧倒的に多く、遠距離攻撃も弓矢を強化して放つという対応。何故か他家出身の家臣たちもファルコナー家にくると脳筋に染まるという有様。

個人の適性もあるが、属性魔法……所謂「普通の魔法」を苦手とする、近接戦闘の家系であり集団。それがファルコナー家。

アルもまた適性は無属性。マナ量も貴族に連なる者としては普通レベルであり、当主クラスに比べると心許ない。ここでも特に転生チートは無かった。

剣や槍を手に魔物と相対する度に『もう嫌だ。まっぴらごめんだ!』となり、アルは必死に考える。低コストで効果のある遠距離攻撃魔法を。

ある程度の魔法の基礎を学んだあと、前世で得たイメージを素にオリジナルの魔法を構築することにアルは執心する。

そうしなければ、今世は前世の四十代を余裕で下回って死んでしまうという強迫観念もあった。

そうして生み出された魔法が『銃弾』。アルのオリジナル魔法。

圧縮したマナの塊を高速度で射出するだけでのモノであり、元のイメージは前世の記憶にある映像。主に映画やアニメ、漫画の演出などを参考としており、厳密にはホンモノの銃や銃弾とは全くの別物。当たり前だが。

幸いと言って良いのか、この世界では身近に銃弾ほどの速度を出すモノはなく、魔法においても一般的に矢の速度を超えるようなモノは少ない。

例外としては、王家が操るという「雷」の魔法はまさに雷光の速さを誇る。

マナ量の問題のなのか、そもそも足りない魔法構成があるのか、資質の問題なのか……アルが「雷」「電気」をいくらイメージしても魔法として成立する見込みがなかったという。

一方で「武器」としての印象が強かった「銃」という存在は、アルもイメージが比較的容易であり、そこから放たれる「銃弾」も然り。少なくともはじめの段階から「雷」よりは手応えがあった。

それでも満足いく威力と速度を発揮するまでには、幼年期から少年期へ移行する数年の時を要したが。

ただ、その努力の甲斐もあり『銃弾』は主にその速度によって、魔物たちの認識外からの攻撃となり、その効果には目を見張るモノがあった。

相手によっては一撃必殺とまではいかないにしても、剣や槍を使用していた頃と違い、魔物にそこまで近付く必要はなくなり、アルは精神の安定が図られ、殺伐とした魔物狩り生活ですっかり淀んでしまった瞳にも光が戻ったという。

遠距離からの切り札を得たアル。コレで多少はマシになったと、余裕が出てきたのは十四歳の頃。

ようやく目先の魔物狩りやファルコナー男爵領以外にも意識が向き、そこではたと気付く。

『あれ? この世界、もしかするとゲームの世界じゃないのか?』

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「アル。お前も来年には十五歳だろう? 貴族院からそろそろ学院に来させろと催促があった。早いものだな、少し前はただのチビっ子だったのになぁ」

「……(アンタは僕の成長なんて気にもしなかっただろうに……まったく)」

ファルコナー男爵当主である、ブライアン・ファルコナー。

その肩書や身分を知らぬ者が見れば山賊の頭領のような風体。とても貴族家の当主とは思うまい。

ただし、その実力は流石に辺境の貴族家当主であり、大剣を担いで魔物の群れに一人で切り込み、その身一つで敵を瓦解させるというデタラメな身体強化魔法の使い手。

試してはいないが、彼が身体強化のマナを強く纏えば、恐らく『銃弾』すら弾くだろうとアルは確信している。まさに人外の超人。

ブライアンという男、性格は大雑把だが、家族への愛や貴族としての矜持が無いという訳でもない。ただ、細かい所に気が回らないだけ。

「父上、そもそも学院に関しては僕は何も知りませんが?」

「ん? そうだったか? 誰かに聞かなかったか? お前の兄たちからは?」

「(……魔物狩りにずっと連れ回してたのは誰だよ……兄上たちも方々に出払って、落ち着いて顔を合わせる機会なんてなかっただろ……)」

内心で愚痴を吐いているが、アルは決して父や兄たちのことが嫌いなわけではない。民の為に戦うその様は、この世界における「貴族」の正しい姿であり、男爵家の私兵団、民からの信頼を得ている父たちを誇らしくは思っている。その脳筋具合に難はあるが……

……

…………

「……つまり、貴族に連なる者として、十三〜十六歳の子息息女は、王都にある『ラドフォード王立魔導院』で二~四年を過ごす……?」

「ええ。その通りですアル様。貴族に連なる者の義務……と言えばそれまでですが、本来は領地外で他家との知己を得ることなどが目的とされています。

失礼ながら、アル様のように家督を継ぐことがないだろう、長子やその代わりを務める第二子以外の者が、出仕先を見出すための横の繋がりやら結婚相手の募集やら……それぞれに目的がある者も多いのです。長兄であるカルヴァン様など、本人は隠しておられるが、メリッサ様とのご成婚は学院での縁がきっかけと聞きましたぞ。アル様は御存知でないですかの?」

ブライアンでは話にならぬと、アルは家臣団を束ねる内政の要であるホブス老に話を聞くことになったが……

「(兄上の結婚式にも参列できなかったのは、アンタらが僕を魔物狩りに連れまわした所為だろ!)……僕の場合は男爵家を継ぐこともできないし、身を立てるために出仕先を見つけるのが目的になるかな? ファルコナー領に残るのも良いけど、少し僕の気質には合わない気もするしさ」

「ほほ。何を仰る。幼き頃より魔物をバッタバッタと斃すアル様の姿は、やはり御館様の子だと皆が言うておりましたぞ?」

「(だからそれはアンタたち脳筋どもが幼児を戦場に連れ出したからだろうがッ!!)」

決して嫌いじゃない。皆に愛されている実感もある。だけど、ファルコナー家に仕える将来は絶対に嫌だ。ごめんなさいさせてくれ。辺境はもうこりごりだ。

勿論、アルは本心を口には出さない。

……

…………

………………

「(ラドフォード王立魔導学院……何処かで聞き覚えがあると思えば……前世のあの男の記憶だ。二十代の頃にプレイしたRPGの中に出てきたはず。オーソドックスな剣と魔法の世界で、学院での日々から魔族との戦いまでを描いてた……はぁ……)」

アルは今更ながらに思い出す。

前世でプレイしていたゲームのことを。しかも特別にやり込んだ物ではなく、正規ストーリーを一度クリアしただけの物。

「(あのゲームはマルチシナリオにマルチエンディング……正規ストーリーすらうろ覚えなのに一体どうしろと?

いや待て待て。そもそもゲームの設定があるとしても、ココは現実に他ならない。ステータスとかもない。蘇生魔法とかもなくて死んだら終わり。まぁ死霊にゾンビ、スケルトンとしては蘇ることは可能か。嫌すぎる。却下だ。

それに、ゲームストーリーの時代と今の時代が同じかどうかも分からない。確か……ゲーム設定でも年表とかあった筈だけど……流石にそこまで覚えている訳もないし……)」

アルは庭のベンチに腰掛け、一人で静かに黙考する。

ファルコナー家では既に見慣れた姿であり、そんなアルを見ても家臣や使用人たちもいまでは『また坊っちゃんの考えるクセか』とスルーしている。

幼き頃は流石に使用人たちに心配もされたが……今ではすっかり馴染んだ景色。

「(別に転生の際に神様とかにも会ってない。……この世界的には『女神エリノーラ』か……特別に何かをしろとの啓示もない……と思う。

もしゲームストーリーと同じ時代であっても、主人公たちは成長すればこの世界基準でも人外レベルのはず。それにアルバート・ファルコナーなんて重要キャラは正規ストーリーには居なかった筈だ。他のルートとかやり込み系なサイドストーリーなら分からないけど、僕の容姿に重要キャラ感はない。むしろ父上のビジュアルと能力ならどこかに出てきそうだ……

そもそもだ。主人公側からすると、正規ストーリーすらうろ覚えなモブキャラがチョロチョロするとは迷惑だろう。当たり障りなく過ごすのが吉か?

あと、僕以外にも原作知識なり前世なりを持ったキャラが居たら? ……面倒くさいことになる予感しかしない。余計なことを言うと異端審問に掛けられかねない。

ただ、正規ストーリーの通りだとしたら……魔物の大群の襲来だとか、新興貴族家と古貴族家の対立だとか、貴族としての重責に耐えられない者たちの苦悩だとか、主人公たちの甘酸っぱい恋愛模様だとか……まぁ最後のはどうでもいいか。

ストーリーの終盤では魔族との戦争にまで発展する。ゲームでは主人公まわりしか戦っていない感があったけど、現実に戦争となれば、貴族に連なる者は当然のごとく徴兵されるだろ。学徒動員とか勘弁して欲しいな)」

アルは考える。自身がこの世界にいる意味を。もちろん答えなど出ないが。

もし、ゲームのストーリー通りであっても、所詮は男爵家子息でしかないアルに出来る事は少ない。

主人公たちならともかく、王族や公爵家に連なるやんごとなき御方たちに、モブキャラである男爵家子息が口を挟むなど……悪い結末しか浮かばない。

そして、マナ量を至上とする考えが根強い、この世界の貴族社会において、アルは特別にマナ量が膨大という訳でもない。ごく普通だ。

アッシュグレーの髪色に黒い瞳。前世よりは顔立ちは整っているが、この世界では驚くほど普通。

マナ量も容姿も一目を置かれる要素はアルにはない。

辛うじて『銃弾』の魔法は稀有なモノだが、この世界の常識を逸脱したイメージであり、そのような魔法は「狂人の魔法」と呼ばれる。

この「狂人の魔法」の使い手は、モノによっては異端審問の対象となる場合もあるため、常識から外れる個人の魔法は秘匿され、それを他言しないのも魔道士の間でのマナーともなっている。

当然、アルもファルコナー領や隣接する領地で活動する以外では、大っぴらに『銃弾』を使うなと、ブライアンをはじめ、家臣や私兵団の者たちからも厳命されていたりする。ファルコナー家に限らず、辺境の貴族家は仲間意識が強く、アルを売るような真似は決して誰もしない。

「(僕はこの世界でどんな振る舞いをすれば良いんだ? ……この世界で生きる以上は、流石に王国のしきたりを破る訳にもいかない……学院に行くのはもうどうしようもない。確定だ。聞けば学院の制度は何だかんだと理由はあれど、貴族家の王家へ人質というか、忠誠の意志表示という意味もあるようだし……学院に行かない=居ない者として存在を抹消される……とか大いにあり得る。流石に父上はそんなことは考えないだろうけど、ファルコナー領に残れば、魔物狩りの日々で擦り潰される未来しか見えない……はぁ……)」

アルは考える。答えが出ないと分かっていても。

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