軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 オープニング

:-:-:-:-:-:-:-:

「ダリル・アーサー男爵子息ッ! 貴様に決闘を申し込むッ!」

どこか弛緩していた空気を一気に引き裂く怒声。

騒めく周囲。

それも当然のこと。

古き慣例ではあるものの、近年では『決闘』を口にする者が少ない。

更に、その言葉を口にした者が、怒声の主が、このマクブライン王国の王家に連なる者であれば尚のこと周囲の動揺を誘う。

彼の名はアダム・マクブライン。

正真正銘マクブライン王家の第三王子。殿下と呼ばれるやんごとなき御方。

「ア、アダム殿下ッ! ダリルは男爵子息でございます! 王家に連なる御方が下位の立場にある者に決闘などとッ!」

「……くッ! そもそも貴女に……奴がアリエル嬢に非礼を働いたことが発端ではないかッ!」

「お、俺はアリエル様への非礼などッ! ただ……ッ!」

「貴様またしてもッ! アリエル様だと!? それが非礼だという! アリエル嬢は貴様如きに名前を呼ぶことを許可していないッ! 少なくとも婚約者である私は許可しないッ!」

更に周りは騒然とする。

第三王子であるアダム殿下の婚約者、アリエル・ダンスタブル侯爵令嬢を巡った痴話喧嘩かと。ただ騒然としてた者たちも、途端に聞き耳を立てることになる。

「ダリルッ! 迂闊な発言を謝罪せよッ!」

「……ッ!? ……も、申し訳ございません! 殿下! た、確かに……婚約者のおられる御令嬢を名前で呼ぶなど迂闊な真似でした。謝罪致します。……ただ、申し開きをすれば、俺……私は幼き頃にダンスタブル侯爵家に世話になった者です。その頃にダンスタブル侯爵令嬢と顔を合わせていた為、幼き日のままの気が抜けていませんでした。……この通り伏して謝罪致します」

別の者の叱責により、ダリルと呼ばれた少年はハッとして、アダム殿下に詫びる。アリエル嬢への呼びかけは幼き日の思い出だと。その幼心が抜けていなかったのだと。

騒がしさは続いているが、その場の空気の中で、どこか緊張の糸が切れる。

ここはマクブライン王国が運営する、貴族に連なる者が義務的に教育を受ける『ラドフォード王立魔導学院』。この学院内では、殊更に家の立場を振りかざしてはならないという建前がある。

それにこの国、マクブライン王国での「貴族」とは、あくまで爵位を持った者とその配偶者のみを指し、令息令嬢はあくまでも「貴族に連なる者」でしかない。子には家の身分によって差はないという形式を王国は採用している。つまり、男爵令息であろうが、侯爵令嬢であろうが、その身分は共に「貴族に連なる者」でしかない。……それでも家の身分差は大きく、実際には名ばかりの形式になっているが。

そんな身分制の中で、差があるとすれば「王家に連なる者」……王族。これがアダム殿下。

しかし、衆人環視の前で誠意をもって謝罪する者に対して、たとえ王家に連なる者であっても、その謝罪を無視して強制的に決闘を行うなどもっての外。この騒ぎには、もはやお開きが見えたのだ。

「……くッ! ……貴様の謝罪を受け取ろう。先ほどの決闘については撤回する。だが、同じ過ちは繰り返すな……ッ! 行こう。アリエル嬢」

アダム殿下はそう吐き捨てながら、肩で風を切り歩き去っていく。

アリエル嬢と呼ばれた少女は、チラチラと残された少年を振り返るが、声を出すことはなく、そのままアダム殿下と共に去る。

その場の観衆たちも、もう興味は失せたとばかりに三々五々にばらけていく。

そもそも、今日はラドフォード王立魔導学院へ入学する者たちの入寮日の一日。実務的な手続きも多い上に、寮へ運び入れる荷物などのこともある。

特に寮に入る者たちは、基本的に王都に館のない地方貴族の令息令嬢であり、長旅の疲れもある。未だに旅装のままの者も多いくらいだ。いつまでも非日常のイベントに構っていられないという実情がある。

「……セシリー。ありがとう。助かったよ」

「ふん。さっそくだな。ダリル。オルコット子爵令嬢だろう?」

「はは。違いない」

残された者。

一人はダリル・アーサー男爵令息。アダム殿下に決闘を申し込まれた者。

ホワイトアッシュの髪色に金色の瞳。見た目はいかにも少年という印象だが、その実、身体つきはがっしりとしている。辺境の貴族家に多い、魔物との実戦を経てきている者。

もう一人はセシリー・オルコット子爵令嬢。先ほどダリルを叱責した声の主。

ダークブロンドの髪が肩付近で揃えられている。瞳は碧眼。人形のような造形だが、その瞳は鋭い。こちらも辺境の貴族家。魔物との実戦を経験しており、貴族家の本質である戦う者の空気を纏っている。

そんな一連のやり取りを遠目に見つめる影が一つ。

実のところ、その影はダリルやアダム殿下のトラブルが起こる遥か前からじっとその場に居た。まるで何かが起こることを予期していたかのように。

「……本当にオープニングイベントが起こるとは。マジにゲームのままだね。さて、僕はどうすれば良いのやら……」

:-:-:-:-:-:-:-: