軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 神々の欺瞞

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意識のないダリル。彼の中にはクレアによって打ち込まれたナニかがある。

全身を満たす生命のエリノーラの属性である生と光……白きマナの中に、ほんの僅かに存在する異物。

どんな手品を使ったのか……冥府のザカライアが司る死と闇の気配を纏ったマナが、棘のように刺さっている。浄化されることなくダリルの中にある。

神子の意識を封じた傀儡の術式。その痕跡。

アルは 女神の加護(チート) たる白いマナの凶悪さと、ダリルの戦術と自分の戦い方……体術との相性の悪さを痛感した。

仕留める一歩手前まで行ったが、なんのことはない。単に誘い込まれていただけ。所詮は ダリル(クレア) の手の上のことだった。

神子ダリルとまともにやりあっても消耗するだけ。その上で親玉たるエルフもどきまで出てきた。

詰みだ。

彼我(ひが) の戦力差を考えると、正攻法で切り抜けるのは無理だと瞬時に悟る。

こうなれば仇の主体たるレアーナを残したままだが、 親玉(クレア) に特攻して潔く散る? ……まさかだ。完遂するまで止まらない。止まりたくない。それは復讐に囚われているのと、ファルコナーの本能が混ざり合ったナニか。〝物語〟からの干渉などよりも強い情動。

アルは賭けに出た。自身がこの窮地を切り抜け、尚且つクレアの計画をかき回すための一手。

「……(ぐッ!! アル殿!? 何故にここで俺をッ!?)」

『くッ!? そういうことか! 僕の〝予感〟が警告していたのは コ(・) レ(・) のことか!!』

その結果……神子ダリルが血反吐を吐いて吹き飛ぶ。神殿の壁面にめり込む。

先程のアルと似たような構図。

ただし、彼は場合は自ら跳んだのではなく、渾身の掌打に打たれてだ。

白きマナの……聖炎とでも表現するか……その聖炎による炎鎧の防御を貫いた。いや、 無(・) 効(・) 化(・) したアルの一撃。

「狙いはダリルか……ッ!」

大事な計画のための道具を壊されてはならぬと、遅まきながら即座に反応する人外。

渾身の一撃、その撃ち終わり。流石に今のアルも凌げない。間に合わないタイミング。

「……ッ!!」

クレアがその場で手を振り抜いたと同時に、展開していた闇色の障壁が鞭のようにしなってアルを打つ。

焼き増しのような展開。短い間で立て続けに見た光景だ。

ヒトが吹き飛ぶ。

ただし、今回はアルも防御が不完全であり、衝撃を殺せない。床に激しく打ちつけられ、バウンドして転がっていく。

何度目かのバウンドの際、アルは無理矢理に床を殴りつけることで勢いを削ぎ、何とか方向を変えて脱する。体勢を整える。

当然にあるだろう追撃を避けるための行動だったが……クレアからのアクションはない。黒幕の余裕のつもりか。

「(……痛てて。はは、クレア殿は随分と余裕だね。僕なんかいつでも殺れるってか。……くそ、それはともかく硬い。あの白いマナを無効化してなおダリル殿は硬かった。こっちの腕が砕かれるとはね……)」

クレアの 余裕(よゆう) 綽々(しゃくしゃく) な態度へのイラつきや、先ほどの一撃によるダメージもあるが、それよりも何よりも、ダリルを打った右腕が自滅的に折れた。そのことの方が痛い。

ダリルにダメージは通ったが、今のアルほどでもない。

その証拠に、神子は何てことないようにあっさりと起き上がる。聖炎による守りも健在。また、彼の炎鎧には治癒の効果もあるのか、既に回復もしている。元通り 以(・) 上(・) だ。

「……使徒アルバート。ダリルを殺してワタシの計画を止めようとでもしたか? くは。残念だが、今の神子殿は中々に頑丈でな。あの程度では壊せんよ」

虚を突かれはしたが、クレアは余裕を保っている。確かに彼女の言うように、一見すると、アルの渾身の一撃はダリルのマナを多少削っただけでしかない。

「やはり僕の見立ては正しかったみたいですね。ははは」

折れた腕はお構いなしに、アルは大仰に両腕を広げる。不敵に 嘲笑(わら) う。芝居がかった態度。 態(わざ) とらしいほどの〝意味深キャラ〟を継続中だ。

「見立てだと……?」

食い付くクレア。彼女にも欲が出た。亡者の依り代ではなく、魔道の研究者としての好奇心。〝外〟の世界のこと、この世界のこと……〝来訪者〟の情報を欲した。

そもそも、彼女にはアルを殺す意図はなかったのだから尚更。レアーナが動くまでは、情報を得るために対話を望んでいたのだ。

気が逸れている。

「初めてクレア殿にお目にかかった時のことですよ。あの時、僕は思いました。間合いが近ければ、父上が片腕を失う覚悟で踏み込めばクレア殿の命に届くと……」

「ふむ。確かそんなことを語っていたな。だが、貴様はブライアンにはまだ遠く及ばない」

クレアとの初対面。底の見えない、得体の知れぬ化け物。ただ、それでもアルは平静でいられた。別の化け物を身近に知っていたから……父であるブライアン・ファルコナー男爵のことを。

「ええ。少しばかりマナの制御が巧くなりましたが、僕はまだまだ父上に及ばないでしょう。あぁ、僕の見立てというのはクレア殿のタイプのことですよ」

「……」

桁が違うとはいえ、クレアは都貴族や西方辺境地に多い、いわば魔道士としての正統派。遠〜中距離で出力の高い魔法をバカスカと撃つタイプ。

ファルコナーは別枠としても……東方辺境地などに多い、時に魔物と肉薄するような中〜近距離で戦う魔道士とは少し毛色が違う。

「貴女は僕の動きが見えてはいたけど、近距離での……体術におけるマナの制御やその流れまでは認識できていなかった。ま、当然でしょうね。体術なんて使わなくても、術理を理解していなくても、クレア殿は今のスタイルで遥かなる 頂(いただき) に到達しうる超越者なのだから!」

殊更に大袈裟な身振り手振りを加え、舞台俳優のように芝居がかったアルの語り。

「……何が言いたい?」

自分がするのは良いが、他者がしているを見ると腹が立つものらしい。クレアに若干の苛立ちが募る。

この会話自体が、時間稼ぎだということにも気付かない。

余裕と秘密のある黒幕は、自分が騙されることには慣れていないのか……アルからすれば、今の状況は滑稽な舞台劇。

「はは。クレア殿は一連の動きに気付かなかった。見落としていたでしょう?」

「……」

さぁ。そろそろ準備も整った模様。

タネ明かし。

「僕が〝女神の一突き〟を使ったことをね」

一条の光が 疾駆(かけ) る。

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……

…………

………………

「なァ、ヴェーラさんヨ。俺にはマナの精細な感知能力なんかないんだガ、コレは……明らかにナニか起こってるよナ?」

クレアたちのアジト。地下神殿の一室。シンプルな作りながら質の良い調度品が置かれた貴賓室のような場所に、オーク種族としては小柄なジレドと、アルの〝 従者(ツガイ) 〟たるヴェーラはいた。囚われのまま。

オークは種族として戦いを得手としているが、個体としては戦うことを苦手としているジレド。そんな彼でも分かるほどの異常。しばらく前から、神殿内のどこからか僅かな振動が続いている。

「かなり感知しにくいですが、アル様が来ているのかと。戦いの気配がします」

「アルの旦那ガ? ……いやいや凄ぇナ。旦那はあのとんでもなくおっかねぇエルフに仕掛けたってのカ?」

「……そのようですね」

少し前にヴェーラとジレドはクレアの訪問を受けたのだが、その際、極々控えめに抑えていただろう彼女の……濃密な死と闇の気配だけでジレドは卒倒した。その実力のほどは知れずとも、クレアがヤバい相手だというのは流石に理解している。

「(アル様は我々が死んだという前提で動いているはず。もとを正せば、私の未熟さが招いた事態だけど……やられたらやり返すとは言っても、クレア様に正面から仕掛けるのは……何だかアル様らしくもない気がするような……?)」

若干の違和感。

ヴェーラはアルの従者として、〝こういう状況〟を事前に話し合っていた。まだ王都にいる頃から。

アルやコリンからファルコナーの流儀や戦場での考え方を教えてもらい、ある程度のすり合わせは済んでいる。

戦場での行方不明は死。

それが戦いの末だろうが、敵に拐われようが同じ。

〝やられたらやり返す〟のは基本だが、その範囲は冷静に見極める。勝てない相手に真っ向から挑むような蛮勇はファルコナーにはない。 強(したた) かに立ち振る舞う。

仇討ちや復讐というのも、ヴェーラが思うのとは若干意味が違っていた。

己の命を懸けてまでやり遂げるモノではないという認識。

ファルコナーは面子や時々の感情よりも、まずは自身の命を優先する。生き延びることが何よりも大事という考え方が根底にある。

「(……アル様は勝算もなく仕掛けはしないはず。でも、あのクレア様を仕留められる要素が見当たらない……アル様はどんな勝算を得たのだろう?)」

彼女は知らない。今のアルが、いっそ自暴自棄とも言えるほどにレアーナへの……クレア一派への復讐を望んでいることを。

彼は喪った存在を哀しみ……激しい怒りに任せて、ファルコナーの流儀からも少し外れてしまっている。

「……ジレドさん。とにかく、こちらにも何か動きがあるかも知れません。アル様の 命(めい) もありますので、可能な限りジレドさんをお守りしますが……クレア様たちが相手となれば、私では分が悪いことも承知しておいて下さい」

「お、おゥ……流石に俺も覚悟はしていル。ヴェーラさんこソ、俺を守るために無理はしないでくレ。俺だけ生き延びたラ、アルの旦那に合わす顔がねェ」

戦士に向かない性格ではあるが、ジレドも大峡谷の氏族に出自を持つ者。

当たり前に死ぬのは嫌だし、生き残りたいと願っているが、囚われの身となった以上は死ぬことも覚悟の上。

強者も弱者も、たとえ誰であろうとも、生き残る時は生きるし、死ぬ時はあっさりと死ぬ……という摂理が染みついている。

ジレドとヴェーラは、遠くから響く振動に気を張りつつ静かに時を待つ。

事態が動くだろうことは共に感じていた。良くも悪くもナニかが起こる……そんな確信めいた想いを抱く。

予想は当たる。

一際(ひときわ) 大きく響いた振動。壁や天井が微かに剥がれ、ぱらぱらとその残骸が降って来るほど。

静寂。

振動が止んだ後は沈黙の時間が続く。

この時のヴェーラは既に臨戦態勢。実体化した『縛鎖』を周囲に張り巡らせて、一つしかない出入り口、部屋の扉に集中していた。

彼女からすれば長い長い静寂の後。

とある気配が近付いてくる。

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……

…………

………………

『よせッ! クレア(愛し子) を害するような真似は止めるんだ! 彼女の計画に乗れば君の望みは叶うんだよ!?』

「……ふん。悪いがそれはそっちの都合だろ? 俺の望みはこの運命自体を壊すことだ。……セシリーを解放したかった。彼女だけでも……とな。だが、お前たちはそれでも俺たちを神子として離さなかった。クレア殿の計画に乗ったのは、神々の干渉を排除するというからだが……借り物の力ではあるが、〝今〟の俺なら……お前らの計画も、クレア殿の企みも、全部まとめてぶっ壊せるかもな」

意識の中でのやり取り。ダリルは覚悟を持ってはいたが、その選択はほとんどが『仕方なく』のこと。

王国や教会に周囲を固められていた日々。それに気付いた時には、もう自分ではどうしょうもない状況。しかも、それを知らせてきた独立派なりクレアなりも、所詮は自分たちを神子として利用するためだ。

なら、せめて自分だけが人身御供となり、セシリーへの干渉の盾になろうとしたが……結局は上手くいかない。

王国も教会も独立派もクレアも女神の遣いも……皆がダリルとセシリーを神子として扱おうとする。

挙句の果てには、神子としてはセシリーが主であり、自身はその補助であり予備。しかも神子は完全にはセットだという。二対一体。ニコイチ。

結果的にダリルの覚悟など意味はなかった。セシリーを解放する気など、誰にも、どの陣営にもなかった。

あっさりと騙された自分が悪いというのは分かっているが……腹立たしくないわけがない。

『壊すにしても順序がある! 手順通りにしなければ、この世界は神々の干渉を受け続ける余地を残すんだよ! クレアのやり方がエリノーラ様やザカライア様の最適解なんだ!』

「はッ! それらしいことを言うなよ。エラルド、お前は嘘が下手だ。俺の〝予感〟はお前にも効いているぞ? こんな力を与えるべきじゃなかったな。この世界との繋がりを切りたいのは神々の都合だろ? どうせ干渉の余地とやらが残るのは神々と〝物語〟の関係性だ。神々はそれを脱却したいだけ。……何が世界を愛しているだ!」

ダリルという男は、セシリー曰くの単純馬鹿という評価だった。

ただ、彼の単純さは直感に優れているとも言える。どこぞの知性派を気取っていた某ポンコツとは少し違う。馬鹿であることを自覚し、その上で自身の直感を信じていただけ。

彼はエラルドの……女神の遣いの誤魔化しを察知していた。どこか利己的な欺瞞の臭いがすると。

神と名乗る存在であっても、その実、愚かなヒト族と変わり映えがしないということに……ダリルは早くから気付いていた。

怨みつらみに引き摺られてはいるが、ある意味では神々を信奉し、その 御業(能力) を過大評価しているクレアとも違う。

「……まだクレア殿は良いさ。所詮は彼女も勘違いのままに神々に踊らされている側だ。出し抜かれて操られたのには腹が立つが、クレア殿も哀れな道化仲間とも言えるからな。ただ、エラルド。俺はむしろ お前たち(神々) にこそ怒りを覚えてる。正真正銘の神様なんだろうが、敢えて言わせてもらう。……お前ら、何様のつもりだよ?」

『よせダリル! 君は神子なんだよ! 加護を得てるくせに神に逆らうのか!?』

形振り構わずとなったエラルド。もちろん、ダリルがその懇願を聞くはずもない。彼は己の感覚に従う。もう欺瞞の臭いには応じない。それを承知の上だったとはいえ、流石にクレアで懲りた。

「知るかよ。何が加護だ。 過(・) 誤(・) の間違いだろ? 誰も頼んじゃいないしな。……俺はアル殿に乗る。少なくとも、彼にはお前らのような酷い臭いはない」

肉体の自由が戻る。

意思の光が瞳に宿る。

次の瞬間、聖炎が一条の光となってクレアを襲う。

神子ダリルの解放こそがアルの賭け。

彼は一度きりの〝女神の一突き〟を、ダリルに施された死と闇の痕跡……傀儡の術式破壊のために使った。

それは女神や冥府の王の目論見を壊す所業。

ただ、アルにとっては場を切り抜けるための苦し紛れの一手……まさしく賭けであり、行き当りばったりでしかなかったのだが。

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