軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝利の裏

「もしかしてソラ嬢ちゃん、スキル育てるの初めてなのか?」

「はい、やっと二千点たまったんですよー」

「マジか……。トールの兄貴たちって全員、赤鉄級だろ……。下枝のしかも一段階目でここまで来たっていうのかよ」

「はは……。わたしはオマケみたいなものでしたし」

「おいおい、バカ言うなよ。さっきの赤水の邪霊の攻撃、あれ止めたのソラ嬢ちゃんだろ? 俺たちは前に出るばっかりだから、よく身に沁みてんだよ。ああいう、ここぞって時に手助けしてくれるヤツがいてこそ、パーティってのは成り立つもんなんだぜ」

「そうですよ、ソラさん。僕もモンスターを華々しく倒したりはできませんが、この盾で皆の命を守ってるんだって誇りを忘れたことはありませんよ」

「もっと胸張って行こうぜ、ソラっち。ユーリルさんには負けてるけど、それなりにいい大きさなんだしさ」

口を揃えて励ましてくれる男たちに、ソラは驚いたように顔を上げた。

トールへ視線を向けると、顎の下を掻きながら口を開く。

「さっきも言ったばっかりだろ。お前がいてくれて本当に助かってるよ。戦いだけじゃなくて、美味しい飯つくってくれたりとかもな。うん、昨日のスープ、すごく美味かったぞ、ソラ」

「ト、トールちゃん……、ううう、トールちゃぁぁん」

嬉し涙を隠すように少女は、トールの胸に飛び込んで顔を埋めた。

ぐりぐりと額をこすりつけながら、肩を何度も震わせる。

その様子に河原で石を積んで遊んでいたムーが、慌てた顔で駆け寄ってきた。

「どうした、ソラねーちゃん。お腹いたいのか?」

「ううん。お腹じゃなくて、胸がちょっとね」

「ムーがピリピリしようか?」

「ありがとう、ムーちゃん。その優しいとこ大好きだよ。それとさっきは守りきれなくてゴメンね」

トールから離れたソラは、かがみ込んで今度はムーを抱きしめる。

不思議そうに首をかしげた子どもは、ソラの頭に手を回して嬉しそうに抱き返した。

しばらくそのままで抱き合っていたが、やがて何かを決めたような顔で少女は立ち上がった。

「よし、もう大丈夫。ありがとう、ムーちゃん」

「そっかー。イタイのなおった?」

「うん、すっかり元気だよ。これもムーちゃんのおかげだね」

子どもと手をつないだまま、少女は冒険者札を改めて強く握った。

枝スキルの元となる枝瘤は、生まれつきにあるものだけが全てではない。

他の枝を成長させたことが引き金となって、生まれてくる場合もあるのだ。

特に中枝スキル以上はほぼ全てこの条件であり、中には複数の枝スキルを完枝状態にしないと現れない枝瘤まである。

上枝スキルになるとその条件はさらに難しくなり、必要なスキルポイントも莫大な量となるため、おいそれと試せるようなものではなくなる。

そのため上枝の成長配合は上位神官や貴族の間でも秘伝となっており、取得方法が明らかにされていないスキルも多い。

また枝スキルの上限にも個人差があり、最大のレベル9にまで育てられない場合もあったりする。

下枝スキルではあまりないが中枝以上では限界を早く迎える者もいて、狙っていた育て方をあきらめざるを得ない冒険者も少なくはない。

ちなみにトールの<復元>の上限がレベル10なのは、司祭の老人曰く、特別な御力を秘めた技能であるからとの話であった。

今から上げるのは下枝スキルのレベル2に過ぎないが、ソラにとってはとても大事な一歩目だった。

トールやムー、ユーリルの顔を思い浮かべながら、ゆっくりと水瓶にたまったポイントを<反転>の枝へ注ぎ込んでいく。

――大切な家族を、もっと守りたいと願いながら。

力を得た枝が一瞬だけたわみ、グッと一息に伸びる。

その感覚になぜか確証を得た少女は、振り向いてトールに手を差し出した。

「どうかな? トールちゃん」

頷いたトールはその手を握り、少女の技能樹を確かめる。

<反転>の枝の横に、先ほどまではなかった小さな瘤が盛り上がっていた。

「お、新しく生えてるな。おめでとう、ソラ」

「えっ、ホント?!」

「おお、よかったな! ソラ嬢ちゃん」

「さすがだぜ、ソラっち」

「おめでとうございます、ソラさん。……ところで、どうしてトールさんがそれを?」

魂測器でしか分からないような事実を当たり前に告げるトールへ、ディアルゴのもっともな質問が飛び出す。

肩をすくめた中年の冒険者は、何も答えず人指し指をそっと自分の唇にあててみせた。

「そっちへ振り分けてみるか?」

「うん、お願いしまーす」

「えっ、振り分ける? いったいなんの話ですか? トールさん」

再び困惑顔で疑問を発するディアルゴに無言で首を横に振りながら、トールはソラの<反転>をレベル1に戻す。

目をつむった少女は<反転>の横にある枝瘤へ、戻ってきたスキルポイントをつぎ込む。

再び目を開いたとき、ソラの技能樹には新たな下枝スキルが増えていた。

<固定>――対象の攻撃・効果を固定させる。

レベル1/使用可能回数:一時間五回/発動:瞬/持続時間:五秒/範囲:認識

「おお、なんか使えそうだよ! トールちゃん」

「そうだな、<反転>よりは防御寄りの感じか。モンスターを足止めしてくれるのは助かるな」

「うん、まっかせてー。これでもっとみんなを守れるようになるね」

「ああ、期待してるぞ。そういえば、それ爺さんの<停滞>と少し似てるな」

トールの不意をつく言葉に、祖父が力を貸してくれたような気持ちに襲われたソラはぐっと目元に力を入れてこらえる。

そして鼻先を持ち上げて得意げに笑ってみせた。

「ま、わたし、かわいい孫だったしね。血は争えないってとこかな」

「隙あればお前の自慢話ばっかりだったしな、爺さん」

「なー、トーちゃん。おはなしおわった?」

「どうした、ムー?」

ちょっとだけすねた顔になった子どもが差し出してきたのは、魔石の欠片が詰まった革巾着だった。

約束を思い出したトールは、頷いてさっそく元通りにしてやる。

「ほら、これでいいか?」

「トーちゃん、だいすき! あとね、これもいい?」

抱きついてきた子どもは、ポケットから丸い何かを取り出してトールへ差し出す。

それは綺麗に真ん中で半分になった球形の物だった。

青く透き通り、表面は水晶のようにツルツルしている。

「あ、それ、魔晶石じゃねえか」

「おチビちゃんが拾ってたのか。どうりで見つからねえはずだ」

魔晶石は魔石の上位に当たる存在で、精霊系モンスターが消滅する際にその精霊核が変化したものである。

魔石との大きな違いは属性と呼ばれるものが付加されており、特定の魔技を増幅したり効果を高めたりができるのだ。

そのため石の属性によって、炎晶石や嵐晶石などと呼び名も変わる。

さらに回数は限定となるが、内部にある魔力を使って自然現象を起こすことも可能なため、かなり高額で取引される素材でもあった。

「ほら、これでいいか?」

「ありがとー!」

「……もう何も言わねぇぞ。ま、そいつがなくなってくれるのは、ありがたい話だしな」

「そうなのか?」

「ああ、魔晶石の欠片には魔力が残っているからな。それ目当てに、またすぐに赤水の邪霊が湧いちまうとこだったぜ」

安心した顔になった三兄弟は、力の抜けた笑みを浮かべる。

「ま、なにはともあれ、これで一段落ってとこだな」

「ソラ嬢ちゃんにも新しいスキルが生えったぽいし、めでたしめでたしだな」

「じゃ、宴会すっか!」

勢い込んで叫ぶ男たちを、少し離れた場所に立つ双子が黙って見つめる。

その手の中には、先ほどのムーが持ってきたのとそっくりな青い水晶の欠片が握られていた。