軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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境界街の外門を抜け、壁沿いに北へ向かう。

しばらくそのまま進むと、不意に森を裂いたように一本の道が現れる。

数条の轍の跡が残る道を、揺られること一時間。

北東へ走り続けた馬車は、ようやく木々の合間を抜け出す。

あとは鬱蒼と繁る小鬼の森を右手に見ながら、三時間ほどゆるい起伏のある道を進み続けるだけだ。

左手には岩と茂みが点在する荒れ野の景色しかない。

ところどころで見える黒々としたかたまりは、ここと同じように小鬼どもが棲む森のようだ。

しっかりと整備された道のせいで車輪を揺らす出っ張りもなく、馬車は静かに目的地へと近づいていく。

最初は初めての乗り物に大はしゃぎであったムーも、代わり映えしない眺めにすぐに飽きてしまって、今はユーリルの膝枕によだれを垂らしていた。

目を輝かせていたソラも、頬杖をついてぼんやりと物思いにふけっている。

それさえも飽きたのか、ふわりと可愛くあくびをした少女は振り向いてトールに話しかけてきた。

「たいくつだねー、トールちゃん」

「そうだな。見張りは俺がやるから眠ってていいぞ」

乗合馬車の天井席は運賃が安いうえに見晴らしも素晴らしいが、たまに森から湧き出してくるゴブリンを見かけたら警告する義務があったりする。

それとこの時期はほぼないが、雨が降ったりすればずぶ濡れのまま耐える必要も出てくる。

なので馬車の屋根の上の席には、トールたち四人以外の人影はない。

その辺りは乗る前に一通り説明があったが、最初ということであえて選んでみたのである。

もっとも背中にしがみついて小さくおねだりしてくるムーに、ちょっとばかりトールがほだされたというのもあったが。

それに箱馬車の奥座席の料金は一人銀貨三枚、後部座席は二枚、天井席は一枚と差が激しい。

今回の遠征で色々と入り用な品を買い揃えたので、多少でも節約できるのはありがたいという思惑もあった。

トールは軽く伸びをしながら、視線を上に向けた。

中天に差し掛かる太陽のもと、空は鮮やかに澄み渡っている。

引き伸ばされて千切れた薄い雲が、ほんのわずかに浮かんでいるのみである。

生ぬるい風が頬を撫でながら通り過ぎ、よりいっそう眠気をさそったのだろうか。

またも少女は小さくあくびをして、目尻に軽く涙をにじませた。

朝八時の出発のせいで、今日は普段よりもやや早めに家を出ている。

正午の到着まであと一時間ほどなので、トールは再び仮眠をすすめた。

「ついたら起こしてやるから、休んでおけ」

「ううん、もっとトールちゃんとお喋りしてたいし」

「そうか、休める時に休んでおくのも冒険者の鉄則だぞ」

「でしたら、トールさんも休憩なさいますか? 膝が片方、空いてますよ」

穏やかな声で会話に紛れ込んできたユーリルへ、トールは少しだけ困った表情を浮かべた。

今日のユーリルは長い銀髪をしっかり結い上げた髪型が、白い亜麻布のローブ姿に異様に似合っている。

長年の境界街暮らしで、冒険者を飽きるほど見てきたトールでも気後れするほどだ。

それに心地よすぎて鼻の穴まで開けきった間抜け面の子どもと頭を並べるのは、大の男には少々キツい試練でもある。

「遠慮しておきます。また別の機会にでも」

「だったら、わたしが膝枕してあげるよー。ほらほら、どうぞ」

「いや、結構だ。それじゃ時間潰しにもう一度、能力の確認でもしておくか」

「ざんねん。えーと、じゃあ、わたしからで」

眠気が取れてきたのか、ソラは張り切って手を上げた。

「つかえる魔技は<反転>で、えーとこれは襲われたら、エイって返せます」

「何度、聞いてもすごいわね、ソラさんの魔技」

「えへへ、でもまだ半分だけしかムリなんですよ」

ソラは現在、スキルポイントが千八百前後なので、<反転>をレベル2にするには二百点ほど足りてない。

今回の遠征で溜めきってみせるというのが、今日のソラの意気込みだった。

むろんレベル2に上がったからといって、<反転>が急激に強くなるわけではない。

少女が願っていたのは、ある一つの可能性だった。だから、のんきに居眠りなどしてる場合ではないのである。

今の少女には、ちょっとした悩みがあった。

前回の小鬼の洞窟制覇であるが、明らかにソラだけ獲得したポイントがすくなかったのだ。

これはソラの戦闘参加手段が<反転>の魔技しかなく、問題は一時間に五回しかその機会がないということである。

二層のホブゴブリンシャーマン相手にはほぼ必須の状況ではあったのだが、その煽りで攻略後半の一層での戦闘はただただ傍観するだけであった。

これじゃダメだなーと、ソラは現在、真面目に考え中であったりする。

もっとも少女も以前と同じではない。

特性が今までの<空間知覚>に加え、<筋力増強>、<回復促進>、<苦痛緩和>、<魔力増大>の四つがいきなり増えたのだ。

中でも魔力増大の恩恵は素晴らしく、<反転>を三連続までならほぼ支障なく使えるようになったのは大きい。

これによって瞬間的な火力だけなら、パーティ随一といっても過言ではなくなった。

あとは装備品であるが、以前のはユーリルに返却したため、新たに麻布のローブと猪革の胴着を着込んでいる。

さらに猪革の長手袋と長革靴も揃えたので、細部の守りも抜かりない状態である。

「ムーは寝てるから、代わりに俺が。こいつが使えるのは<電探>、<電棘>、<雷針>の三つですね」

「こんな小さいのにえらいわね、ムムさん」

「ただ使い分けに毎回、<復元>がいったりするので、そこだけがやや厳しいですね」

ムーのスキルポイントは二千五百ほどなので、現在は二つまで覚えておくこともできる。

さらにどれか一つだけに絞れば、レベル2にすることも可能だ。

だが所詮は低レベル。

段階が上がって変わったのは、使用可能回数が五から六に、持続時間が十秒加算、範囲が二歩延びた程度である。

なので、今はレベル1のまま使用を続けている。

ムーの最大の武器は特性の<感覚共有>であるため、その辺りの微増はトールもさほど重要視はしていない。

特性は他にもソラと全く同じ物が四つ増えている。

<筋力増強>で疲れにくくなったのが、ムーには一番のメリットであるようだ。

装備品は河馬革の赤い大きめのケープを膝上まで覆い、その下は木綿の半袖シャツとハーフパンツ姿である。

足元はモグラ革の短靴で、黒い猪革製の肘当てと膝当てをつけている。

あと鎧猪の毛皮で作った耳あて付きのポッコリした帽子も、なかなかに似合っていた。

「それで俺ですが<復元>で、ある程度の物なら戻せます」

「ふふ、私もその一つですね」

「ええ、不自由はありませんか?」

「いいえ、素晴らしい心持ちですよ、トールさん」

トールも<時列知覚>以外に皆と同じ四つの特性を得ており、特に<筋力増強>の影響が大きい。

さらに二分だけなら切れ味を異様に鋭くできる鉄剣と、防御性能を高めることができる青縞大蛇のマントが完成した今は、名実ともにパーティの要となっていた。

「最後は私ですね。主に氷系魔技をたしなんでおります。下枝魔技の<冷睡>、<凍晶>、<氷床>と中枝魔技の<霜華陣>は完枝しております。それと<冴凍霧>は残念ながら、まだすこし足りておりません」

「なんだかわからないけど、たいへんすごいってのはわかります!」

「ありがとう、ソラさん。でも、ちょっと時間をかければ誰でもこの程度は簡単ですよ」

何気なく語るが、通常は下枝スキルを三本も育て切るような人間はいない。

たいていは、より強力な上の枝のスキルに目移りして、威力の低い魔技などあっさり放置してしまうものだ。

だが弱い魔技であろうと育てきれば、それは凄まじい効果を持つ存在へ変貌する。

そのことを、トールは誰よりも深く知っていた。

さらにユーリルの恐ろしい点は、その鍛え上げた魔技を支える特性の数々だ。

<魔力過大>、<対象分散>に<魔力注入>と、まさにモンスターの行動を阻害することにかけては、他の追随を許さない万全ぶりである。

チラリとトールが視線を向けると、ユーリルは白い花のような笑顔を向けてきた。

楽しみで仕方ないようであるが、残念なのはその白硬銅の胸当ての上に見える黒縁の冒険者札であった。

今から向かう狩り場はD、Eランクが主体なため、Cランクの立ち入りは日数制限がされているのだ。

具体的には週二日のみ可能となっている。

それでもユーリルの腕前ならば、短期間でも恐ろしい成果が上がるのは確実である。

全てが見知らぬ場所で、初めて出会うモンスターたちと、この四人で戦うのだ。

柄にもなく高まった胸を意識しつつ、トールは視線を前に戻した。

延々と伸びる道の先。

視界を横切る赤黒い太い線が、否応なしに目を引き寄せる。

それは荒野を蛇行しながら進む、大きな水の流れであった。

血のように赤い水を湛えたその場所の呼び名は、血流しの川。

トールたちの新たな狩場である。