軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ご利用は計画的に

首を失ったモンスターは、そのまま仰向けに倒れ込み地面を揺らした。

倒れ込んだ迷宮の主の身体は、切り口から派手に血を垂れ流してはいるが微動だにしない。

完全に終わったことを確認して、軽く息を整えるトール。

その背後で、見守っていた二人が大きく歓声を上げた。

「トールちゃん、カッコよかったー! うん、すごかったよ。あっという間にたおしちゃうし!」

「トーちゃん、やるなー。ムー、見なおしたぞ!」

近寄ってくる二人に、トールは肩越しに振り向いてちょっとだけ顎を持ち上げてみせた。

それから視線を広場の奥へ戻す。

そこにあった黒い泉は、綺麗さっぱり消え失せていた。

迷宮の主が倒されると、瘴穴はすぐに撤退するという話は本当であったようだ。

穴が空いていた場所は、代わりに石の蓋のような物に覆われている。

横たわるホブゴブリンチーフの死体を避けて、トールは慎重に穴があった場所に近づく。

周囲に怪しい気配はない。

屈み込んだトールは、手を伸ばして石の蓋に触れた。

とたんに冷たい石の手触りとともに、何かがするりと指先から流れ込んでくる感触が伝わってくる。

ほんの一瞬で、それは消えてしまった。

不快な刺激でなかったことに安堵しながら、トールは己の技能樹を改めて見直す。

予想通り幹の中ほどから、今までなかった小さなふくらみが突き出していた。

<回復促進>――怪我や状態異常の治りが早くなる。

発動:自動/効果:小/範囲:自身

無事に迷宮を制覇した褒賞である幹果特性を授かれたようだ。

もっとも<復元>を持つトールには、さほど有効な特性ではなさそうであるが。

戻すまでもないちょっとした傷の治療なんかには、便利かもしれない。

ただし効果は小なので、それほど期待できるものでもないだろう。

「よし、ムーもさわってみろ」

いつの間にかしゃがみこんでいたトールの背中に、子どもがベッタリとのしかかっていた。

後ろから首にギュッと手を回して、クスクスと楽しそうに笑い声を上げている。

「トーちゃん、おんぶして!」

「あとでな。ほら手を伸ばしてみろ。ああ、ソラ、それの耳は切り取らなくていいぞ」

「え、そうなの?」

地面に転がっていたモンスターの頭部にナイフを当てていたソラは、トールの言葉に顔を上げる。

「討伐証明は、この洞窟の消滅が証になるらしいぞ」

「そうなんだ。大きいからちょっとジャマだし助かるね。あ、魔石はなかったよ。ヌシなのに魔石ないんだねー」

二人が会話している間に、ムーがトールの背中に乗っかったまま手を伸ばして石の蓋にさわる。

やや前のめりの姿勢のまま、子どもは落ちないようトールに懸命にしがみついた。

「さわったぞ、トーちゃん」

「えーと、どうだ?」

ムーの紫の幹にも、小さな果実が実っていた。

<筋力増強>――筋力をより引き出し高める。

発動:自動/効果:小/範囲:自身

「お、ムーの特性はなかなかいいな」

「そっか。ムーはまたもつよくなってしまったのか」

モンスターと戦闘するだけが、冒険者の仕事ではない。

むしろ歩き回る時間のほうが長いため、脚力が増すのはありがたい話だ。

ただしこれも元の筋力があまりないムーでは、それほど引き出せる余地はないだろう。

「おまたせー。これにさわればいいのかな?」

そばにきたソラも屈んで、石の蓋に手のひらを押し付ける。

触った瞬間に伝わってくる感触にやや驚いた顔をしたあと、少女は期待に満ちた目でトールに手を差し出してきた。

その結果は……。

<苦痛緩和>――限界以上の苦しい感覚を和らげる。

発動:自動/効果:小/範囲:自身

「えー、どうなのかな? 痛いのがへいきってこと?」

「これは確か、ここで一番よく出る特性だったかな。ま、前衛なら当たりだったな」

冒険者がかなりの怪我でも気絶せずに動き回れるのは、最初に挑むダンジョンでこの特性をよく授かるおかげだといわれている。

ただ小さな擦り傷などの痛みに対しては全く効き目はなく、一定以上の苦痛に対してのみ作用する特性だとか。

「なんだか、あんまり関係なさそうなのがつくんだね」

「ムーはぴったりだったぞ!」

「それはなぁ。小さいダンジョンでは仕方ないことらしいぞ」

ダンジョン制覇で得られる幹果特性は、大まかに体力や身体能力絡みの前衛向けと、魔力絡みの後衛向けに別れている。

そしてそれぞれ魔力の有無によって、付きやすさが変わってくる……はずである。

だがそれは、得られる特性の種類が多い大きくて難しいダンジョンの話だ。

ここのような小さめのダンジョンでは、もとより与えられる種類は片手の指ほどしかない。

なのであまり関係なく、適当に割り振られてしまったりする。

実は小鬼の洞窟にも後衛向けの特性が一つだけあったのだが、残念ながら全員外れてしまったようだ。

トールの説明を聞いたソラは、ちょっと残念そうな顔をしつつ辺りを見回した。

広い空間にはトールたち三人以外は、モンスターの死骸と石の蓋しかない殺風景ぶりである。

あまりにも地味な結末に、少女は正直な感想を述べた。

「えっ、もしかしてこれで終わり? なんかあっけないね」

「壁が点滅したり天井がいきなり崩れてきても困るだろ。あ、そうだ。ちょっと俺の特性を<反転>できるか確認してくれるか?」

「いいよー。うーん、いい効果はむりっぽいかな」

「やはり攻撃と認識できないものは無理か。よし、引き上げるとするか」

「トーちゃん、おんぶ!」

迷宮の主が倒され瘴穴が消えると、ダンジョンは三十分から一時間ほどで崩壊を始め地の底に沈んでしまう。

モンスターどもは瘴気の元が絶たれると再発生は止まるが、すでに発生済みのモンスターと出くわす危険もある。

主を倒した後は、すみやかに避難を始めるのが鉄則であった。

背中に取り付く子どもに首をきつめに絞められながら、トールは腰を伸ばして立ち上がる。

増大した筋力が、意外なところで弊害をもたらしていた。

立ち去ろうとしたトールは、何気なしに石の蓋を踏みつけて動きを止めた。

思わぬものが、視界に飛び込んできたせいだ。

それは石の蓋の経歴だった。

穴の縁から迫り上がるようにして現れた平たい石が、円を描きながら蓋に変わる動きが連続する映像としてトールの脳裏に浮かび上がる。

その光景はトールに純粋な好奇心をもたらした。

瘴気が引いた後の穴底の様子を見てみたいと何気なしに考えたトールは、子どもをぶら下げたまま再び屈み込んで石板に触れる。

――<復元>。

「なっ!」

いきなり穴から溢れ出した禍々しい何かに、トールは目を見張った。

石の蓋をどけただけのつもりであったが、その下にまだ瘴気が残っていたようだ。

慌ててムーを抱えたまま飛び退るトールの耳に、先に出口へ向かっていたソラの息を呑む音が聞こえてくる。

急いでそちらに視線を向ける。

そこで再びトールは目を見開いた。

驚くその視界に映っていたのは、首を失ったはずのホブゴブリンチーフがゆっくりと起き上がる姿であった。