軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな魔技

<復元>は過去の状態への移行。

<遡行>は行動の巻き戻し。

ともに過ぎ去った時間へ干渉する魔技であった。

だが<加速>は、現在の時間を未来へ速める作用を持つようだ。

技能樹の枝も、<復元>や<遡行>のちょうど反対側に生えている。

正直なところ、<加速>という文字が脳内に浮かんだ瞬間、トールはそのイメージに思わずこぶしを握ったほどだ。

しかしながら、それも次に流れた説明を見るまでであった。

<加速>――戦闘に関わる対象物の時間を加速させる。

レベル:1/使用可能回数:一時間二回/発動:瞬/効果:十一秒/範囲:接触。

またも物限定である。

つくづく時神様は、試練を与えるのが好きなようだ。

もっとも<復元>と違い、こちらは応用が利きそうだと思ったトールは、さっそく剣を<加速>して素振りしてみた。

が、何も起こらない。

魔力や使用可能回数が減っていないので、発動自体していないようだ。

首をひねったトールだが、すぐに説明の違いに気づく。

<復元>や<遡行>は戦闘に関わった対象となっているが、<加速>は戦闘に関わる対象物と表記されている。

それはつまり実際の戦闘に際してしか、使用ができないのではないかと。

それを確かめるため、トールは小鬼の森へ出かけた。

通常ならBランクの冒険者はもう立ち入り不可だが、そこは森スライムの体液集めという名分がある。

あっさりと見つけた泥の塊そっくりのモンスターに、トールは容赦なく<加速>を発動させながら剣を振り下ろした。

次の瞬間、眼前の木は、森スライムごと鮮やかに断ち切られていた。

そのまま派手な音を立て、幹半ばで切断された木は横倒しに倒れる。

そして素晴らしい成果を見せてくれた剣だが、気がつくと手元から消え失せていた。

急いで視線を巡らせたトールは、木の向こうの地面に深々と突き刺さっている愛用の剣の姿を見つける。

その後、二度ほど試してみたが、やはり凄まじい切れ味を見せてくれたものの、肝心の剣が手から離れ予想外の位置に移動してしまう有り様となった。

そうなると次に引っ掛かってくるのは、効果の十一秒という部分だ。

<加速>という名前からして、普通であれば二倍や五倍といったふうに表現されるべきである。

それが秒という時間の単位なのは、その時間の分だけ変化が起きているのではないかとトールは考えた。

その推測の元となったのは<遡行>だ。

十一秒の間であれば、この魔技はたいていの行動や結果をなかったことにできる。

だが剣の動きに関しては、一切巻き戻しや結果の取り消しができなかった。

そこから考えられる要因は、剣だけすでに十一秒を経過してしまっているからではと。

なので今度はゆっくり十一秒かけて剣を振り下ろし、その感じを掴んでみた。

次に同じ速さで森スライムへ振りながら、剣を<加速>してみる。

すると上手い具合に、スライムだけ断ち切った状態となった。

もっとも相変わらず剣が手元から離れてしまっていたので、落ちる前に受け止める必要があったが。

<加速>することで、十一秒後に動くであろう位置に一瞬で移動する。

それがこの新たな魔技の効果らしい。

そして移動中であれば、その通り道にあるものはもれなく両断されてしまう。

おそらく尋常ではない速さのせいで、切れ味が想像を超える結果を生み出しているのだろう。

ちなみに剣を静止させた状態で<加速>しても、なんの変化もなかった。

剣を遠くへ行かさないために、ゆっくりと振るう必要がある。

それでも必ず手元からは離れてしまう。

結局、小鬼の森で半日以上かけて分かったのは、なんとも使い辛い魔技であるということだった。

もっともそれは剣などに言えることで、もっと簡単に威力を引き出せるやり方もある。

剣をいったん鞘に収めたトールは、眠ったままの残りのコボルトに近づきながら足元の手頃な石を拾い上げた。

重なる位置を調整しながら、石を静かに投げつける。

――<加速>。

一瞬の間も置かず、手前のモンスター四匹の頭部に、綺麗にくり抜かれたような穴が現れた。

次いで血を噴き上げながら、コボルトどもはいっせいに倒れ込む。

生温かい同胞の血を浴びて、残った一匹も目を覚ました。

目を見開いて周りを確認した後、牙を剥き出して駆け寄ってくる。

その背後に回り込みながら、トールはチラリと背後のソラへ視線を送った。

少女は珍しく眉間にシワを寄せた顔で、懸命に杖をかざしている。

だが、トールやコボルトになんの変化もないようだ。

その隣では、圧倒的な速さで攻撃を躱し続けるトールの姿に、ムーが嬉しそうに飛び跳ねている。

こっちはすっかり以前の調子を取り戻してきたようだ。

ユーリルと目を合わせると、心配そうに首をわずかに横に振ってみせた。

<迅雷速>も消えそうなので、トールはもう一度剣を抜いた。

踏み込みと同時に白刃を振るう。

一瞬で両手と首を斬り離されたコボルトは、うめき声ももらさずその場に崩れ落ちた。

<加速>に頼らずとも、これくらいならば余裕である。

「どうだった、ソラ?」

「なんかこう出そうで出ないんだよねー。あー、もどかしい!」

「そう焦るな。発動の条件を見つけるには、何度も試すしかないからな」

「うーん、でもねー」

「ゆっくり調べていけばいいさ。それに新しい魔技が使えなくても、お前が俺の大事な相棒ってことには変わりはないしな」

「そっ、そうかな?」

嬉しそうに頬を染める少女に、トールはしっかりと頷いてみせた。

トールやムーに続いて、ソラにも新たな魔技の枝が生まれていた。

名前は<再現>。

記憶保存した対象の攻撃や効果を再現できるらしい。

使いこなせれば、これも大いに応用が利く技だと言える。

だが残念なことに、まだ一度も発動できていないのだ。

おそらく説明にある記憶保存という表記が問題のようだが、今のところそれがどういう条件を指すのか判明していない。

とりあえず試行錯誤を繰り返し、手がかりを少しでも探っていくしかない状況だ。

「トーちゃん、はやかったなー。もしかして。ムーのおかげか?」

「ああ、そうだな」

「そっかー。ぜんぶムーのおてがらか」

「全部じゃないぞ。ムーの分は三割くらいだな」

「さんわりかー。じゃあほとんどぜんぶだなー」

トールの背中にしがみつきながら、子どもは上機嫌でのたまう。

比較的弱いモンスターの討伐に手伝いを申し出たのは、これが狙いでもあった。

むろん新しい魔技の練習も兼ねているが、何より重要なのは沼地で失った自信を取り戻すことである。

ソラやムーは実戦経験は少ないものの、その内容は並の冒険者の比ではない。

二人は十二分に厳しい戦いをくぐり抜けてきているのだ。

あとはその事実を、余裕のある戦いを通して思い出すだけでいい。

心配を隠したトールの瞳を覗き込んだ少女は、杖を握りしめたまま朗らかに言い切ってみせた。

「大丈夫だよ、トールちゃん。これくらいじゃへこたれないからね、わたし」