軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

洞穴探し

「あいかわらず、なにヤッてんのかサッパリわかんねーな、おっちゃんら」

先に戦闘を終えた若手組のリッカルが、トールたちの戦いぶりに呆れたように呟いた。

剣がいきなり消えたかと思えば違う場所に現れ、何かを投げたと思ったらコボルトどもがまとめて血を噴き出して倒れ込む。

かと思えば、ムーは足を青白く光らせてその場で飛び跳ねているだけだし、ソラは力んだ顔で杖を持ち上げているだけときた。

同じく熱心に見つめていたシサンが、赤毛の少年のもっともな言葉に重々しく頷きながら答える。

「ああ。……だけど、一つだけハッキリ分かることならあるよ」

「え、マジ?」

「やっぱりトールさんは、別格だなって」

真面目な顔で言い切ってみせる盾士の少年に、倒したコボルトの右耳と魔石を回収していたヒンクがボソリと漏らす。

「ホント、トールさんが絡むとお前も相変わらずだよな」

「ちょっと憧れが強すぎるのよね、シサンは」

「で、でもトールさんは、本当にすごい人だと思います」

困った口調で会話に割り込んできたアレシアに対し、隣のエックリアは素直にシサンに賛同する。

ボッサリア生まれの少女にとって、トールたちは街を救った英雄だけでなく、自分たちの人生を大きく変えてくれた存在でもあった。

思わぬ味方の登場に目を輝かせたシサンは、赤毛の少女の手を握って上下に激しく振る。

「エックリアだけだよ、この気持ちを分かってくれるの!」

「もう、驚かせてどうするの」

慌てた顔でアレシアが二人の手を引き剥がすが、エックリアは顔を赤く染めてうつむいてしまう。

微妙になった空気を流すように、ヒンクが肩をすくめて言葉を続けた。

「夢中になる気持ちも少しは分かるけど、とりあえずやることやっとかないと、肝心のトールさんに愛想尽かされちまうぞ」

「その通りね。ほら、シサン、腕出して。張り切りすぎて、ちょっとひねったでしょ」

「ま、魔力のほう、<熱線>あと三回撃てます!」

「こっちはケガなーし。剣のソージもバッチリおわってるぜ」

若手組は戦闘を終えるごとに、体の状態や魔力の量、装備などを確認して互いに声を掛け合うようにしていた。

これもトールに言われて始めたことである。

張り切る仲間たちの様子に、密かに優秀なサブリーダーに育ちつつある弓士の少年はやれやれとため息を吐いてみせた。

その後、遭遇したモンスターを無難に退治しながら進むこと二時間。

ようやく若手組とトールたちは、犬鬼の丘の奥地へたどり着く。

この辺りまで来ると地面の隆起もかなり激しく、見通しも悪くなってくる。

ちょうど太陽が真上に差し掛かってきたので、荒れ地茨のない丘の一つに登った一行は昼の休憩を取ることにした。

モンスターを寄せ付けない遠退け香を焚いて、荷物を手早く広げて準備する。

本日の昼食は、牙ミミズのひき肉のハンバーグを挟んだパンだ。

発熱盤で温め直したパンの上に、同じく温め直した肉と葉野菜、そしてたっぷりの緑豆を潰したソースが掛けられる。

あとは、もう一枚のパンを上に載せて完成である。

さっそくかぶりついたムーとソラは、仲良く反対側からソースを噴き出して大慌てしていた。

眺めのいい景色を堪能しながら、トールも食事を楽しむ。

夏が近いせいか、丘の上には肌を軽く炙るような日差しが降り注いでくる。

しかし遮るものもないため、涼しい風が通り抜けてなかなかの心地よさだ。

目深にかぶっていたフードを揺らされたユーリルは、風の行方を視線で追いかけながら、その先に広がる風景に呟きを漏らした。

「あら、赤い木立とは珍しいですね」

丘のはるか向こうにうっすらと浮かぶのは、赤茶色の木々の集まりのようだ。

隣でパンを頬張っていたソラが、目を丸くして言葉を返した。

「んぐ、ふう。なんか火事で焼けてるみたいですね」

「あれは確か次の狩場だな」

赤鱗級(Eランク) の冒険者向けだったはずだ。

そっちのほうも厄介なモンスターが居座っており、いろいろと苦戦しているらしい。

まだ見ぬ光景にトールが思いを馳せていると、ひき肉挟みパンを真っ先に食べ終えたムーが袖を引っ張ってくる。

「なー、トーちゃん、リンゴないのか?」

「もう、おやつか。ちゃんと食べられるか?」

「ううん、くろすけのごはん」

トールが小ぶりのリンゴを手渡してやると、子どもは嬉しそうに歯を立てた。

シャクシャクと小気味よい音を響かせるムーは、自分の行動に全く疑問を感じていないようだ。

芯までかじりかけて、ようやく目的を思い出す。

「しまった! これくろすけのごはんだった」

慌てて腰の虫かごを下ろし、そっと蓋を開けて中にリンゴの芯を入れる。

瘴地生まれの昆虫だけあって、多少揺らされても平気だったようだ。

のっそりと動いたかぶと虫は、餌にまたがると甘い果汁を吸い始めた。

その様子を覗き込みながら、ムーはうっとりとした声を漏らす。

「はー、くろくてツヤツヤだ」

「そうか。よかったな」

「うん!」

昼食後は、いよいよダンジョンの出入り口の探索である。

丘のてっぺんから見渡していたソラが、目ざとく少し離れた場所に黒い影を見つけ出す。

大きさはシサンたちが背を屈めれば入れるほどで、奥行きもかなりありそうだ。

「簡単に見つかったねー」

「それがそう甘くないのよ、ソラちゃん」

「ハズレばっかりだからなー。ムー、こっちこっち」

アレシアの言葉に頷きながら、リッカルが子どもを呼びつける。

「なんだー?」

「ちょちょいっと、中にモンスターいるかしらべてくれ」

「ムーはそんなおやすくないぞ」

「たのむよ。あとでかぶと虫のあそび方おしえてやるからさ」

「らいらい!」

二つ返事で引き受けたムーは、紫の小さな蛇を飛ばしてみせる。

「おおきいのが、いっぴきいるぞ!」

「一匹か。トールさん、どうしますか?」

「見せてもらっていいか?」

「分かりました。ヒンク、たのむ」

シサンの指示で弓士の少年は素早く矢をつがえると、的も絞らずに洞窟の奥へと解き放った。

三度ほどその動きを繰り返すと、穴の奥から低い唸り声が聞こえてくる。

暗がりから姿を見せたのは、青い毛皮をまとった大きな獣であった。

体つきは熊に似ているが、顔は細長くどこか犬を思わせる。

土にまみれた腕を振り回しながら、モンスターは矢を射掛けてきたヒンクに襲いかかった。

すかさず前に出たシサンの盾が、その長い爪を受け止める。

鉄が打ち合ったような硬い音が響くが、少年の体はびくともしない。

モンスターの動きが止まったところへ、その脇腹を狙ってリッカルが剣を突き出す。

同時に距離を取ったヒンクの矢が、怒りに満ちた眼球を狙って放たれた。

しかし奥地のモンスターとなると、そう甘くはないようだ。

わずかに首をひねったせいで、矢は固い頭骨に当たってそれてしまう。

またリッカルの剣も、しなやかな毛皮で滑って軽い刺し傷のみに留まった。

その傷もまたたく間に再生しながら、モンスターはくぐもった叫びを上げる。

振り回された爪先を紙一重で避けるリッカル。

そこへ今度は、前に出たシサンが鈎棍棒を叩きつける。

だが、これも浅い。

大きな体を包む青い毛皮は滑りやすく、たいていの攻撃はその実力の半分も発揮することができない。

力任せに振り回される長く鋭い爪は、早くも鉄の盾に爪痕を刻み込むほどの威力を誇る。

この獰猛なモンスターの名は怒り穴熊。

強さは小鬼の森の鎧猪に匹敵するため、同様にFランク昇格への討伐対象とされていた。

ただしボッサリアでは青銅級ではなく、毛皮の色にちなんで青皮級と呼ばれているが。

当然、五人パーティで協力しないと倒すのは難しい相手だ。

ただ初見では凶暴すぎる印象を与えてくる鎧猪に小回りが利かないといった弱点があるように、このモンスターにも同様の欠点が存在した。

実は怒りに目がくらみ過ぎると、闇雲に腕を振り回すだけになるのだ。

だからといって油断して近づけば爪の餌食になってしまうが、何度も倒してきたシサンたちにその辺りの手抜かりはない。

「炎樹の赤き実りよ――<火弾>」

いつのまにかしっかり距離を取っていたシサンたちのさらに背後から、朗々とした祈句が紡がれる。

弧を描いて宙を飛んだ赤い火球は、穴熊の頭部に命中すると紅蓮の炎となって焼き尽くす。

鈍い悲鳴を上げて地に転がるモンスター。

自ら動きを封じた間抜けな穴熊に、リッカルとヒンクが続けざまに刃と矢を浴びせる。

そして起き上がったら、また距離を取るの繰り返しだ。

ひとしきり顔面をじっくりと焼かれたモンスターは、力尽きたようにうずくまってしまった。

シサンたちは討伐証明の部位である尾と、買い取りが高い爪だけ回収しておく。

残念ながら毛皮と肉は、手間がかかるために置き去りである。

「なるほど、穴熊の巣だったんだねー」

「そうそう。ハズレってやつ」

ダンジョンの入口探しに手間取っている大きな要因は、この怒り穴熊どものせいであった。

一見だけでは、モンスターの巣穴か迷宮なのか区別がつかないのだ。

なので実際に入ってみて、確かめてみるしかない。

しかしそうなると、時間もかかるうえに狭い穴の中でさっきの穴熊と対面する危険も出てきてしまう。

矢を撃ち込んで運良く誘い出せればいいが、なかなか上手くいかない場合も多い。

そこでムーの出番というわけだ。

穴熊は基本的に一穴一匹なので、<電探>で簡単に判明するという仕組みである。

その後、四つほど穴熊の巣穴を引き当てた一行だが、ついにそれらしい穴を見つける。

「うーん、いやなかんじがいっぱいするぞ! でも、おくにおおきいのもいる」

「穴熊も居るってことかな?」

「よくわかんない。こっち、このしたにいっぱいいるぞ!」

洞窟の中に入り込んだムーは、側面の壁に空いていた小さめの穴を指差す。

どうやら奥へ続く穴と、脇の小さな穴に分岐しているようだ。

小さな穴は縦穴に近く、底の方は暗闇に覆われ見通すことができない。

恐る恐るといった風で覗き込んでいた子どもだが、何度も取り外して眺めていたせいで紐が緩んでいたのだろう。

するりと腰帯から抜け落ちた虫かごが、吸い込まれるように穴へと消えた。

「くろすけー!」

大きな叫びを上げたムーは、躊躇することなくかぶと虫を追いかけて穴へと飛び込んだ。