軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤児からの依頼3

三日は何事もなく、カレンはサラと共に貴族の依頼をこなしていた。

だが、錬金工房に帰ってくると軒先にティムが膝を抱えてカレンを待っていた。

「カレン! またハラルドが倒れたんだ! おれも無償で働くから、またハラルドを助けてよ!」

「働きたいのは錬金術師になりたいからでしょうが。でも、行くよ」

「錬金術師になりたいわけじゃなくて、金が稼げるならおれはなんでもいーんだけどな」

そう言いながら、ティムが馬車に乗り込んでくる。

諦め顔のサラが溜息を吐いた。

「カレン様、行きすぎた慈善は毒となりますよ?」

「慈善というより、今はあのハラルドくんがどうして倒れたのかが気になるかな」

三日前、ハラルドが回復したあとにカレンはユッタや子どもたち、ハラルド本人に聞き取り調査をした。

その結果、本当にハラルドはみんなと同じものしか食べていないと判明した。

ティムと違って拾い食いをしそうな子にも見えなかったので、事実だろう。

「やっぱり、何かアレルギーがあるのかな。はじめて見るなぁ」

この世界では。だから、カレン自身の今後の仕事のためにも確認しておきたいのだ。

「あれるぎぃ、ですか?」

「なんだ、それ?」

サラとティムが首を傾げる。

カレンもなんと説明したものかと思いつつ口を開いた。

「みんなにとっては普通に食べられるものが食べられない人がいるんだよね。食べると体がおかしくなって、かゆくなったり、吐いたり、喉が腫れて気道が塞がって息ができなくなったりしちゃう」

「そ、そんなやつがいるのか?」

「そういう人がいる、というより、誰でもアレルギーになる可能性はあるんだよ。同じものばっかり食べてたり、食べるものを体に塗ったりするとなりやすいって言うね」

「カレン様、具体的にはどのような食べ物のことをおっしゃっていますか?」

「何でもだよ。卵とかナッツとか、小麦とかでもダメな人もいる。水がダメって人の話も聞いたことがあるよ」

「それらは毒ではありませんよね? 毒ではないのに、そんなことが……?」

サラが唖然とする。

この世界に生まれてこのかた、アレルギーらしき症状の話を聞いたことがない。

アレルギーの存在しない世界かと思っていたけれど、そもそもアレルギーの存在が認知されていないだけかもしれない。

馬車が孤児院に到着すると、ティムが馬車から駆け下りてすっ飛んで先触れに行く。

ユッタが頭を抱える姿が想像できて、カレンは苦笑した。

「ふー」

カレンは深呼吸した。アレルギーに違いないと判断するのは早計だ。

中途半端な知識しかないのだから、思い込みは避けないといけない。

カレンが気を引き締めつつ馬車から降りると、あとに続くサラが言った。

「やはりそのあれるぎぃ、というものは、魔力ランクが低いために発生するのでしょうか?」

「え? 魔力? 別に関係ないと思うけど、なんで?」

「魔力量の少ない子の方が、毒に弱いものでしょう? ですが、関係ないのでしょうか?」

サラの言葉に、カレンはぽかんとした。

「……魔力量が少ない方が、毒に弱いの?」

「はい。私はエーレルトのメイドの中でもっとも魔力量が少なかったため、毒見役として重宝されていたのです」

どこか誇らしげに言うサラに、カレンの中でいくつもの事象がつながり背筋にぞくぞくとしたものを覚えた。

「これ、やっぱりアレルギーじゃない」

「カレン様……笑っていらっしゃるのですか?」

我知らずカレンは笑っていたらしい。サラのおかげで思いついたひらめきに胸がときめいてしかたなく、うずうずとして、カレンはいてもたってもいられなくなった。

「あとから来て! 先に行くから!」

「カレン様!?」

駆け出したカレンに、サラがついていく。

医務室に駆け込んだカレンは桶に向かって吐くハラルドをしり目に、ユッタに解毒のお茶を押しつけた。

「カレン!?」

「それ使ってください! それ以上のことはまた後で!」

すぐに医務室を飛び出したカレンは、ティムを見つけて頼み事をした。

「ティム! ハラルドが食べたもの、持ってきて!」

「ただのキノコ粥だけど……」

「それ、ちょうだい! あと、空の魔石も持ってきて!」

混乱しつつも指示通りに焼きキノコと空の魔石を持ってきてくれたティムから受け取って、カレンはお手洗いに近い空き部屋に駆け込み、鞄を開いた。

「カレン様、何をなさっているのですか?」

「実験」

カレンは解毒のお茶の瓶をもう一つ取り出すと、こみ上げてくる笑いを噛み殺した。

面白いことに気づいてしまったかもしれない。

それを確かめる手段が、カレンにはある。

魔道具の燃料となって空っぽになった、半透明の魔石を手に取ると、カレンは魔力をこめはじめる。

「ポーションを分け与えるだけでなく、魔石に魔力まで補充してやるのですか?」

「わたしの方で必要だからやってるだけだよ」

カレンは次々と魔石に魔力をこめていく。

人力で魔石に魔力をこめるのは効率が悪く、日常的に使う魔道具に使うようなクズ魔石なら、新しく魔物を狩ってその心臓である魔石を手に入れる方が早い。

だが、カレンが今求めているのはその効率の悪さだった。

みるみるうちに体中の魔力が減っていくのがありがたい。

「カレン様、これ以上魔力をこめたら、魔力を使いきってしまいます。魔力がなくなればお体に差し障ります」

「差し障らないから大丈夫」

「……まるで魔力をすべて使いきったことがあるような言い方ですね」

「あるよ。最近練習してたし、結構な回数」

「カレン様!? そんな危険なことをお一人でなさったのですか!?」

「最初の一回はナタリアに見ててもらったよ」

昇格試験のときの出来事である。

カレンはサラを見やってにやりと笑った。

「魔力を使い切っても死んだりしないから、心配しないで」

「ですがカレン様……汗だくです」

「疲れるんだよねえ。これ、魔力を使った疲れなのか、魔力がなくなったことで体に負担がかかってるのか、まだよくわかんないんだよね」

サラを心配させないよう、カレンは努めて笑顔で答えた。

最近は慣れてきたせいか、魔力を使い切って疲れて果てても、気絶するということはない。

「はぁ、新しい発見をしちゃうかもってとき、なんでこんなに楽しいんだろう……」

汗をポタポタ垂らしながら魔石に魔力をこめつつ、カレンは心からの満面の笑みで言った。

体中の魔力を絞り出す。細胞のひとつぶにさえ、魔力のひとかけらも残したりしない。

魔力の最後の一滴まで魔石にこめると、カレンは魔石を置いてキノコ粥を前にスプーンを手にした。

「それじゃ、いっただきまーす」

美味しいキノコのお出汁たっぷりの粥をパクパクと食べたカレンは、しばらく待った。

やがて、思った通りに悪寒が体に走り始めて、カレンは冷や汗を流しながら満足げに溜息を吐いた。

「やっぱりそう、だ。これ、毒キノコだ……でも、この間は食べれた……体を守る魔力が多いと、毒が効かない、のね……んぐっ」

カレンは吐き気を覚えて近くのお手洗いに駆け込んだ。

「おえっ、ぐっ、気持ちわる……お腹も、痛いし、なんか口の中が変、かも」

「カレン様! 解毒のポーションをお飲みください!」

あとを追ってきたサラが解毒のお茶を差し出してくれる。

かと思ったら、サラは瓶をカレンの口に突っ込んだ。

「んぐっ!?」

「このような実験をなさるなら最初から説明してください! 心臓に悪いです!!」

気持ち悪くて吐きたいのに、サラに抑え込まれてカレンは無理やりポーションを飲まされた。

カレンは暴れていたが、やがて別の意味でお腹が痛くなってきて更に暴れた。

「私は外におりますので、何かありましたらすぐにお呼びください」

察したサラが冷たい目つきで言うと出ていく。

カレンは解毒のポーションの解毒効果をたっぷり体感すると、空き部屋に戻った。

吐き気や目眩、腹痛などは消えてはいるものの、具合は悪い。

胃が荒れたような感覚があるので、やはり傷ついた消化器は元に戻っていないのだろう。

「カレン様、回復ポーションです」

「ありがと」

回復ポーションを飲むと、やっと体が元の状態に戻ったような感覚がある。

それでも様々な疲労で体が重かった。

だが、カレンは満面の笑みで言った。

「これでわかったよ」

「何がわかったというのです?」

サラが怒った顔をして問うてくる。

大発見でなかったら叱られそうな雰囲気だった。

「わたしたちの体って、魔力がある限りそんじょそこらの毒じゃビクともしないんだってこと」

魔力を使い切ると体がペラペラの紙になったように心許ない感じがするとは思っていた。

魔力の多い人たちの体が丈夫なのも知っていた。

だが、魔力があると毒を食べても大丈夫な体なのははじめて知った。

「毒なのですか? あのキノコは……」

「そうだね。あれでポーションを作ればわたしは毒のポーションがつくれるはず」

見たことがあるような気がしていたあの赤と白い斑点のキノコ。

美味しいけれど毒がある、毒々しい見た目のキノコには前世で心当たりがある。

もしかしたら、毒白粉も、魔力に満ちた貴族の令嬢たちの体なら害にはならなかったのかもしれない。

彼女たちの体を蝕んでいたのは、別の何かだった。

だけど、ハラルドの場合はきっと違う。

「魔力が少ない子の体にとってだけ、ポーションにしなくても毒になるんだと思う」

魔力の少ない子はカレンの前世の世界の普通の人たちと同じような体なのだろう。

だから、カレンの知る毒で倒れてしまう。

まるでアレルギーのようだけれど、アレルギーとはまったく違う。

早合点しなくてよかったと、カレンは胸を撫で下ろした。

とはいえ、状況はアレルギーとよく似ている。

この孤児院で、毒はハラルドにとってだけ、毒なのだ。

「こうして考えると、アレルギーの人にアレルギーのものを食べさせるのって、毒を盛るのと同じなんだなぁ……」

前世、姉の友人が家に遊びに来たとき、その友人がナッツアレルギーだったことがある。

姉の友人はやんわりと拒否するのに押しの強い姉がナッツクッキーを無理やり食べさせようとするので、カレンは急遽姉の好物であるホットケーキを焼いて、クッキーを回収したことがある。

その時のカレンの前世は小学校の高学年くらいで、嫌がってるんだからやめなよ、くらいの気持ちだった記憶がある。

だが、今思えば姉の友人には大げさだと感じるくらい感謝され、後日こっそりキラキラと光る可愛い飴がたくさん入った缶をもらった。

姉は押しつけがましい親切心で好き嫌いをなくさせてあげようぐらいに思っていただろうが、その実は殺人未遂事件である。

「つまり、あのハラルドという少年は……」

「ユッタ先生に確認しにいこう」

カレンたちが空き部屋を出ると、ユッタが廊下の先からやってくるのと鉢合った。

孤児院の院長室に移動して問い質した結果、カレンの予想は当たっていた。