軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤児からの依頼2

カレンはあとからやってきたユッタの方を見やった。

「……わたしの手持ちのポーションに、効くかもしれないものがあります。ただ、本当に実験台にするって感じになります。逆効果になる可能性もあります。あと、お腹を下しますのでお手洗いに連れていってあげないといけません」

「本当にカレンのポーションの実験台になり、カレンの今後の発展の役に立てるのなら、ぜひポーションを使わせてほしいわ」

ユッタはカレンの言葉にむしろ肩の荷が下りたかのようにほっとした顔をした。

「カレン様、こちらでよかったでしょうか?」

「うん、お願い」

「こちらです。お使いください」

サラが鞄から解毒のお茶を取り出して、ユッタに渡した。

「このポーションは体に悪いものが入っていたら、それを体から出してくれる効果があるんです。ただ、悪いものと言ってもどこからどこまで出してくれるのかは、まだわかってません」

「かしこまりました」

「このポーションの効果的に、部外者がいるとその子が嫌だと思うので、わたしたちは談話室にいますね」

もしも体を苛む悪いものが蓄積しているのなら、下剤効果が発動する。

見知らぬカレンのような大人が側にいたら気が休まらないだろう。

「ユッタ先生、どんな様子だったかあとで聞くからちゃんと見といて、教えてくださいね」

「ええ、わかりました。ティムもカレンたちと一緒に行きなさい」

「はーい」

医務室を出ると、ティムはカレンを見上げてニカッと笑った。

「カレン、今日の晩飯はもう食った?」

「ううん、食べてないよ」

「じゃ、うちで食ってけよ! お礼におごってやるからさ!」

「お~。いいの? それじゃいただこうかなぁ」

「そっちの、サラさんだっけ? も、食う? 外の御者さんの分もいる?」

「よろしいなら私はいただきます。御者は必要ありません」

「そーか? じゃあ二人分な!」

カレンたちはありがたく孤児院の食堂に向かった。

「あー、カレンじゃん」

「Eランクの錬金術師になったけど、これからも草買う?」

「買い取るよー」

カレンの言葉に子どもたちは笑顔でハイタッチした。

なんだなんだとカレンが目を丸くしていると、子どもたちは馴れ馴れしく言った。

「最近さー、ダンジョンの薬草が少なくてさ」

「そーそー。ただでさえ低ランク冒険者の大人たちと奪い合いなのに、うちら、ほとんど採れないの。だからカレンが草を買ってくれんなら、そっちの方が金になるんだよね」

サラがずいっとカレンの顔を覗き込んで言った。

「カレン様、草とは無魔力素材のことでしょうか?」

「うん、そうだよ」

「確かに、あの素材でしたらカレン様以外の者にとってはただの雑草……競合することはありませんね」

カレンが昔、欲しいハーブを教えたら、子どもたちの間で教え合い、探しては摘んできてくれるのだ。

野菜や果物、木の実についても教えたが、こちらは孤児院で自家消費しているらしい。

「けどさ、カレン、いつならいんの? 最近家にも工房にもいないじゃん」

「ありがたいことにお仕事が忙しくてねえ」

「家に人を置いといてよ。稼いでんでしょ?」

「それがね……素材を購入したり錬金用の魔道具のための貯蓄をしなきゃいけなくて……ほとんどないんだ……」

ヘルフリートからもらったポーション代。

カレンは値切ってもなお大金だと思ったものだが、加速度的に消えていく。

錬金術師というのはお金のかかる仕事なのだ。

その時、カレンの背後から声がかかった。

「でしたら僕を雇ってください。無償で構いません」

「ハラルド! 治ったのか!」

料理を持って戻ってきたティムが歓声をあげた。

カレンの後ろに立っていたのは、先程まで医務室のベッドの上で苦しんでいた少年だった。

ハラルドと言うらしい。やつれた顔をしてはいるものの、背筋は伸びている。

カレンのポーションで一応状態は改善したらしい。

ならばやはり、体に悪いものを食べたか何かしたのだろう。

「カレン様、僕のためにポーションを使っていただいたとうかがいました。助けてくださりありがとうございます。僕を実験台にした対価としてポーションを提供してくださったとのことですが、それだけでは不十分です。どうか僕をこき使ってください。使っていただいたポーションの分、働いてお返しさせてください」

そう言って、ハラルドは深々と頭を下げた。

孤児にしては妙に整った礼儀作法に内心首を傾げつつ、カレンはヘラヘラ笑って言った。

「子どもはそんなこと気にしないでいいんだよ」

「このままではあまりに申し訳なく、身の置き所がありません」

ハラルドはぎりぎりと歯を食いしばりつつ、絞り出すような声で言った。

「恩返しのしようもなく救われた命で生きていくことが辛く、苦しいです」

ハラルドは胸をかきむしる。

あえぐような苦しげな姿に、カレンはあわあわした。

「どうか僕を助けると思って、カレン様のもとで働かせていただくことはできないでしょうか?」

「カレンのところで働けるなら、おれが働きてーんだけど!」

声をあげたティムをハラルドは睨みつけた。

「命を救われたのは君じゃなくて僕だ。君が働く意味はないだろう」

「だけど、おれもカレンのとこで働きたい! カレンのとこで働いたら、錬金術師になれるかもしれないだろ?」

ティムを睨みつけるハラルドの眼差しが殺人的に物騒になる。

それを見て、サラは冷めた目つきをして言った。

「なるほど。あわよくばカレン様のもとで錬金術を学べるからと、命を救われたことを口実にカレン様の懐にもぐりこもうとしたようですね」

サラに指摘され、ハラルドが気まずげに視線を泳がせる。

何も気づいていなかったカレンは目を丸くした。

「ハラルド、そんなことを企んでたのかよ。ずるっこいやつ」

「僕は恩返しをしようとしているだけだ!」

「まあまあ、喧嘩しないで。考えてみるからご飯食べていい?」

お腹がすいたカレンがうながすと、ティムがカレンの前にお盆を置いてくれた。

スープの中から具材を一つ拾ってカレンはティムを見た。

「なんか、やばい色のキノコが入ってるんだけど……これ食べられるの?」

「何年も食ってるけど、めっちゃ美味いよ。いつもダンジョンでおれが採ってきてるんだぜ、それ」

「それなら大丈夫かぁ」

赤色のかさに白い斑点のある、毒キノコといえばこの色という感じのキノコの入ったシチューである。

こわごわと食べてみたカレンは目を丸くした。

「ほんとだ、美味しい……旨味成分が濃厚だね」

「確かに、美味しいですね」

ティムはカレンとサラの言葉に満足げににんまりしたあと、ハラルドを見やった。

「おまえも食うか? 食うならおれが持ってきてやるよ」

「いや……」

「その子は体から悪いものを出しただけで、体は傷ついたままだから、しばらくはお腹に優しいものを食べた方がいいよ。小回復ポーションを飲めば回復するかもしれないけど――」

「負債が多くなるのであればやはりカレン様にお仕えさせてほしいです」

「うん、とりあえずは安静にしてお粥でも食べてなね」

人を雇うかどうかなんてそう簡単には決められないので、あしらっておく。

それよりカレンが気になるのは、ハラルドの体調不良の原因だった。

解毒のお茶に効果があったので何かがハラルドの体を蝕んでいたに違いない。

それが何なのかを突き止めないと、ハラルドは不安で仕方ないだろう。

カレンは首をひねりつつ、色はアレだが美味しいキノコシチューに舌鼓を打った。