軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

厚遇の一般人

「カレン、ただいま」

「わっ……おかえり、ユリウス」

出迎えに出たカレンを見つけると、ユリウスは破顔して大股で歩み寄り、カレンをきつく抱きしめた。

「会いたかったよ、カレン」

「離れていたのってほんの二週間くらいなのに、大袈裟じゃない?」

カレンはくすくすと笑って言う。

すると、ユリウスは形の良い眉をきゅっとひそめた。

「君は寂しくなかったのかい? ……君のお願いを叶えるのはやぶさかではないけれども、私は君に会えない時間が辛くてたまらなかったよ」

「わたしだって寂しかったからっ! 顔面で訴えかけてこないで!!」

ユリウスがわざとらしく顔面の美しさを強調しながらカレンを至近距離でじっと見下ろす。

以前よりカレンに耐性ができたとはいえ、未だに 顔面(これ) に弱いのが見抜かれている。

「わーお」

二人の姿に、セプルの妻である赤ちゃんを抱いたリリーが感心したように声を上げた。

ユリウスの後ろにいるのはセプル――そして、赤ん坊を腕に抱いた女性、リリー。

カレンより何歳か年上の女性で、もしかしたらユリウスとそう年が変わらないかもしれない。

引っ越しにしては少ない荷物を両腕に抱えるセプルの側で、ぽかんとした面持ちでカレンとユリウスを見つめている。

カレンはひとしきりぎゅうぎゅに抱きしめられた後、ユリウスの腕から脱出して言った。

「リリーさん、久しぶり!」

「久しぶりねえ、カレンちゃん」

十日以上の旅程を経てきた後にもかかわらず健康そうなリリーの顔色を見て、カレンはホッと息を吐く。

こうして話すのは数ヶ月ぶりだった。

しばらくリリーは錬金工房の隣のアパートで暮らしていたはずなのに、生活時間が違うのか、カレンはほとんど会えなかったのだ。

茶色い髪をポニーテールにした笑顔が明るい女性で、昔よりもふっくらしているのは子どもを出産したからだろう。

なんでもカレンが狩猟祭のためにエーレルト領に出発した直後くらいに産んだらしい。

カレンはリリーの腕に抱かれている赤ん坊を覗き込んで微笑んだ。

赤ん坊は大きな丸い目をぱちくりしている。

「おめめはお父さんに似ちゃったけど可愛いねえ」

「似ちゃったってなんだよ、おい。可愛いだろうがよ、うちのシリルはよぉ」

「そんなに可愛いのになんで産まれたことすら教えてくれなかったの? いやそもそも、出産予定日から教えてよ!」

カレンはじろりとセプルを見やった。

つまり、カレンのサポーターとして同行したせいで、セプルは出産に立ち会えなかったということである。

「リリーさん、ごめんね。出産予定日と重なるって知ってたら、セプルおじさんは王都に置いていったのに……」

気が回らなかったカレンもカレンだが、セプルがリリーについてほとんどカレンに教えてくれなかったせいでもある。

職場だって、職員が申告してくれれば気だって回せるのに。

「置いていかれても困るわ、カレンちゃん。セプルが側にいたって何にもできることなんてないんだから、ガンガン稼いでもらわないと」

リリーはびっくりした顔で言った。

価値観の違いである。

確かに冒険者街の女たちは甲斐甲斐しく側に寄りそう男よりも、妻の妊娠に奮い立ってガンガンダンジョンに潜る男を好むのが一般的である。

「わたしは出産に立ち会ってもらえないなんて嫌だけどな~」

「その時になったら男なんて使い物にならないわよ? あっ……でも、カレンちゃんの旦那は違いそうね」

と、リリーはユリウスを怖々とうかがうように見やった。

ユリウスを前にするとおかしくなる女性もいるが、幸いリリーはそういうことはなかった。

ただ、身分が違い過ぎる貴族として怖がっているらしい。

元々、カレンとしてはリリーは大丈夫だろうとは思っていた。

昔から、リリーは渋くてがっしりとした、頼りがいのある雰囲気の男を好む傾向にある。

冒険者居酒屋の店主の父親と同系統の。

それなのに、セプルの方に行ってしまったのがカレンとしては若干解せない。

そしてカレンもユリウスを見やった。

ユリウスは今聞いたばかりの何事かを忘れないようにメモしている。

「使い物になんてならなくっていいから、わたしは絶対に側にいてほしいな」

カレンは聞こえよがしに言うと、リリーの手を引いた。

「疲れてるし寒いでしょ? 早く中に入って」

「え、ええと……やっぱりあたしは町で宿をとるから……貴族のお屋敷なんてあたし……あああああ……!」

リリーは抵抗していたもののカレンに引きずられ、あえなく貴族の屋敷に足を踏み入れた。

「リリーさん、寒かったら暖炉に薪を足すから言ってね。魔道具で部屋を暖めることもできるからね。シリルくんは元気かな? この温かいゆりかごに寝させちゃおうねぇ。エーレルトの使用人の皆さんも協力してくれるから、疲れた時には赤ちゃんを預けてゆっくり休んでいいからね。エーレルト伯爵家の人はみんな親切だけど、この西館はユリウスの館だから、特にくつろいでいいからね。はいこれ、リリーさんは温かいスープを飲んで――ああっ」

リリーの上着を脱がせてハンガーにかけたり、膝掛けを運んできたり、温めた蒸しタオルを差し出して手を温めさせたりと、かいがいしく動き続けていたカレンが用意したスープをリリーに渡そうとする。

すると、セプルが横からカレンのスープを取り上げた。

セプルは自前の鑑定鏡でスープを鑑定して、苦笑した。

「ポーションじゃねえか。……カレンちゃんがこうなると思ったからリリーの情報は伏せてたんだよな」

「こうなるって何?」

「おもっくそ贔屓しまくるだろ」

セプルにジト目で睨まれてカレンはきょとんとした。

「リリーさんのことはそりゃ贔屓するけどセプルおじさんのことは贔屓しないよ?」

「あのな、リリーは普通の感性の持ち主なんだよ……」

「それがどうしたの?」

セプルは仕草でベッドの端に座るリリーを見るようにカレンに促した。

「Bランク錬金術師に贔屓されるとか……! あたし、堕落しちゃう……!!」

リリーはといえば、苦悩の表情を浮かべて震えていた。