軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者と錬金術師

「オレたち、ねーちゃんにポーションを作ってもらいにきたんだ」

そう言ってトールたちは持ってきたありとあらゆる素材をどっさり置いた。

エーレルト伯爵邸内にあたりまえのような顔をしてすでに存在するカレンの部屋で、カレンはトールたち鮮血の雷のパーティーの訪問を受け入れた。

「最速攻略を目指しているとはいえ、さすがに四十階層はこれまでとは違う備えをしなきゃだからさ。今オレたち、その準備をしてるとこなんだよ」

「す、すごい……これ、ものすごい高いやつ!! ……待ってこれ、教科書で見たことがあるんだけど……!」

「錬金術に使えそうな素材は全部待ってきた。これまでに色んなダンジョンで集めてきた素材を全部な。オレは錬金術に詳しくないけど、領都ダンジョンの三十階層攻略時に手に入った素材の方がレア度が高いだろうから、それは分けてる」

カレンはトールたちが持ってきた素材を前に茫然とした。

「……お金を出しても買えないような素材ばっかりじゃん。わたし、この素材を扱えるだけの知識も技術も、まだないよ?」

ユルヤナから習ったポーションはいくつかあるが、カレンが手に入る素材の範囲内だ。

トールが持ち込んだ素材はこれまでの冒険で溜め込んできたものだろう。

特にダンジョンに二十一階層から三十階層までで入手できる素材というのはものすごく高価で、いくらお金を支払っても手に入れるのは難しいものばかりだ。

何故なら、その階層まで下りられる人間の方が少ないからだ。

「知ってる。だからこういう素材を使って作れる、 普通のポーション(・・・・・・・・) でオレたちに必要そうなやつは、もう他の錬金術師に依頼してる」

「普通って……たとえばこのドライアドの花の蜜とか、これを使って作るポーションって、大体Aランク錬金術師とか、Sランク錬金術師に依頼して作ってもらうポーションじゃん」

鑑定結果の添えられた瓶詰めの稀少素材をこわごわ触るカレンに、トールは肩を竦めた。

「普通だろ? 魔物を倒せばたまにだけどドロップすることもある」

「普通の定義、それなんだ……」

「そういうポーションならどれだけ高くても、正直オレたちなら手に入れられる」

「さすがは高ランク冒険者様すぎる」

「だけど、ねーちゃんのポーションはどれだけ金を積んでも他じゃ手に入らない」

確かにダンジョンでドロップするかと問われれば、カレンのポーションは絶対にドロップしない気がした。

もしかしたらこの世のどこかではドロップするのかもしれない。

だが、Sランク錬金術師のユルヤナでさえ、カレンの作るポーションを物珍しがった。

ということは、それぐらいの珍しさではあるのだ。

「ってわけで、頼んだぜ、ねーちゃん!」

そう言って潔く立ち去ろうとしたトールを、カレンは慌てて引き留めた。

「待って。さすがに情報が少なすぎる!」

「王都ダンジョンのことなら、ねーちゃんだって知ってるだろ?」

「王都暮らしなりにはね。だけど冒険者ほどにはわかってないよ」

全幅の信頼を遮って、カレンは言った。

「確かに王都の三十一階層から四十階層のこと、聞いたことはあるよ。潜ったことある人がほとんどいないからこそ、わたしが知ってる知識って、ほとんど冒険者と変わらないとも思う」

「そっか。ねーちゃんの知識ってそれくらいなのか」

「確か、王都ダンジョンの三十一階層からは雪山を登ることになる、って聞いたことがある。その後にどこかの階層で洞窟に入って、洞窟を抜けたら四十階層の妖精郷だよね?」

海で失踪した浦島太郎が行くのは竜宮城で、ダンジョンで失踪した冒険者が行くのは妖精郷だ。

帰ってこないのはそこが常若の国だからで、時間も忘れるほど楽しい暮らしをしているからだ、という考え方はどちらも同じだ。

つまり、一般の人間にとって四十階層の妖精郷というのはそれほどおとぎ話のような存在なのである。

トールはうなずいた。

「ざっくり言うとそんな感じだな」

「Aランク冒険者になったトールたちにしか閲覧できない情報っていうのがあるはずでしょ。その情報があるから欲しいポーションっていうのも絶対あるはず。わたしがどこまでその情報を聞いていいのかわかんないけど、できる限りでいいから教えて」

「俺が各階層の特徴を帳面にまとめてるんで、後でカレンさんに渡しておく」

「さっすがクリス! 几帳面だな~」

使いっ走りを自称する上、書記的な仕事も勤めているらしい。

見た目だけならトールよりもクリスの方がリーダーっぽいのにトールと上手くやれているようのも不思議である。

「わたしが知ってもいい情報ですか?」

「オレたちがオレたちの責任において、問題ないと判断して教える分には大丈夫なヤツ」

「情報漏洩したら、この情報の提供者から私たちが責任を追及されるわね」

「重要機密じゃないですか!」

ワンダの言葉にカレンが震えると、トールは軽い口調で言った。

「別に、すぐにオレたちが実際に目の当たりにする予定の情報だし。万が一ねーちゃんが情報漏洩しちまっても、オレたちから出た情報についてはオレたちが咎めない限り、罪にはならないから安心していいぜ!」

「そういうものなの……?」

「そういうものだよ、カレンさん。僕たちAランク冒険者が果たした英雄譚を、僕たち本人が語るのを、一体誰が止められるっていうんだい? 女の子を口説く度に罪に問われてたら大変だろ?」

「ルイス、口外していいことと悪いことの区別は付けるんじゃぞ」

オードがジト目でルイスを見やって言う。

「前にルイスがハニートラップにかけられて、情報を漏らした時は他のパーティーに先手を取られて最悪だったわよね~」

「ちょっ! カレンさんの前で言わなくてもよくない??」

賑やかな面々を見渡して、カレンは微笑んだ。

「わたし、トールたちが本当に求めてるものがきっとわかってない。だから……全部教えてほしい。鮮血の雷のみんなに合わせたポーションを作りたいから」

カレンの問いに目を丸くしたトールは、やがて言った。

「……こういう質問、他の錬金術師にはこれまでされたことないな」

「うっ。ごめんね! わたし、急成長中の錬金術師だからさ……! 何も聞かずとも的確なポーションを作れるだけの技量は、まだなくて……!!」

「ねーちゃん、そういう意味じゃなくて」

苦しみ出したカレンを、トールは冷静に留めた。

「オレは冒険者だけど、冒険に役立つどんなポーションがあるかってのは、もしかしたらねーちゃんより知ってるかもしれない。だから必要なポーションがあれば、それを注文するだけなんだよな。誰もがねーちゃんみたいにオレたちの望みに合わせて新しいポーションを生み出してくれるわけじゃないからさ。……でも、ねーちゃんにはそれができるんだよなぁ」

トールはひとしきり感心すると、がばりと頭を下げた。

「ありがとう、ねーちゃん」

顔を上げると真剣な目つきをして言った。

「錬金術師カレンに、オレたちの冒険の話を聞いてほしい」

カレンはうなずくと、トールたちの話を聞き取った。

そして、カレンは聞きながら気づいた。

これまで、トールは冒険話をかなりはしょっていたのだ。

恐らくはカレンを心配させないため。

冒険の綺麗で面白くて楽しい部分ばかりを話していたのだろう。

薄々勘づいてはいたものの、実際に聞かされると姉として一言言ってやりたくなるようなエピソードがわらわら出てきた。

だが、カレンは何も言わずに聞き取り続けた。

錬金術師のカレンに王都ダンジョン四十階層に挑むためのポーションを依頼する冒険者トールが一切を誤魔化さなかったから――錬金術師カレンは依頼人のために作れるポーションを模索しながら、静かに耳を傾け続けた。

「あのさあ」

エーレルト伯爵邸を出ると、トールは誰にともなく声を出す。

「ねーちゃんのポーションの箔付けにでもなればと思ってスポンサーを頼んだけど……逆にオレたちって、すげースポンサーについてもらっちゃったのかもな」

「今更気づいたの? リーダー」

ワンダが呆れた顔をした。

「はあ? おまえらにはわかってたって言うのかよ!」

「いやもう……万能薬の時点でさぁ。僕でも口説くのを躊躇うレベル」

「家族とは近すぎるからの。その偉大さが中々身に染みてはわからんのも、わかる」

「姉弟そろって規格外だから、普通がわからなくなっちまったんだなあ。ハハハ……」

苦笑するクリスを見て、トールはみるみるうちに顔を赤くして頭を抱えた。

「オレッ、ねーちゃんをスポンサーにしておいて、それを婚約祝いとか言っちゃったんだが!?」

「Aランク冒険者もそれなりにすごいから大丈夫よ。きっと」

ワンダに雑に慰められつつ。

トールは百面相をしながらも、冒険のための次なる準備に動き続けた。