軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

共通項

「カレン様のご希望の通り、午前には勉強を、昼食を挟み、午後には仕事をさせています。食事は三食、五の鐘には仕事を終え、六の鐘には就寝させています」

「朝は何時に?」

「一の鐘から半刻後に子どもたちを起床させ、朝食を食べさせた後、しばらく休憩をさせ二の鐘から勉強の時間です」

今、カレンは子どもたちの普段の様子を視察していた。

カレンについて案内をしてくれるのは子どもたちの監督者であるハラルドと、間借りしているエーレルト伯爵家別邸の管理をしてくれているサラである。

今は午後の時間で、子どもたちは仕事をしている。

広間にあった高価な家具を片付けてもらい、子ども用の椅子と長机を運び入れてある。

子どもたち――主に女の子たちが並んで長机に向かい、サシェの袋作りをしていた。

「裁縫が苦手だという子には別の仕事をさせています。カレン様の指示通り、できる限り各々の得手不得手に合った仕事を割り振るべく努めています」

昼の陽射しが降りそそぐ温かいサロンの中で仕事をする子どもたちは、少なくとも飢えても寒さに震えてもいない。

「これでいいのかなぁ……」

「カレン様のご懸念通り、子どもたちに対して少々甘すぎるかと」

カレンの零した迷いに、ハラルドが即座に同意を示す。

しかし、サラがピョコリと身を乗り出して言う。

「ハラルド、カレン様はどちらかというと、逆の意味でおっしゃっていると思いますよ」

サラの訂正に、ハラルドはぎょっとした顔つきになった。

「え……? まさか……まだ何かが足りないと……?」

「だって、お休みがないじゃん? 毎日働きづめなんて嫌になっちゃわない?」

「サラさん、甘かったのは僕のようです……」

天を仰ぐハラルドの肩をサラがポンと叩いて通じ合う。

蚊帳の外に置かれたカレンは唇を尖らせた。

「断言しますが、すべての子どもたちにとってすでに夢のような境遇ですよ。カレン様に感謝を示さない子どもがいるのが不快なほどです」

そう言って、ハラルドはサシェの袋作りをしている子どもたちをじろりと見渡した。

子どもたちが緊張するのが雰囲気でわかり、カレンはハラルドを連れてそそくさと部屋を出ていった。

カレンのざっくりとした希望を、子どもたちを預かったハラルドは完璧に再現してくれていた。

……若干、節々に、カレンへの強い思い入れが滲むのが不安なところだけれども。

やはり息子なのか? と微妙な表情を浮かべるカレンの代わりに、サラが言う。

「あの子たちはこれまでとの待遇の差に逆に警戒しているのでしょう。自分たちの価値を理解しているからこそ、好待遇の裏の意味を考えずにはいられないのです。無理からぬことと思いますよ、カレン様」

「サラはこう言ってるよ、ハラルド?」

「サラさんの仰る通り、そういう側面があることは否定しません。ですがカレン様に感謝すべきです。そう思いませんか?」

「私も結論としては同意いたします」

「結局二人は同意に至っちゃうんだ」

新年祭を終え、ヘルフリートやアリーセ、ジークは王都に戻った。

カレンも一度王都に戻ったが、荷物をまとめてユリウスと共に再びエーレルト領都にやってきていた。

その間、サラは連絡役としてずっとエーレルト領都に残ってくれていた。

急にエーレルト領都の伯爵邸に置き去りにされたハラルドにとっては、顔見知りのサラがいてくれてとても心強かったろう。

どことなく、二人は以前より仲良くなったように見えた。

「当然、子どもたちは皆、助けてくださったカレン様に感謝すべきです。実際、深い感謝の念を抱いている子がほとんどでしょう。……ですが心の奥底にある不安というのは中々消えるものではありません。いずれカレン様の人柄と時間がこの問題を解決するでしょう」

サラは予言者のように厳かに言う。

カレンははっと察した。

「確か、サラは前にジークに助けられたって言ってたよね?」

「はい。ジーク様が路頭に迷う私を拾ってくださいました。私を拾い、助け、側に置きたいと言ってくださったのです。当初ご当主様と奥方様は当然のことながら、どこの者ともしれぬ私を遠ざけようとしましたが……」

あの二人が? とカレンはヘルフリートとアリーセを思い浮かべて一瞬疑問を抱いた。

カレンは結構ナタリアに人が良すぎると怒られることがあるが、そんなカレンをしてお人好しすぎると心配になる二人である。

だが、確かに普通は子どもが子どもを拾ってきても、自分たちで保護しようとはならないだろう。

どうしてサラは路頭に迷っていたのだろう、とカレンはこれまでにも何度か抱いた疑問を思う。

サラは前に過去のことをカレンに話してくれた。

だが、それはジークと出会った後の話で、それ以前の話を聞いたことがない。

話さないということは話したくないということなのだろうと、カレンも特に聞かなかった。

だが、予想が付かないわけではない。

少なくともサラには親が、保護者がいないということだ。

だからここに集まった子どもたちの気持ちがわかるだろう――だから、サラなら子どもたちの世話を任せられると思ったのもある。

「ちょうどその頃ジーク様が血筋の祝福に倒れられ、お二方はジーク様の願いを何でも聞いて差し上げたいというお気持ちになったようです。ジーク様のご希望で私はメイドとして雇われ、お仕えすることが許されました。当然私は深い感謝の念を抱いていましたが、エーレルト伯爵家の人々を心から信じその感情を素直に表せるようになったのは後々のことですから」

「そのような地位からエーレルト伯爵家の後継者の側近に至るとは、並大抵の努力ではなかったでしょうね」

ハラルドはしみじみと言う。

サラが語らない過去について、ハラルドもあえてほじくり返そうというつもりはないのだろう。

あるいは本気で興味がないだけかもしれない。

「確かに、昔は雑用が主な仕事で、ジーク様のお側近くにお仕えできるようになったのは後のことですね」

「そのお話、興味あります。是非詳しくお伺いしたい……よりどころのない身の上でありながら主人の最側近に至るまでの、栄光の道筋を」

ハラルドが謎の食いつき方をすると、サラはくすりと微笑んだ。

「簡単なことです。ジーク様のお毒味を率先して引き受けたのです。つまり、もっとも危険性の高い仕事を引き受ければよいのです。ジーク様が倒れたことを好機と見て、エーレルト伯爵家の次期当主を消そうと動いた者たちの毒に何度か倒れた後、私は信頼を勝ち取りました」

「なるほど。もっとも危険性の高い仕事、ですね。大変参考になります」

サラの痛ましい過去を哀れむでもなく、ハラルドは自分の人生に意欲的に取り入れる姿勢である。

ハラルドのかなり異様な反応に、サラはきょとんとした後、コロコロと笑っていた。