軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

墓参り

「――おまえがここに来るとは珍しいな」

「ライオス」

王都アースフィル。

その片隅にある平民用の共同墓地で、カレンとユリウスは偶然、出ていこうとしたライオスと遭遇し、カレンは目を丸くした。

エーレルト領の領主の一人となったカレンだが、今はまだその領土は半ば森の中である。

そこで、ヘルフリートが人を出して開拓し、屋敷を用意してくれることとなった。

子どもたちをハラルドとオフィーリアに預け、カレンはユリウスと共にアースフィル王国王都に帰ってきていた。

すべての準備のために――そして、墓参りのために。

その瞬間、ユリウスはカレンを抱き寄せた。

ほとんどカレンを後ろから抱きこむようにして、ユリウスはライオスを睨みつける。

これまで笑顔で敵意を隠してきたユリウスの、ライオスへの敵意を隠さなくなった姿にライオスは思いきり微妙な顔になる。

「俺はその女とそのような目で見られるような関係であったことは金輪際ないので勘弁していただきたいのだが」

「ライオスこそ、なんでこんな微妙な時期に墓地にいるの?」

この国では、平民の墓参りと言えば年末と決まっている。

無論、それ以外の日でも墓参りはするものの、前世で言うところのお盆のような時期が年末なのだ。

「おまえはその格好のまま会話を続けるのか……まあいいが。年末は騎士団の仕事で各領地へダンジョン攻略に駆り出されるのは知っているだろう? 今年は特に忙しくてな、やっと俺の職務が終わって帰ってきたところだ」

今年は各地でダンジョンが崩壊した。

その崩壊を領地の騎士や冒険者だけで押さえ込める領地ばかりではなかっただろう。

だから、王国騎士団は確かに忙しかったに違いない。

「そっか。お疲れ様。ライオスは……フリーダさんのお墓参り?」

「ああ。ついでにおまえの父親のな」

「え?」

「――おまえは知らなかっただろうが、これまではおまえの代わりに母がおまえの父親の墓の世話をしていたんだ。別に、礼をしてほしくて言っているわけではないから気にする必要はないがな」

そう言うと、ライオスはとっとと去っていく。

カレンはぽかんとして、長らく訪れていなかった自分の父親の墓に向かった。

場所を覚えていないかもしれないと思っていた。

だが、大して迷うこともなく辿り着いてしまったその墓地は、確かに父親が亡くなって以来カレンが一度も訪れたことがなかったにもかかわらず、綺麗だった。

そして、花まで供えられている。

この世界の典型的なお供え用の花の花束である。

あまりにきちんとしていた。

こんなものを用意して、墓場まで掃除していくだなんて、まるで立派な社会人のようである。

これをライオスが用意したのがあまりに意外で、カレンはぽかんとそれを見下ろしていた。

カレンなんて花も持ってきていなかった。

ユリウスは持ってきているけれども。

「……カレン?」

ユリウスが気遣わしげに声をかける。

カレンはハッとして、しどろもどろに事情を説明した。

「あ、うん。えっと……わたし、お父さんのお墓にお参りしにきたこと、なくて」

「もしかして、辛かったのかい? であればそうと言ってくれれば、父君への挨拶は延期してもよかったのだよ? 私だけで来ても――」

「ううん、そうじゃなくて――えっと」

なんと言えばいいのか、カレンはとっさに言葉が見つからなかった。

ユリウスを見上げてカレンが言葉を探していると、背後から「あ!」と大きな上がった。

「ねーちゃんがお参りするなんて珍しいじゃん!」

「それ、ライオスにも言われた」

「げえっ」

やってきたのはトールだった。

トールもまた、カレンたちと共にエーレルトから王都に帰還してきたのだ。

「うわ、トールもお花持ってきてる……ライオスも持ってきてたのに……わたしだけ大人としてヤバいのでは……」

「私が持ってきているから、私と連名ということではないのかい?」

ユリウスはそう言ってくれるものの、カレンはそんなつもりは毛頭なかったので社会人としてライオスに非常識さで負けた自分自身にダメージを受けていた。

そんなカレンにトールは肩をすくめて言う。

「ねーちゃんは親父が死んだって思ってないんだから、持ってこねーよな」

「死んだと思っていない? もしかして父君は生きていらっしゃるのかい?」

「いや! えーっと……」

「親父がダンジョンで消えたっきり死体はおろか荷物の一つも見つからないから、もしかしたら生きてるんじゃないかってねーちゃんはずーっと信じてるんだよ。いや、フツーは死んでるって判断される状況なんだけどさ」

「そう、そうなの。ふつーは死んでるって言われる状況で」

だけどカレンは父親が生きているような気がしていた。

単なる勘違いであることは、カレンもよくわかっていた。

ただ父親失踪の知らせを受けた頃、カレンはそう信じることでその状況を乗りこえたのだ。

そのまま、信じ続けて今に至る。

だが普通の人が傍目から見れば、カレンがしているのは――そう。

「これはその、妄想、的な――」

「ねーちゃんは親父が生きてる可能性があるって信じてるんだから、妄想とか言うなよ」

トールはそう言ってカレンとユリウスの間にわざわざ割って入ると、墓石に花を供えて言った。

「エーレルトのヒンメル領に所属を移すとは言ったけどさ、その前にオレは王都ダンジョンの四十階層を攻略するから。攻略したらヒンメル領に本格的に移動するから、それまでに冒険者ギルドの設立をしておいてくれ」

「四十階層を攻略したらほとんどSランクも目前だね」

「まだAランクへの昇級も審査中だけどな」

「時間の問題でしょ? 姉として鼻が高いよ」

「領地持ち貴族になった姉を持つ弟ほどじゃないだろ?」

「仲のいい姉弟だね」

褒めたたえ合うカレンとトールに割り込まれたユリウスがしょんぼりしながら言う。

カレンはユリウスにぎゅっと寄り添いつつ、呟いた。

「四十階層といえば、妖精郷かぁ」

もう、そのあたりの階層の話はカレンが冒険者街で出会える冒険者から聞くことはできない。

カレンが知る四十階層の知識は、アースフィル王国の建国神話に出てくる情報くらいである。

四十階層、妖精郷。

それは、ペガサスがいると言われる階層である。

「……もしも親父が生きてるとしたら、四十階層の妖精郷に迷いこんでいる以外ないからな。四十階層を攻略しても見つからなかったら、ねーちゃんももう諦めろよ」

「エッ!? まさか、トールが攻略を急いでるのって、お父さんを探すため――!?」

「冒険者なら誰だって最速でのダンジョン攻略を目指すものだろ? つかオレは、親父はもう死んでるだろって思ってるし」

だけど、関係はあるのかもしれない。

カレンは愕然とトールを見上げた。

「まさか、トールはわたしのために冒険者になったの? わたしに、お父さんのことを諦めさせるために――」

自分のせいで弟に危険な道を歩ませたのだろうか。

カレンの問いに、トールは即答した。

「いや、普通にガキの頃から冒険者になると思って生きてきたし、普通にダンジョン攻略は楽しいからやってる」

「たのしいから」

カレンはつい復唱した。

「うん、マジで楽しくて魔物をぶっ殺しまくってる」

「あ、うん。そういえばそーだね。冒険者街で生まれ育った男たち、大体みんなそんな感じだもんね」

カレンはうっかり忘れていた大前提を思い出してほっとした。

「こういう場所で生まれ育ったカレンだからこそ、私を受け入れてくれる懐の深さを持ち合わせているのだね。冒険者街に、カレンを育んでくれた父君に、弟のトールくんやその他のすべてに深い感謝を。私とカレンは婚約しました。やがて結婚もするでしょう。どうか、温かい目で見守ってくださいね、父君」

「なんかコイツムカつかね? 親父」

ユリウスが墓石に向かって感謝の祈りを捧げると、トールが墓石に向かって同意を求める。

カレンはいまだにそこに父親が眠っているとは思っていないものの、おかしくて気づいたら涙が出るほど笑っていた。