軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一年ぶりの市場デート2

「あ、好きな味……雪ウサギかな。はい、あーん」

ユリウスはカレンに当たり前のように串焼き肉を差し出されて目を丸くしたものの、素直にぱくりと一口食べた。

「あっ、あれも食べたい。あのサンドイッチ!」

「では、手を離そうか?」

「手は離さない」

カレンはぎゅっとユリウスの手を掴んで指を厳重に絡めた。

今年はたとえ手がどれほど汗ばんでも離すつもりはない。

カレン、不退転の決意である。

「わたしが串焼き肉を持ってて手が塞がっているなら、サンドイッチはユリウスが持てばいいでしょ?」

「確かに、私の片手は空いているね」

ユリウスが空いた片手でサンドイッチを購入する。

露店のお姉さんは繋ぎっぱなしのカレンたちの手を見て「あらあら」と笑いながら渡してくれる。

ユリウスは財布をしまってサンドイッチを受け取ると、まずカレンの口許にサンドイッチを運んだ。

「はい、カレン」

「あーん」

カレンが喜んでかぶりつくと、塩辛い魚と濃厚なチーズの味が口に広がった。

パンを焼いたばかりなのか、あるいはサンドイッチを焼いているのかほのかに温かくチーズもとろけていた。

「むむ、美味しい」

「そうだね」

ユリウスもカレンの食べかけを食べて舌鼓を打った。

屋台には他にもたくさんの美味しそうな料理が並んでいる。

次はどれをユリウスと半分こにしよう、と勝手に思いながらカレンはユリウスと共に歩いていく。

雪はあちこちにうずたかく積もっているし、道行く人は寒そうにしていた。

だが、魔力量が増えたからか、ユリウスと手を繋いでいるからか、カレンは全然寒さを感じなかった。

不思議なことは他にもあった。

去年はそこかしこから籠絡だのなんだのと聞こえてきた。

前より耳がよくなったのに、何故かそういう声もほとんど聞こえてこない。

「……そもそも、ユリウスに気づいてない?」

「うん?」

口に食べ物が入っている時にはしゃべらない、お行儀のいいユリウスがもぐもぐしながら首を傾げる。

その仕草は成人男性のくせに可愛らしくて、口許には片手で食べたせいか食べかすがついていて、以前のカレンが感じていたような理想の結婚相手としてのカリスマ的なオーラはなかった。

カレンは笑いながらユリウスの口許を指で拭い、『だからかぁ』と勝手に納得した。

腹ごしらえを終えたら露店の小物屋をひやかして、広場でやっている人形劇を見たり、楽士の音楽に合わせて踊ったりした。

この時ばかりはユリウスの方がカレンが離れて他の男と踊らないよう、がっちりと手を掴んでいた。

楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

カレンとユリウスはカップルたちのたまり場に辿り着いた。

市場外れの広場だ。

活気があり明るい市場とは違って暗い広場で、いくつかのベンチが置かれている休憩所だった。

カレンとユリウスは自然と寄り添い合うようにベンチに座った。

「ヘルフリート兄上と義姉上も、結婚前にこうして新年祭市場を回ったという」

「そうなの!? 意外~」

カレンが、特にヘルフリートが、と心の中で思ったのを見透かしたようにユリウスは追加情報を付け加えた。

「義姉上が望んだことだったらしい」

「それならあのヘルフリート様もデートしちゃうか」

「おや、お兄様、とは呼ばないのかい?」

「あっ忘れてた」

カレンはヘルフリートを兄と呼ぶことになった数奇な運命をひとしきり笑った後、空を見上げた。

明かりから離れて見上げる冬のエーレルトの暗い空には輝く星がいくつも輝いている。

ダンジョンの中から見上げた時に見た星空とよく似ている。

――もしかしたら、同じなのかもしれない。

「私はずっと恐ろしかったんだ」

カレンは目を丸くした。

ユリウスの恐れが意外だったからじゃない。

カレンはもう、ずっと前からそれを知っていた気がする。

だが、問題は、ユリウスがこれほどひらけた場所でその言葉を口にしたことだった。

「長年、期待される姿を演じ続けていたように思う。父が死に、父より強くなり、ダンジョン二十階層を攻略する力を身につけた後すらも、誰かの期待を裏切ればあの森の端ダンジョンに捨てられるのではないかと心のどこかで恐れていた。もう誰も、私にそのようなことは強制できないのに――少なくとも、エーレルトの者ならばね」

カレンは一応、周囲の気配を探った。

誰かが聞いていたとしてもカレンには察知できなかった。

ユリウスが話したということは聞き耳を立てている人はいないということなのか。

――あるいは、もうユリウスが露見も、何もかもを恐れなくなったためか。

「前に進む君の姿が、ずっと動けずにいた私にはとても目映くて、美しくて……君について行きたくなり、いつしか誰よりも側にいたくなってしまった。君の側にいるためならばと、動けるようにすらなれてしまったら――今度はその動ける体で、ずっと君の側にいたいと願うようになった」

「だからわたし、賢者の石を作りたいの」

カレンはユリウスをまっすぐに見上げて言った。

「わたしは前に進み続けたいから。ユリウスはそんなわたしを好きでいてくれるから。そんなわたしと一緒にいたいと、ユリウスが思ってくれるから。わたしは、そんなユリウスの願いも叶えたいから。それに――」

言葉を一度句切ると、カレンはユリウスを見つめて言った。

「わたしがユリウスと一緒にいたいから」

錬金術への渇望とユリウスへの想い。

これまで相反しているはずだった、どちらかがどちらかの妨げになるはずだった二つの望み。

二色の炎のようにカレンの瞳の中で二つの望みが入り交じるの。

それを見下ろし、ユリウスはこらえきれない笑みを零した。

「――好きだよ。カレン、君を愛している」

ユリウスが言い終わらないうちにカレンがユリウスの首に腕を回す。

どこか遠くを見据えながらも同時にユリウスに焦点の合ったカレンの眼差し。

喜び顔をほころばせながら、ユリウスはカレンの口づけを受け入れるために目を閉じた。