軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祝福の日2

「我らがエーレルト領内領地の男爵の弟だ、もう余所者ではなかろう!」

カレンの視線に気づいたアルバンがうなずいてみせる。

続くように、アルバンの部下である騎士たちが援護の声をあげる。

「そう、カレン殿がブラックドラゴン討伐パーティーの参加者であることが信じがたくとも、三十階層を攻略したAランク相当の力を持った冒険者の実の姉であることは明確な事実!」

「エーレルトはAランク冒険者を手に入れたも同然だろう」

「デュラハンを狩りたければまずは眷属馬を射よ、とも言う。カレン殿に爵位を与えた伯爵閣下の意図を察するべきだろう!」

貴族たちは、リヒトか、あるいはユリウスが爵位を受け取っていれば納得できたのだろう。

カレンだから納得しづらい。

カレンを実力のある錬金術師だと認めてくれている貴族でさえ、きっと納得しづらい事柄なのだ。

戦った者、強い者が評価されることが普通の世界で、カレンは戦えない錬金術師だ。

そんな貴族たちにカレンの存在を受け入れさせようと、トールが無造作にダシにされていく。

「えっとぉ……」

カレンはどんどん困惑顔になっていく。

アルバンたちが庇ってくれるのはありがたいものの、トールにも立場というものがある。

流石にこれは、とカレンが止めに入ろうとする前に、中央階段の上、ヘルフリートの前まで上ってきたトールは会場が振り返って言った。

「そう勝手なことを言われても困るぜ」

トールが冷ややかに言う。

声を荒げたわけでもないのに不思議とよく通る声に、それはそうだよね、とカレンは苦笑した。

トールの言葉に敬語はない。

以前、王都のエーレルト伯爵家で顔合わせをしていた時にはヘルフリートたち相手に使っていたのに――もうその必要がないからだ。

「オレたちは、手続きさえ終わればAランクになる冒険者だ。ねーちゃんがエーレルト領の貴族になったからといって、オレはエーレルトのものにはならない」

Aランク冒険者は、もう貴族にへりくだる必要がない。

トールは会場をひたりと見渡してその場の人々の口をつぐませたあと、ヘルフリートに向き直った。

「伯爵様、オレたちに三十階層攻略の褒賞を何かくれようっていうのなら、その褒賞をオレのほしいものに変更してもらうことはできるか?」

「――ものによるが、君たちの功績に報いるために善処しよう」

ヘルフリートがごくりと息を呑む。

トールは淡々と願いを口にした。

「じゃ、ねーちゃんの領地に冒険者ギルドを誘致してくんね?」

「誘致?」

「出張所じゃなくて、冒険者ギルドの支部な。出張所じゃ所属できないからさ。冒険者ギルドの支部を誘致できるように、ねーちゃんの領地に支援も頼むぜ」

「……所属?」

怪訝な顔をしていたヘルフリートの目が、じわじわと驚きに見開かれていく。

そんなヘルフリートに、トールはにやりと笑ってうなずいた。

「ああ。ねーちゃんの領地に冒険者ギルドができたら、オレ、そっちに所属を移したいからさ!」

一瞬の沈黙。

その後、大騒ぎになった。

「エーレルトが! 本当にAランク冒険者を手に入れたぞ!!」

今度こそ、冒険者も貴族も沸き上がっている。

領地の冒険者ギルド支部に所属しているからといって、その冒険者を意のままにできるわけではない。

だが依頼は確実にしやすくなる。冒険者も、所属するギルドの領主の意向を完全に無視はしないものだ。

むしろ、無視するような関係性なら余所へ行く。

高ランク冒険者に所属してもらえるだけで、その領地にとっては箔付けにもなる。

何より、高名な冒険者が所属するギルドには冒険者が集まってくる。

そのため、その領地のダンジョンは自然と安定し、人が暮らしやすい場所になるのだ。

「おまえら! 違うって言ってんだろーがよ! オレは! あくまでねーちゃんに属するだけだっつーの!!」

トールは沸いているエーレルト民を睨みつけたあと、カレンに向かってにやりと笑った。

カレンに箔を付けるためにアルバンたちの話に乗ってくれたのだ。

エーレルトではなくカレンに属するのだと強調することで、カレンが受け入れてもらいやすくなるように。

「それが君たち鮮血の雷の望みというのなら私としては願ってもないが、君たちはそれでいいのか?」

確認するヘルフリートに鮮血の雷のメンバーも示し合わせたようにうなずいた。

「よかろう。エーレルト伯爵として君たちの望みを叶えるために全力を尽くそう」

再び歓声があがる。

トール目当てにしろ、何にしろ、一旦カレンは受け入れてもらえたのだ。

この場にいる、すべての人に――。

そう感じた瞬間、カレンの足から力が抜けていった。

「カレン、大丈夫かい?」

倒れかけたカレンをユリウスは難なく受け止めて問う。

カレンはこくりとうなずいた。

「わたし、緊張してたみたい……何を言われても大丈夫だって思ってたけど……」

全員に認められるわけがない。

カレンは平民。元の魔力量はDランク。

エーレルトの人々がカレンの存在を知った時、カレンの錬金術師ランクはEランクだった。

しかも、カレン自身は一太刀の傷も負わせていない魔物の討伐に参加していたというだけの理由で爵位と領地をもらってしまった。

納得できない人がいることを、理不尽とさえ思わなかった。

だけどカレンにだって望みはあった。

「ユリウスとの特別な日が……みんなに、祝福されてほしかった……!」

カレンが目から涙を溢れさせると、ユリウスを見上げて泣きっ面で笑った。

「こんなにたくさんの人に祝福されて、よかった……っ! よかったね、ユリウス……!」

涙ながらに笑うカレンに、ユリウスはしばし茫然とした後、うなずいた。

「……ああ、そうだね。本当に、本当、に――……!」

ボロっ、とユリウスの金の目からも涙がこぼれ落ちた。

自身の涙に困惑の表情を浮かべて隠そうと動いたユリウスに気づいたカレンが、ユリウスの涙を隠してあげるためにユリウスの両頬を手で覆う。

すると目に涙を光らていても美しいユリウスの顔が近づいてきて、意図とは違ったもののカレンは微笑んで目を閉じた。

ご婦人方の興味深げな眼差しが突き刺さり、令嬢たちの黄色い声が飛び、冒険者たちの冷やかしが投げつけられる。

理由は何にせよ、今目の前にあるのは混じりけなしの祝福だった。