軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祝福の日

「そして、ユリウス・エーレルトとカレン・ ヒンメル(・・・・) の婚約を発表する」

ヘルフリートがカレンとユリウスの婚約を発表した時には、もうすでにトールがカレンの授爵で大盛り上がり中だった。

それに釣られるように冒険者たちは酒を飲み始めていたので、婚約への反応は賑わいにまぎれていく。

貴族だけのパーティーとは違って冒険者たち平民も入り交じる新年祭はこういうところがあって、カレンとしてはとてもとっつきやすい。

漏れ聞こえる限り、冒険者からはおおむね好評だった。

彼らは一年前にはカレンの気持ちを知っているので、「やっとかよ」ぐらいの反応である

貴族にも「今宵のエーレルトは様々なものを手に入れた」と喜ぶ人はいた。

だが、一部の貴族男性は盛り下がっている。

目くじら立てるほどの人数ではないけれど、聞こえるだけにカレンは気になってしまう。

婚約に関してではなかった。婚約についてはもう、男性貴族たちは「やっと籠絡が終わったのか」くらいの薄い反応である。

カレンとしてはもう少し食いついてほしいくらいだ。

「……ユリウス様か、ゼンケル卿であれば納得できたのだがな」

彼らが引っかかっているのは、カレンが領地と爵位を手に入れたことだ。

ユリウスは身を屈めてカレンの耳元でささやいた。

「カレン、黙らせてこようか?」

「陰で文句を言うくらいさせてあげよ? 表立って喧嘩を売ってきたら買うけどね!」

カレンはユリウスに余裕の笑顔を返しておく。

貴族にとって、ダンジョンを攻略して領地と爵位を手に入れることは本懐である。

それを、本当にブラックドラゴンの討伐メンバーなのか怪しいカレンが横からかっさらっていったのだ。

ぶつくさ言うくらい許してあげてもいいだろう。

それに、カレンは婚約発表への密やかな反応で満足していた。

「ユリウス様が籠絡したというより、あれは……」

「意外だわねえ」

貴族のご婦人方が意味深に頷き合うのが聞こえる。

それって、「籠絡されたのはユリウス様の方、って意味ですか??」と確認しにいきたくてたまらないのをカレンはぐっとこらえた。

貴族の女性たちは、むしろ婚約に興味があるようだった。

だが、剣呑な雰囲気の男性たちの手前、声をひそめていた。

「はあ……前からわかっていたわ。いずれこうなるって!」

「でも、なんだか悔しくないのよね。前はユリウス様に憧れていたのに」

「わたくしもよ」

令嬢たちについては、どうもカレンの予想とは反応が違っていた。

ユリウスを諦められずに目の前に立ち塞がる令嬢よ、来るなら来い、と身構えていたカレンは肩透かしを食らった気分である。

「ユリウス様、何だか最近は、年齢の割に言動が幼く感じてしまって……どうしてかしら?」

「狩猟祭でもねえ……ちょっと」

「ハンカチを受け取ってすらもらえないだなんて思わなかったわ」

ユリウスの貴族としてのマナー違反は、貴族として致命的な欠陥というより、子どもっぽい言動だと受け取られていた。

「あれが素のユリウス様のようですわ。カレン様のお側では、ユリウス様は素で過ごせるようです。お二人はお互いに想い合っていらして、とてもお似合いなのですよ」

若い令嬢たちの集いの中で、フォローしてくれるのはロジーネである。

「どんなに幼くたって、あの顔と強さだけで値千金よ!」

唯一聞こえてきたのが、誰はばかることなく「カレンがうらやましぃ~!」と喚くペトラの声だった。

実際のユリウスは苦手なのに羨ましがるのは、完全にユリウスをスペックでしか見ていないからだろう。

ある意味清々しいペトラにカレンはぷっと吹き出した。

「カレンが楽しそうで何よりだが、私が好き勝手に振る舞ったために私の価値が下がったから、君を羨む人が減ってしまったようで申し訳ない」

少し肩を落とすユリウスに、カレンは目を剥いた。

「わたしに対して誠実だっただけなのに、悪いと思わないでよ! ……羨望の目で見られなくっても、もういいんだから!」

「いいのかい? 君は、 そういうの(・・・・・) が好きだっただろう?」

「いいんだよ。わたしが最初ユリウスに惹かれたのは、男でも女でも、誰もが羨むような完璧な男性だったからだけど……今ユリウスを好きなのは、そういう理由じゃないからね」

「どういう理由だい?」

「それは――」

ユリウスの金の瞳が嬉しげにきらめいて、それを見たカレンの胸の奥でコトリと音がする。

それはときめきでもあり、ユリウスが喜んでくれていることそのものがただただ嬉しくもあった。

カレンが隣に寄り添うユリウスに小さな声で答えようとした時、ヘルフリートが続けた。

「新年祭の英雄とはならなかったものの、鮮血の雷が果たしたエーレルト領都三十階層の攻略もまた偉業である。鮮血の雷のリーダーのトールよ、こちらへ」

「そうだ、そっちにも褒賞があって当然だ!」

「余所者とはいえ、おれたちと同じ冒険者の活躍は誇らしいぞ!」

やんややんやと声をあげる冒険者に、近くにいた貴族が水を差す。

「それは違うぞ」

否定する声に聞き覚えがあってカレンがそちらを見やると、そこにいたのはアルバンだった。