軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新年祭

「……ああ。君のすべてが私の色に染まったみたいだ。心がくすぐられるような心地がするよ」

カレンを迎えに控えの間にきたユリウスが目を細めた。

狩猟祭から帰還して、数日後。

今夜は新年祭である。

その新年祭に出席するために、カレンは黄金色のドレスを身につけていた。

ユリウスがカレンに贈ってくれたものだ。

もはやユリウスとの関係を隠す気なんて微塵もない。

黄金色のドレスは落ち着いた色味で、下品さはない。

首元は金糸のレースで覆われているが、背中は深く開いている。

エーレルト伯爵邸内には魔道具が設置されていて温かいため、寒くもなかった。

「おや、そのネックレスは……」

「イヤリングも、前にユリウスにもらったのだよ!」

カレンは自身の耳元を見せる。

ピアスは付けたまま、イヤリングを身につけていた。

黄金のドレスと共にカレンが身につける宝飾品は、かつてジークの快気祝いのパーティーの日にお礼だと言われて贈られた、ユリウスの瞳の色の宝石のジュエリーセット。

「これをわたしにくれた頃のユリウスはまだ、わたしのことを好きじゃなかっただろうけど……わたしにとっては特別なものだから付けたかったんだ」

ユリウスはこのドレスに合うように、その日の気分で身につけられるようたくさんの宝飾品も用意してくれていた。

けれど、カレンはこれを身につけると最初から決めて、持ち込んでいた。

「それはどうかな?」

「うん? どういう意味?」

「私がいつから君を好きだったかについて」

「あの頃ユリウスははっきりと、わたしのことが好きなわけじゃないって言ってたよ」

カレンは苦笑した。

ユリウスがカレンに結婚を申し込んで、できれば受けてほしいと言っていたことがある。

それはカレンの後ろ盾にエーレルト伯爵家やユリウスがいるということを表明するためだけのことだった。

てっきりカレンは自分が好かれているのかと思いかけて、ユリウスに確認して赤っ恥をかいた。

あまりに苦い記憶なので忘れようがない。

ユリウスは苦笑するカレンの姿に目を細めた。

「あの頃の私は、というより以前から私は自分の感情を無視するように努めていたので、自分の感情に疎かったのだ。だから理解できていなかっただけで――実はかなり前から君に心惹かれていたような気がするのだよね」

「えっ……ええっ!?」

カレンがみるみるうちに目を丸くしていくのを、ユリウスはおかしげに見下ろして言う。

「さて、いつから君のことが好きだったのだろう」

「それ、すっごく気になる!! いつからなの!?」

「いつだろうね?」

ユリウスはせっつくカレンをおかしそうに見下ろして誤魔化すように美しく笑う。

だが、今更美貌の笑い一つで誤魔化されるカレンではない。

更にカレンが問い詰めようとした時、控えの間にヒョコッとジークが顔を出した。

「二人とも、イチャイチャしてないでそろそろ来てね」

「はぁい」

カレンは掴みかかっていたユリウスの腕と腕を組み、浮かれた笑顔でへらへら笑う。

ジークはそんなカレンを見て、ユリウスを見上げて、ぽつりと呟いた。

「……ユリウス叔父様、とても幸せそうな顔してる」

「そうかい?」

カレンはバッとユリウスを見上げたが、ユリウスはいつも通りの微笑みを浮かべている。

きょとんとするカレンを見て、ジークはくすっと笑った。

「カレン姉様の前ではユリウス叔父様はいつもそんな顔をしてるから、カレン姉様には違いはわからないんじゃないかな?」

「えっ、そうなんですか? いつから? いつからですか!?」

ユリウスに組んだ腕をホールドされ、カレンはジークに詰め寄るのを阻止された。

「さあ行こうか、カレン」

これから新年祭で、時間が押している。

致し方なく問い詰めるのを諦めたカレンは、エスコートするユリウスを横目に見上げて目を細めた。

「……ユリウスにもわたしの瞳の水色の服を着てほしいような、けれど黒の燕尾服姿があまりにも捨てがたいような」

「カレンは黒の燕尾服が好きだからね」

「バレてたかぁ」

「ああ。バレバレだから、私はこの格好をするのが好きなのだ」

カレンはふにゃっと蕩けかけたあとで、はっとして訊ねた。

ユリウスにも、好みというものがあるだろう。

「ユリウスはわたしのどんな格好が好き?」

「やはり錬金術師服かな。君が一番君らしい気がして、より一層美しく感じられる」

カレンは心の中で錬金術師服を贈ってくれたナタリアを褒めたたえつつ、ふと気づいた。

「それは、前から何となく知ってた気がする」

「バレていたか」

くすりと笑うユリウスを見上げながら、カレンは思い出した。

以前、カレンはユリウスの側にいるのが恥ずかしくていたたまれなかった。

好意が、下心があるのがバレバレで、側にいてごめんなさいとすら感じていた。

けれど錬金術師として立つ時には、それほどの恥ずかしさは覚えなかった。

そういえば錬金術師のカレンを見るユリウスの眼差しは温かく、どこか眩しそうで、敬意を感じられたからかもしれない。

それは、カレンが錬金術師としての力を示したからだと思っていたけれど――?

カレンはこの場でそれをユリウスに確かめるのはやめておいた。

ヘルフリートの待つ控え室に到着したユリウスが、緊張した面持ちになったからだ。

狩猟祭で、ユリウスはヘルフリートとやり合ったらしい。

ヘルフリートはむすっとした顔でユリウスをじっと見つめていた。

カレン的には、ちょっと恐そうな顔をしているいつも通りのヘルフリートである。

だが、緊張感を漂わせるユリウスに釣られて、カレンもまた固唾を呑んでユリウスに寄り添った。