軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エーレルト領都邸

「ねーちゃんおかえ――おい」

カレンとカレンに駆け寄ったトールの間に割り込むユリウスを、トールはじろりと見やった。

「なんだよ。ねーちゃんとオレの間に入ってくんなし」

「…………弟は、仕方ない、か」

長い考慮の末に退いたユリウスを困惑のジト目で見やりつつ、トールはカレンに抱きついた。

「ただいま! トールもおかえり!」

カレンたちがエーレルト領都に戻ってきたのは、新年祭の直前だった。

うずたかく雪が降り積もった街道を、主に狩猟祭の獲物を運ぶのに手こずって、最後には狩猟祭の参加者だけ先行してやっとエーレルト領都に到着した。

エーレルト伯爵家の領都邸でカレンを出迎えたトールは貴族の子弟風の格好だった。

他の仲間たちも各々貴族風の格好をしていて、全員揃っていて、ピンピンしている。

エーレルト伯爵家が用意した服だろう、すっかりくつろいだ様子である。

「ねーちゃん! 今年のエーレルトの新年祭の顔、オレになったぜ!」

「ってことは――エーレルト領都ダンジョンの三十階層を攻略したってこと!? おめでとう!!」

「へへっ」

新年祭の顔。つまり、新年祭の広間に飾られる肖像画の主となったということ。

それほどの偉業といえば、トールたちが挑戦していた三十階層の攻略の他にない。

そして、三十階層を攻略したということは、トールたちはAランク冒険者へ昇級条件を満たしたということである。

お祝いごとが目白押しである。

トールが誇らしげに照れた時、カレンの最近とてつもなくよくなった耳が新年祭のために集まっている貴族のささやきを拾った。

「余所者の平民冒険者などを仰ぎ見なければならないとは」

「エーレルトの名誉も形なしだな」

「せめてヴィンフリート様の肖像画であれば――」

カレンの視線に気づいたのか、貴族たちがはっと息を呑んで口を噤んだ。

他者には聞こえないくらいに抑え込んだはずの小さな声が相手に届いてしまった場合、大抵相手は上位者である。

気づけば、トールもカレンと同じ方向を無表情で見つめていた。

そして、トールもまたカレンが同じ言葉を聞いていたことに気づいたらしく、目をまん丸にした。

「ねーちゃん、今の聞こえてたのか?」

「ふふん」

カレンが得意げに胸を張ると、トールは愕然とした。

「えーっ!? 待ってくれよ。おまえら今の聞こえたか?」

「あの貴族たちの陰口よね?」

「陰口だってわかってるなら、ワンダには聞こえてたってことか?」

「あいつらの目つきを見れば陰口に決まりきってるでしょう。聞こえはしないわよ……でも、カレンさんに聞こえたのね」

「ワンダ、おまえの魔力量、Sランクだよな??」

それを聞いてカレンも目を丸くした。

カレンはブラックドラゴンを討伐後、賢者の石の作り方のヒントに気づいて階梯を昇ってからまだ魔力量を測っていない。

「えっと、ユリウスには聞こえた?」

カレンがユリウスに親しく話しかけたことに気づいたトールがぎょろりとユリウスを見やる。

だが、ユリウスはトールを一瞥もせずカレンに向かって微笑んだ。

「ああ、私は聞こえたが――カレンの魔力量はSランク以上になっているようだね。おめでとう、カレン」

「わたしがSならユリウスは何??」

「一応、ダブルレアの魔力測定器で測ったことがあるが、上限を指し示していたね」

「ふーん、そいつはオレと同じだな、ユリウス!」

トールが張り合うように言う。

カレンはぽかんとして言った。

「みんな、たくさん魔力があってすごいねえ」

魔力量が多いのはわかっていたものの、Sランクを優に超えていたらしい。

ユリウスのすごさはわかっていたつもりだったが、思っていた以上にすごい人たちに囲まれていたのだと、カレンはびっくりした。

「いや、すごいのはねーちゃんだから」

「そうよ! 元はDランクよね? どうやってそこまで昇ったっていうのよ!? 私だって階梯は何度も昇ったけど、魔力量はせいぜい一ランク昇ったかどうかよ!?」

「えっ!? 魔力って階梯を昇るごとに一ランク上がるものなんじゃないんですか?」

「そんなに簡単に増えたら苦労しないわよ!! カレンさん、あなた何をしたの!?」

カレンに掴みかからんばかりの勢いのワンダを遠ざけたのは、ユリウスだった。

「もちろん、様々なことがあったのだ。帰還したばかりでカレンも疲れている。もう部屋に下がらせてもらっても構わないかな?」

「確かに。ワンダ、おまえはすっこんでろ」

「リーダー! 魔法使いにとって魔力がどれだけ重要か、知ってるでしょ!?」

「おう。でもねーちゃんよりは大事じゃねーからさ。ユリウス、こいつはオレが抑えてるからねーちゃんを連れていってくれ」

「カレンさん~!」

カレンはユリウスに肩を抱かれて歩かされ、涙を流すワンダとはお別れとなった。

「わたし、そんなに疲れてないし、元気だから説明できるのに」

「だがすぐに休みたくもあるだろう? 風呂の用意もできているはずだ」

「お風呂!!」

目の色を変えたカレンにユリウスはくすりと笑った。

「先触れが送られているので、すでに入浴の準備は整っているだろう」

「一緒に入る? なんて――」

軽口を叩くカレンに、ユリウスは赤面した。

初めて見るユリウスの表情にカレンはきょとんとした。

「えっ?」

「――なるほど。そのようなことをしてもよいのか」

口許を抑えて顔を背けるユリウスの横顔を見て、カレンもじわじわと頬に朱を登らせていく。

「あの、えっと、今のはその、冗談で――」

「わかっている。結婚もしていないのにそのようなこと、できるはずがない。君の体面のためによくない、と、わかっているが……」

ユリウスは顔を背けつつ、赤い顔をして横目でカレンを睨んだ。

「君が私を誘ったのだから、結婚した後は覚えておいてほしい」

久しぶりに首筋まで真っ赤になるカレンを責める目つきで睨むユリウスもいつになく赤い顔だった。

カレンはユリウスを見上げ、赤い顔のままふにゃふにゃの笑みを浮かべる。

ユリウスはそんなカレンを見下ろして不満げな顔をすると、カレンの緩んだ頬を掴んでもみくちゃにした。

カレンは子どものように笑い声をあげ、ユリウスも釣られて笑い出した。