軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

達成報酬2

まず何より気になるのはユリウスの反応である。

元はといえばカレンが自分から望んだくせに、妥協したくないとは何事か。

カレン自身そう思うのだから、ユリウスは尚更だろう。

恐る恐るユリウスの方を見れば、目を丸く瞠っている。

妥協したくないと言われて振られることがどれだけ辛いかカレンはよく知っている。

ユリウスがカレンに惚れていたら、本当にひどい悲劇になるところだった。

だが幸い、ユリウスがカレンに惚れるわけがない。

ユリウスは驚いている様子ではあるが、傷ついたようには見えない。

あたりまえのことを確認すると、カレンはヘルフリートに向き直った。

「……遠慮にしては、斬新な言い分だ」

まだヘルフリートはカレンが報酬としてユリウスを もらう(・・・) のを遠慮していると思っているらしい。

この人を納得させるために、カレンは言葉を尽くさなくてはならないのだ。

「ずっと、勉強がしたかったんです」

前世、本当は兄や姉のように部活をして、自分の力を試したかった。

両親が大変そうだなと勝手に気を使って、部活もせずに家に帰って、家事炊事を肩代わりなんてしたくなかった。

本当は大学に通いたかった。

奨学金制度で通うことも考えたけれど、日和って、結局就職した。

勉強をして、自分の力で大企業に入り、働きたかった。

バリバリ働く誰かを支える人間になりたかったわけじゃない。

なのに、支えることで何かになった気持ちを味わおうとしていたのだと思う。そうすることに慣れていたから。

彼氏のために支えていたのではなかった。全部、自分のためだった。

だから妥協したくないなんて言われたのかもしれない。

自分のことしか見えていないのに自分の人生を一歩も前に進めようとしない人間を背負って生きていく人生で、一体誰が妥協したいと思うだろう。

「十二歳の頃父が失踪し、婚約者は生死の境を彷徨い、平民学校をやめるか悩みました。それでもしがみついて卒業まで通いました。錬金術師も、細々と続けています。勉強したかったからです。勉強した分野で働いて、自分の力を世の中で試してみたかったからです」

だけど、忙しくてすっかりその気持ちを忘れていた。

それに心のどこかで怖じ気づいて尻込みしていた。

自分の力を世の中で試せば、自分が取るに足らない人間だと気づかされてしまうかもしれないから。

自分がちっぽけな人間だと思い知るのが嫌で、騎士となったライオスの婚約者という身分で、妥協しようとしていた。

そんな人間、ライオスだって願い下げだったろう。

酒の勢いがなければ、ジークの依頼だってぐずぐずと受けず、研究がすんでからにしようと先延ばししていたに違いない。

そしてきっと、手遅れになっただろう。

「ジーク様のお体を治せて、とても嬉しかったんです。わたしの力が、学んだことが活きて、試行錯誤が通用して、そのことでみんなに感謝してもらえて……涙が出るほど嬉しかった」

ジークとアリーセの橋渡しをしたあの日、屋敷中の人々から感謝されて、カレンはボロボロに泣いた。

あの時間は、カレンにとっても生涯の宝になるだろう。

「わたしはこれから、錬金術師として働きたいんです。自分の人生を、自分の道を、自分の力で切り拓いて進んでいきたいんです」

「……カレンは、何が欲しいの?」

「ジーク」

「父様。報酬は思いのまま、ですよね? カレンが本当に望むものをあげるべきだと思います」

ジークの言葉に、ヘルフリートは反論しなかった。

カレンの望みは別にあるということが、確かに伝わったのだ。

ジークの問いに、カレンはごくりと唾を飲んで答えた。

「鑑定鏡が欲しいです。あれがあれば、もっと色々な研究ができます」

初めて見たときからこれが欲しかった。

ジークが毒殺されかけたときは正直、諦めようかと思ったものの――そもそも食べ物に混ぜても壊れない毒物はポーションではないから、鑑定に引っかからない。

先日の夕食会で鑑定鏡が功を奏したのは、カレーが元々ポーションだったからだ。

これまではカレンという錬金術師がポーションだと言って出していたから鑑定していただけで、いちいち料理を鑑定することはないと、サラから聞いた。

だから、いつも鑑定前にサラが毒味をしていたのだと聞いた――鑑定に引っかからないような毒があるのならば、先にサラが食べることで毒物が混入している場合は結果が早くわかるように。

だからカレンが鑑定鏡を望んでも、ジークにただちに危険が及ぶわけではない。

けれど本当にカレンが欲しいと望んでいいものなのか。

鑑定鏡があれば助かるような危険が今後、ジークたちに降りかかることがあるのだろうか。

「もし難しければ、別の魔道具でも――」

「『報酬は思いのまま』という文言を違えるつもりはない」

つい妥協しかけるカレンに、ヘルフリートは重々しく言った。

「いいだろう、カレン。達成報酬として、君に鑑定鏡を授けよう」

「ありがとうございます!!」

カレンは満面の笑みを浮かべて勢いよく頭を下げた。

ヘルフリートは息を吐くと微笑んだ。

「錬金術師カレン。私たちは、君の働きに心から感謝している。君の前途が女神の慈悲に満ち、明るいものとなるように祈っている」

「ありがとうございます、伯爵様!」

錬金術師としてのカレンの仕事に感謝し、その前途を寿いでくれるヘルフリートの言葉に、カレンは顔をくしゃくしゃにして泣き笑った。